人外VS古龍2
続きです。
ごゆっくりお読みください。
『では、手合わせ願おうか』
ジンが三十メートルを超える黒の巨体を揺らしながら、軽く頭を下げる。スポーツなんかで試合前にやる礼だが、わざわざこんなことをするジンはよく言えば律儀な奴だ。悪く言えば堅苦しいってことだけどさ。
「あんまり気乗りしないんだがな」
正直もう疲れてきた。肉体的な疲労はすぐに回復するが、如何せん興が乗らないことを続けて六回もやるとか、精神的に疲れる。
『二人とも、いいね? じゃあ、始め!』
ディールの確認に頷きを返し、戦いの火蓋が切って落とされた。
「先手必勝、だっ!」
大地を砕き、タイムラグほぼゼロでジンに肉薄。全力とは言わないが、それでも十分に力を込めた右ストレートを打つ。
『ヌンッ!』
ジンが体勢を低くし、黒曜石の如き龍鱗で防御の構えをとる。
ドォン!!!
俺の右手とジンの体が接触し、凄まじい衝撃を生む。
反動で吹き飛んだ俺は普通に着地し、ジンを見据える。
『ふっ、魔法に頼る軟弱者どもとは違うだろう?』
無傷のジン。全身が黒く染まったドラゴンは、不敵に笑む。
『次はこちらから行くぞッ!』
ジンがその巨体からは想像もつかないような速度で接近し、長大な尾を振るってくる。
「くっ……!」
腕をクロスして尾の一撃を防ぐ。あの熊以来の衝撃に、思わず顔をしかめてしまう。
『これでどうだッ!!』
続けざまにジンが頭突きを繰り出してくる。高低差三十メートル超、その上に俺の一撃を余裕で耐える硬度が合わされば、潰せぬものは無いだろう。
まぁ……
『マスターを除いて、ですけどね』
思考でも読んだのかと思わせるハルの発言に胸の中で賛同しながら、漆黒の鉄槌に向けてサマーソルトキックを放つ。
その脚には、虹色の装甲。
『グガァッッ!?』
俺の蹴りとジンの頭突きが衝突し、ジンの頭が跳ね上げられる。
「……これで生きてるとか、硬すぎだろうよ」
『手加減してたんですから、当然でしょう』
脳が揺らされてフラフラとしつつも、まだ立っているジン。
「満身創痍でも立ち向かうのはカッコいいが……終わりにしようかっ!」
『グフ、アハァッ……!』
足取りの覚束ないジンの腹部に、突き上げるように飛び蹴りを入れる。
今度はダメージが通ったようで、ジンはうつ伏せに倒れてしまった。
『……気絶してるね。シンイチくんの勝ちだ』
これで四連勝。前の三人よりも遥かにタフだったジン。おかげで筋肉疲労が結構激しい。
『……ジンを打撃で沈めただァ? ハッハー! こいつは面白ェ! 面白すぎだぜェ!』
カインが大興奮である。あいつとも戦わなきゃならないんだよな。そう考えると憂鬱だ……
『やっと僕の番だね。古龍にまでなったドラゴン四体を打ち破った実力、味わわせてもらうよ』
ディールか。落ち着いた印象のある奴だが、目を見て分かるのは、こいつもドラゴンだということだな。静かな闘志を燃やしている。
「……ご期待に添えるよう、頑張りますよ」
ジンとの勝負で酷使した身体はもう回復済み。細胞一つ一つに意識を巡らせるつもりで出力を上げていく。どこまでいけるかは分からないが、大分強くなったはずだ。
『クソッ、始めだ始めェ!』
『【水泡】』
ラストに残ったカインが悔しそうに怒鳴り、ディールが魔法を発動する。
ブクブクという音がして周囲にシャボン玉のような泡が無数に浮かび上がった。
地面に落ちた泡がバン! と破裂し、土を弾き飛ばした。結構威力があるらしいな、移動の邪魔になる。
『【蒼泣天雨】!』
ディールが唱えると、雨が降り始めた。ポツポツと弱々しかった雨は徐々に勢いを増していき、刺すような鋭さを伴い出した。
天からの涙がついには地を穿つようになった時、浮かんでいた泡が一斉に弾けた。
泡が邪魔で動けなかった俺はその爆風を受けるが、それは全く問題無い。
むしろ、それによって生まれた霧がマズイ。視界が悪くなり、ディールがどこにいるか分かりにくい。
『【水流蒼槍】!』
そんな声が聞こえてその方向を振り向いた時、ピッ! と頬を何かが掠めた。
冷たく熱い感覚に指先で触れると、微かに血が滲んでいることが分かった。
「……高圧水流か? だとしたらこの霧は計画的に生み出したものってことか……」
移動を阻害するために泡を作ったなら、雨で消すなんてことはしないだろう。まして、ディールは頭が回るタイプっぽいしな。
故に、この宙を舞う微細な水がウォーターカッターの元になっていると考えられる。
ピシュッ、ピシュッ、ピシュッ!
前から後ろから、縦横無尽に水のレーザーが撃ち出される。辛うじて視認できる速度なので、間一髪で避けていく。
……このままじゃジリ貧だな。
「この調子なら、向こうからもこっちは見えてないだろうな」
辺り一面が白く染まっていて、十メートル先も判然としない状況だ。
そこで、思い切って直上に跳躍する。
霧を突き抜け、幾多の魔法陣を同時に操るディールを遥か下に捉える。その目は霧に集中していて、俺が上空にいるとは気づいてなさそうだ。
「ハル、槍になってくれるか?」
『……やれやれ、マスターはハル使いが荒いですね』
嘆息するフリをしながらハルは細長い投げ槍に変形する。意図を汲んでくれたのか、穂先は潰して。
「さて、死んでくれるなよ……!」
空中でハルを振りかぶり、ディール狙って投擲する。
風を切って高速落下するハルにディールが気づいたが、ほんの少し足りない。
魔法に集中していたからか回避が遅れ、ディールの首筋にハルがぶち当たる。突き刺さらなくてよかった……
倒れ込んだディールを見下ろしながら、俺も落ちていく。ちょっと高く跳びすぎたな。
三十秒かけてやっと着地。霧はもう晴れていることから、ディールは戦闘不能なんだろうと推察する。
ハルを回収して身体を休めようとすると、狂ったような叫び声が飛んできた。
『ハハハハハァッ! いいねいいねいいねェ!! 全く、最ッ高だねェ!』
深紅に彩られたカインがギラギラとした視線を送ってくる。うざったい。
『さァ、最後はオレだァ! めんどくせェ合図は無し、端ッから全開でいかしてもらうぜェ!!』
「休憩させてくれよ……」
俺の呟きは聞こえなかったか無視したか。牙の間から灼熱の炎を覗かせるカインは、ワースのものとは比べものにならないほどの魔法陣を頭上に展開した。
『こいつがオレのフルパワーだッ! いくぜ、【龍獄焔】ッ!!』
優にカインの三倍はあろう魔法陣の中央から、手のひらサイズの真っ赤な球体がポッと飛び出た。
あれがフルパワー? と思っていると、ブレスレットに戻っていたハルが焦りの色を声音に混ぜた。
『超高密度の魔力を確認! あれが爆発すれば、大陸の四分の一が焦土と化します!』
は? いやいや、何て魔法を使ってんだよあの戦闘狂は!
「チッ! なんとかするしかない!」
駆け出し、全身全霊の一撃を球体、もとい凝縮された地獄の業火に放つ。
……全身全霊の猫だましを。
上半身どころか下半身の筋肉までもが千切れそうなほどの痛みで限界を訴えているが、それを振り切って両手を叩き合わせる。
完全に音速を超えた一拍。
直後、音の爆発が起きた。
次いで、何もかもを吹っ飛ばす猫だましの衝撃でカインの龍獄焔が炸裂する。
ただし、俺の目論見通りに誰もいない虚空へと、だが。
猫だましが生んだ衝撃波が龍獄焔の爆発力を凌駕した、のだと思う。
眼前で太陽が落ちたのかと思うような熱が荒れ狂い、大地を溶かしていく。
バロックたちを背に行ったことなので、バロックたちには灼熱地獄の苦しみは襲いかかっていない。
……ゴロゴロと転がる古龍たちを見るに、猫だましの影響は受けたみたいだが。
『……フルパワーを無効化されるとか、もはや笑えねェ、ぜ……』
本当に全開の一発だったようで、カインは膝をついている。まともに立っていられないほどに魔力を消費したんだろう。
「それはこっちのセリフだ……」
全身に走る苦痛を一度無視して、カインに歩み寄る。
「こいつで、終わりだ……っ!」
動けないカインの腹に、右の掌底を打ち込む。
『ゴハッ……! て、テメェの、勝ちだ、シンイチ……』
「……ああ、俺の勝ちだ」
ズシン、とカインが倒れ伏す。
……ふぅ。
六体の古龍を連続で相手にして、全てを打ち倒した。
……カインの本気は、少しマズかったな。
身体中から力が抜けていく。
重力に引かれるままに倒れていくが、何かに背中を支えられる。
「お疲れ様だ、ワタラセ」
「……ありがとよ、バロック」
力が入らない俺をバロックがそっと抱き止めてくれた。
「少しだけ、このままでいさせてくれ……」
「……もちろんだ」
回復するまで、このまま……
ここで、俺の意識は途切れた。
一応、
純ミスリル<ジン≦ハル
みたいな感じです。
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