モヤモヤバロック
最後以外はバロック視点です。
ごゆっくりお読みください。
猫人族の町に着いた。ワタラセはここにいるユリアとかいう奴に会いに来たそうだ。
しばらく歩いて、大きな家の前に来た。どうやらユリアとやらはここに住んでいるらしい。
奇妙な黒い服を着た猫人族の老人に案内されて、家の中を歩いていく。これまた大きな扉を潜ると、ワタラセに向かって小さな猫人族の少女が飛びついた。
「シンイチー! あそびにきたのかー?」
「久しぶりだな、ユリア。今日は目一杯遊んでやるよ」
「やったー!」
なるほど、こいつがユリアか。随分と幼いようだが……
「シンイチ殿、久しいにゃ!」
「お久しぶりです、とは言ってもまだ二週間とちょっとですけどね」
「そんにゃ時間さえユリアにとってはにゃがかったみたいだぞ?」
「シンイチー、にゃにしてあそぶー?」
ユリアの父だろう猫人族の男性がワタラセに親しげに話しかけ、ユリアはワタラセの背中で爪を研いでいる。むぅ、痛くないのだろうか?
「うん? シンイチ殿、そちらの女性は?」
む、我のことか?
「こいつはバロックっていって、えーと、仲間……みたいなもんですね」
「ほほう……シンイチ殿、やはりおとにゃの女性にも興味があったのか?」
「そんなんじゃないですよ……」
「隠さにゃくともよい! 男にゃらば欲を持つのは当然のこと。ユリアの幸せを忘れさえしにゃければ、それでいい」
「……忘れませんよ。ユリアのことも、あいつらのことも」
「はっはっは! 流石はシンイチ殿だ!」
むむむ、我の入る隙が無いぞ……
ふと気がつけば、ユリアが目の前にいた。なんだ?
「にゃんでおっぱいおっきいのー?」
ユリアの小さな手が伸ばされ、我の胸に触れる。そのまま数度揉まれる。な、なんだか変な感じがするぞ……
「……ユリア、バロックが困ってるからやめてやれ。それより、この前やった『メリーゴーランド』やろうぜ」
「あのグルグルするやつー? やるー!」
むず痒いような気分になっていると、ワタラセがユリアを抱っこして外に行ってしまった。むぅ、我のことは無視か!
「あなた、鼻の下が伸びてますよ?」
「り、リリアン!? こ、これは違うんだ! そんにゃつもりは全然にゃくてだにゃ!」
「あら、それじゃあどんなつもりがあったのか、詳しく聞かせてもらおうかしら?」
先ほどの男性は、恐ろしく綺麗な笑顔の女性に耳を引っ張られて出て行った。我だけが部屋に置き去りにされてしまった。
「むぅ……」
「……お茶をどうぞ」
「む? ああ、ありがとう……」
さっきの猫人族の老人がくれたお茶は、なかなかに美味かったぞ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
そのままユリアの家に一泊して、次は犬人族の集落に向かうらしい。
昨晩はユリアの頼みで、ワタラセと我とユリアで寝たが、ワタラセが近くにいると思うとどうにも落ち着かなかった……
また走って移動。今回もワタラセは表情一つ変えないで我の先を走っていた。むぅ……
「シンイチさん!」
「エレン! 久しぶりだな」
「会いたかったです! シンイチさんがいない間、寂しかったんですよ?」
「……俺もだよ」
「シンイチさん……」
集落に着いて真っ直ぐ向かった家で、今度はエレンという犬人族の少女がワタラセに抱きついた。むぅ、ハルと同じくらいか……
……なんだかモヤモヤするな。昨日とは違う感じで落ち着かない。
だから、なんとなくでワタラセにくっついてみた。別に他意は無く、ただそうしようと思っただけ。何故かは分からないが、そう思ったからやった。
ーーーーー恐怖。
「シンイチさん、この人は誰ですか……?」
今まで潤んでいたエレンの瞳が、急速に光を失ったような気がする。その目に映るのは、純然たる恐怖のみ。
我が、古龍たる我が恐れを抱くだと……?
「あー、エレンさん? こいつは旅仲間で、バロックって名前なんだ。別に変な関係とかじゃないからな?」
ワタラセが答えるが、若干その顔は引き攣っているように見える。
「そうだったんですか。私はエレンと言います。よろしくお願いしますね、バロックさん?」
「う、うむ。よろしく……」
一気に空気が緩んだ。しかし、言えたのはこれだけ。この娘、只者ではない……!
その後は、エレンの家族だという犬人族たちに歓迎されて美味しいご飯をご馳走になった。あの青い野菜はそこそこに美味かったな。
……今日はエレンと一緒に眠ると言って、ワタラセは別の部屋で眠った。これはこれで、落ち着かないものだな……
「むぅ……」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
エレンと別れ、エルフの里に向かう。最後に見たあの娘の笑顔が恐ろしいと思ったのは、我だけだったのか……?
深い森の中を、ワタラセの背に乗って疾駆する。木々が次々と道を開けていくのはおかしな光景だ。
数分もせずにエルフの里へ。
「やあ、晋一くん。それに、隣にいるのはもしかしてバロックかい?」
着いて早々向かった先で、思わぬ人物に出くわした。
「知ってるんですか?」
「うん。昔リオスに行った時に、興味本位でスカイウォールに挑んだんだよ。その時に知り合ったんだ」
「興味本位で、って……」
懐かしいな。もう五百年は前の話だったか? エルフがリオスにいること自体珍しかったからな、印象深いぞ。
と、そこに一人の可愛らしいエルフがやって来た。もしやキリルの娘か?
「し、シンイチじゃない! 来るなら来るって言いなさいよ!」
「無茶言うなよ、リリシア……元気だったか?」
「あ、はぅぅ……げ、元気だったわ。シンイチは……?」
「おう、俺も元気だったぞ」
ワタラセに優しく頭を撫でられ、耳まで真っ赤にするリリシアとやら。というか、またしても小さいぞ……
「……シンイチ、あの人は?」
「ん? ああ、あいつはバロック。俺の仲間のような奴だ。悪い奴じゃねぇよ」
「そ、そう。仲間ね、仲間……」
む? リリシアがチラチラとこちらを見てくるが、我の体に変なところでもあったか?
「晋一くんは、今日は何の用だったんだい?」
「リリシアに会いたくて来たんですよ」
「ひぁっ!? なななっ、何言ってるのよ!」
「リリシアは、嫌、だったか?」
「え……そんな、誰も嫌だなんて言ってないわよ……その、私も会えて嬉しいし、ごにょごにょ……」
「ならよかった」
……楽しそうに話して、我のことは忘れてるのか?
何故か、息が苦しくなった気がした。
「……むぅ」
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よく分からないエルフの男がワタラセに挑んで呆気なく返り討ちにあった後は、キリルの家に泊まることになった。その日もワタラセとは別の部屋で、我は眠ることができなかった。
今日は狐人族の里へ行くらしい。結構離れているから、ワタラセに背負ってもらうことになった。
落ちないように、しっかりと腕を回す。ギュッと、離れないように。
……こうしてると、苦しくないな。
しばらくして、山の麓に着いた。ここに狐人族の里があるというのだが、それらしきものは見当たらない。
そこで奇天烈な出来事があった。
ワタラセが山を登ろうと一歩踏み出すと、山が一歩分離れた。
次に駆け足で走ってみるが、進んだ分だけ山が遠ざかっていく。
不可思議な現象に首を傾げていると、ワタラセが何かをした。速すぎて見えなかったが、多分腕を振るったのだと思う。我の目でも捉えられぬ動きとは、やはりワタラセは……
そう思った時、何かが割れるような音がした。それに頷いたワタラセが歩き出すと、今度は普通に山に登れた。山の中ほどには、さっきまでは無かったはずの穴が空いていた。
「……シンイチ、久しぶり」
「久しぶりだな、カグラ」
「……会えて、嬉しい。好き」
「いきなりだな……まぁ、俺も同じ気持ちだけどさ」
「……それは、どっちが?」
「……どっちも」
穴を通って地下に行くと、そこは一つの町だった。その中でも特別に大きな建物に向かうと、カグラという狐人族の少女がワタラセの側に寄り添った。
……ちょっと待て、今、好き、と言ったか?
「……シンイチ?」
「おおう、その目はやめてくれ。こいつはバロック。一緒に旅をしてる仲間、って感じか」
「……浮気、ダメ」
「いやいや、してないから」
カグラはワタラセの腰にしがみつくと、我を見据えた。
「……シンイチは、渡さない」
「ぁ…………」
ジッと心の奥を覗かれる感覚と発されたその言葉に、我は言葉を失った。
「おいおいカグラ、初対面なんだからもうちっと仲良くしろよ……」
「あらあらあら。とても美しいお方を侍らせて、貴方様は手癖が悪い」
「うわっ。ヤヨイさん、いたんですか」
「くすくす、驚いた風に見えないのが残念です」
気がつけば、すぐ近くに狐人族の女性が立っていた。我のものよりも薄い紫色の髪をもつ、目の細い女性。
その目が我の方を向いた瞬間、薄っすらと開かれた。カグラとは違うが、心を覗かれる感覚がある。
「おや……? くすくす、貴方様は本当に罪な殿方で……」
「ヤヨイさん、からかわないでください……」
「……シンイチ、お昼寝する」
「あら、それなら私が教えたことを実践してみなさい、カグラ」
「! ……頑張る」
「いや、頑張らなくていいぞ? ヤヨイさんも、変なこと教えないでください」
「あらあら、私は貴方様に恩返しをと思っただけですのに……」
妖しく笑うヤヨイという狐人族と、少し顔を赤らめてシンイチを引っ張っていくカグラ。
無表情だが楽しそうな、ワタラセ。
……なんなんだ、この気持ちは。ぐちゃぐちゃして、まとまらない。
「……むぅぅぅう!」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ふぅ、皆元気そうで何よりでしたねっと」
狐人族の里を出たところで、軽く伸びをする。全員が無事で安心した。
ユリアの背が少し大きくなってる気がしたな。それと、エレンはかなり積極的だ。リリシアは相変わらず素直じゃなかったけどな。カグラは着実にヤヨイさんに毒されていってるのが気がかりだ……
なんにせよ、あいつらに会えてよかった。やる気出てきたし、金は手に入ったんだから、次は家を建ててくれる人でも探しますかね。
「よし、バロック、そろそろ行くぞ。乗ってくれ……って、バロック?」
振り返ると、そこには酷く真剣な顔つきのバロックがいた。
「ワタラセよ、お願いがある」
その表情のまま、バロックがお願いの内容を告げた。
「我とともに、スカイウォールに来てくれないか?」
さぁ、バロックのお願いの真意は?
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