脱出
今回は全く話が進みません。
ごゆっくりお読みください。
「ワタラセ、何をするんだ?」
「エレベーターごっこ」
バロックを背負ったまま最下層に戻る。ハルは俺とバロックの頭をカバーするように広がっている。
「ん、ハル、準備はいいか?」
『はい、いつでも大丈夫です』
よし、ここなら床が抜ける可能性も無いし、安心してできるな。
「バロック、しっかり掴まってろよー」
「む? 分かったが、一体何をすうぉぉお!?」
ギュッと首に巻きつけた腕に力が込められたのを確認し、背中に伝わる柔らかさを振り払うように垂直跳びをする。全力で。
急激な上昇に驚いたのか、耳元でバロックが叫ぶ。その大声に顔をしかめる間も無く、頭上からズガン! という音がした。その後も止むこと無く、ズガンズガンと衝撃が走る。
ラストの破砕音が響き、俺たちは地上に飛び出した。勢いのままに数百メートルほど飛び、落ちていく。
しがみつくバロックにあまり振動がいかないように着地。展開していたハルがブレスレットに戻った。
「一発で外に出られるとはな……って、マジかよ……」
バロックを下ろしつつ周りを見ると、多くの冒険者たちがポカンとした顔で俺たちを見ていた。その光景に、思わず溜息が漏れてしまう。
「……バロック、宿屋に戻るぞ。飯はその後な」
「おお、待てワタラセ!」
『マスターは人間ではなかったのですね。知ってましたが』
「いや、俺は人間だ……と思う」
チラッと後ろを見ると、穴が開いた迷宮。土や岩でできた天井を二百五十枚ぶち抜く人間が、本当に人間かは怪しいな。ハルの言葉は少し毒が強い気がするが。
前に向き直り、できる限り早く歩を進める。後方で続く沈黙から逃げるように。
これからまた変な噂が流れるんだろうな……
宿屋に着いた俺たちは、一先ず体を洗うことにした。土や埃で汚れまくりの状態で食事処に行くのは失礼だろう。
俺がいるのも気にせずにバロックが服を脱ぎ出したり、それを見てしまった俺をハルが弄ったりと、ちょっとしたトラブルはありながらも汚れを落としたので、お待ちかねのご飯タイムである。
……のだが。
「……バロック、何を頼んだ?」
「む? 『チル鳥の丸焼き』とかいうやつだぞ」
「……悪い、聞き方を間違えたな。いくつ(・・・)頼んだ?」
「なんだワタラセ、もう忘れてしまったのか? 五つ……あれ、六つだったか……?」
七だよ、アホ。
今、厨房の方からは嬉しいのかなんなのかは知りたくもない悲鳴が上がっている。
チル鳥。この世界では高級品に分類される食材なんだが、それを七羽分も注文したのはこのドラゴン様。一羽だけでも銀貨五枚というお値段なのに、それを七羽……
「……まぁ、いいけどさ。金はあるし」
腰に下げた袋の中身を確認する。そこには、金色の銀貨が八枚。濁さずに言うと、金貨が八枚ある。
さて、どこからこんなお金を? と思ったあなた。俺は一週間前にドラゴンを倒していたのを覚えているだろうか。あの赤いドラゴンの鱗なんかを素材としてギルドが買い取ってくれた、それがこの八枚の由来である。
……本当なら白金貨一枚以上の値がついてもおかしくないらしいが、俺が胴体部分をぐちゃぐちゃにしてしまったから安くなった、らしい。十分すぎる気もするがな。
「お待たせしました、『一皿目』でございます」
料理を運んできたウェイターに、バロックはキラキラと目を輝かせ、俺はそれを見て軽く嘆息する。今のウェイター、強調してたな。
「しかし、豪快なもんだな」
鳥を丸々一羽焼いただけの料理。もちろん、香辛料なんかで味を整えたりはしてるんだろうが、いかにも冒険者っぽい料理だと思う。
「食べていいか!? いいよな! はぐっ!」
勝手に自己解決して鳥に齧り付いたバロックは、思いっきり肉を噛みちぎる。その様はまさにドラゴンだな。
「美味い! 美味いぞワタラセ!」
「……そうか。じゃ、俺も頂きますかね」
バロックが齧ったのとは別の場所を、ナイフで切って口に放り込む。
「ん。確かに美味いな、これは」
皮はパリパリに焼けている。一噛みする毎に肉が程よい弾力とともに旨味を感じさせてくれるが、油っぽさなんかは無い。食感は……ササミっぽいだろうか? 食べたのは胸肉だけどな。
また、スパイシーな味付けが食欲を促進させる。すぐにナイフで新しく肉を削ぎ、食べる。バロックは相変わらずかぶりつくスタイルのようだ。
そうして、あっという間に一羽分の肉を食べ終えてしまった。そのタイミングを見計らったように、ウェイターがやってくる。
「お待たせしました、『二皿目』でございます」
あ、まだ六皿あるんだっけ。この調子なら食い切れる気もする。バロックも余裕だろうし、ギリギリ七羽いけるはずだ。
俺は、再度肉を削ぎ落としにかかった……
……あえて言おう、まだいけると。
七羽分の鳥肉をバロックと半分ずつ胃袋に納めたが、まだまだ食べられる。別にここで食べるのを止めても問題は無いし、お腹も空いてはいない。だが、食べられる。
「ふむ、次は何を食べるか……」
珍しく真面目な表情のバロックだけれど、考えてるのは飯のこと。
と、そこで気になったことが一つ。
「ハル、お前は何も食わなくていいのか?」
『オリハルコンに食事は不要です。私の意思を保つには魔力を必要としますが』
「魔力を? 俺の魔力で足りてるのか?」
『……ふふっ。マスターはユーモアのセンスもあるんですね』
ムカついた。
「……俺のじゃ足りないということは分かった。分かったが、まだ魔力はいらないのか?」
『はい。ぶっちゃけ、空気中の魔力で事足りますので、空気中の魔力で』
「そ、そうか……」
なかなかにムカついた。この子は時折ウザい。まぁ、悪い奴ではないんだけどさ。
『そんなことよりもマスター。私を着けていて重くないのですか?』
唐突な質問だな。
「別に。お前って重いのか?」
『……マスター、レディに聞くことではありませんよ?』
「お前から言ってきたんだろうが」
『まぁ、私はオリハルコンだから気にしませんが。しかし、重くないとは……ちょっとバロック様に近づいてもらってよろしいですか?』
「ん? いいけど……」
「肉ばかりでは……うお! どどっ、どどどどうしたワタラセ!? ちち、近くないか……?」
『バロック様、失礼します』
隣で思案中のバロックに近づく。肩が触れる程の距離になってバロックがビクッと身を震わせた時、ハルが俺の右腕から離れてバロックの左腕に巻きついた。
「む、どうしたハルぅぅぅ!?」
その瞬間、バロックの左腕が地面まで下がった。必死に持ち上げようとするが、バロックの左腕は縫い付けられたように動かない。
「な、なんだというのだー! お、重いぃぃぃ……!」
「あー、悪かったバロック。ほらハル、こっちに来い」
『了解しました』
ハルが蛇のように細長くなって俺の右手首に戻ってきた。バロックは腕を摩って涙目になっている。
「な、何がしたかったのだぁ……?」
「……検証実験、かね」
『私の言ったことはお分かりいただけたかと思います』
なんとなくだが分かった。よく考えれば、最初は俺より大きな金属の塊だったんだもんな。そりゃ重いに決まってる。それを軽々と持ち歩いている俺は相当なクレイジー野郎だってことも分かった。
この後、機嫌を損ねたバロックを宥めるのに小金貨二枚を使うことになったのは……まぁ、ご愛嬌だ。
話の進みを考えるのが難しい……
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