オリハルコン
さて、ショーンの運命は……?
そして、晋一の安否は……?
ごゆっくりお読みください。
「……くくっ、ふふふふ、あーっはっはっは!」
大っ成功だ! あのバカ、見事に引っかかりやがった!
転移陣だぁ? んな高尚なもんがこんなチンケな場所にあってたまるかよ! そもそも、人間一人を転移するのにも莫大な魔力を消費するっつーのに、それにすら気づかねぇとはよっぽどだぜ! お前如きがまともに転移できるはずねぇよ!
「む? ワタラセはどこに行った?」
……おおっと、お目当ての獲物がいたんだったな。お楽しみはこれからだ。
「おい、ショーンとやら。今のは転移ではないだろう?」
バロックとか言ったか? 綺麗な紫の髪を揺らして近づいてきた女の腕を掴み、壁に押し付ける。
「む! いきなり何をするんだ!」
「楽しいこと、だよ……」
女の豊満な胸を、服の上から鷲掴みにする。むにゅん、と指に伝わる柔らかさと弾力に、一気にボルテージが高まっていく。今までに経験したことの無い、極上の感触。
これだよ、これ! 魔力消費の大きい「チャーム」の魔法を使ってまで男を騙して正解だった! 目線を観察された時は肝を冷やしたが、チャームで男からの信頼を上げたから疑われずに済んだ。作戦勝ちってやつだな!
ま、今までにも何回か使ってきた手口だし、慣れたもんだぜ。
欲望のままに、乱暴に胸を揉みしだく。力を加える度に形を変える魅惑の果実は、俺のリミッターを容易に外す。
「こいつはヤベェ……もう生でいくしかねぇな……」
我慢が利かない。女がほとんど抵抗しないのを良いことに、その粗末な服を引き裂く。ぶるん、とその胸が大気に曝され、露わになる。
……ああ! もうダメだ!
俺の力は相当に強い。ちょっと魔法を使えるだけの女に力で負けることはない。だからこそ、このまま美味しく頂けるってわけだ。
そーっと、その白い柔肌に手を伸ばしていく。後少しで、触れる……
ーーーーー恐怖。
体が動かない。身動き一つさえ許されない。
なんだ!? 一体、何が起きてる!? この怖気はなんだ!?
「……貴様、よくもやってくれたな」
目の前の女から、なのか……?
この世の終わりすら幻視する程のプレッシャーは、この女から感じるものなのか!?
「ぁ……な、ぅあ…………」
声にならない。何を言おうにも、ただ空気が漏れるのみだった。
「貴様、覚悟はできているか……?」
なんの?
そんな考えは、浮かぶ前に消える。
女は俺の拘束を軽く振り払うと、圧倒的な存在感とともに歩みを進める。ゆっくりと、近づいてくる。
「ひぃっ! く、くるな……来ないでくださいっ……!」
後退り、躓いて尻餅をつく。自分の今の格好がどれだけ無様かを自覚しながらも、必死に女から距離をとろうとする。
こいつは、人じゃない……!
「ほう、命乞いか? 惰弱な……」
射殺すような視線に、遂には息すらも困難になる。
「か……ぁはっ……ぅ…………」
じんわりと、下半身が温かくなるのを感じた。
「……下衆が」
女が、刃物というのも生温い冷たさを持つ視線を切るのと同時に、俺の意識は途切れた……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
クズメンに嵌められて落とし穴の底。モウモウと立ちこめる砂埃の中、俺はむくりと起き上がった。
いや、実は死んでないんだよね。
大体一分近くは落ちていたはずなんだけど、痛みは全くと言っていい程無い。
おかしいと思わなかっただろうか? 普通に考えて、落下中、命の危機に、他人のことを考えて安堵する余裕があるだろうか?
まぁ、普通は無いだろう。
この場合の正確な答えとしては、俺にはある、だ。
キュボエからルーフィムへの道中、俺は不寝番をしていた。バロックはすぐに寝ちまうし、ブルを起こしたままにしておくと死にそうだったからな。
しかし、暇だった。バロックの頭を撫でるのはなんか違う気がするし、ブルは下手に触ると激怒する。
手持ち無沙汰だったので、軽く運動することにした。なんということもない、単純な思いつき。
一応、運動するなら準備体操をしなくてはな、と考えた。
その結果、高度三千メートルからのノーパラシュート・スカイダイビングを経験した俺は、耐久値三百万の規格外さを実感したのだった。
……あの時は、本当に死ぬかと思った。死因が「垂直跳び」とか、冗談だとしても笑えない。
ともかく、実体験として高所落下程度では死なないことが分かってるので、俺には余裕があったのだ。
砂埃が収まるまで、ぼんやりと光る虹色を見ながら待つ。
しばらくして、ようやく視界が晴れた。目の前にいる虹色の形を再確認し、見間違いではなかったのだと確信した。
地面に衝突する直前に見えた、虹色の光源。
それは、はっきりと人の姿をしていた。
「はっ、ファンタジーだな……」
虹色と形容するのが最も近いだろう、淀みなく変遷を続ける色彩の人型を見据えつつ、距離を取る。こいつがどんな存在か分からない以上、迂闊に近づくのは悪手だ。
マネキンに似た不気味な人型は、その体をぐねぐねと蠢かせ、徐々にその様相を変えていく。俺よりも少し大きかった身長は俺の胸の辺りまで縮み、肩や腰のラインには女性的な丸みを帯び、何も無かった頭部からセミロングの髪らしきものが伸びる。のっぺらぼうのようだった顔に目や鼻、口といったパーツが刻まれていき……
突如、強烈な発光。
目を閉じただけでは足りず、腕で光を遮る。
『生存ヲ確認。落下ニヨル身体ダメージ、極小。魔法使用痕跡、無シ。十分以上ノ身体強度を持つと判断』
抑揚の無い、どこか機械的な声が聞こえる。
光の奔流が収まって、ようやく目を開ける。すると、目の前には先程のマネキンはおらず……
「マスターと認識。よろしくお願いします、マスター」
……虹色の少女がいた。
「……すまん、情報を整理させてくれ」
さて、俺は好奇心に誘われて迷宮にやってきた。そこで出会ったクズ野郎ショーンに騙され、落とし穴のトラップで紐無しバンジーを決行。怪我も無くアトラクションを楽しんだら、目の前に虹色の人型がいて、ピカッと光ったら今度は女の子。
………………はぁ。
額に手を当てて、嘆息する。
なんだ、これ…………。
だが、そんな状態も長くは続かない。
「ワータラセーーーーッ!!」
もう一人、アトラクションを楽しんでる奴がいるからだ。
跳び上がり、加速しながら落ちてくるバロックを空中でキャッチ。勢いを殺しきれずにそのまま落下するも、壊れた筋力に任せて体勢を立て直し、無事に着地する。
「おお! 無事だったのか! やはりワタラセは違うな!!」
怖がる素振りを一切見せずに、腕の中で喜色満面といった感じの笑みを浮かべるバロック。
「! お前、大丈夫なのか? あいつに何をされた?」
無茶なことをしたバロックを叱ろうと思ったが、そんな考えはすぐに吹き飛ぶ。何故なら、バロックの服が破れてしまっているからだ。
「っ! これは、その……奴に破られてしまって……だから、あの、その……」
「何か酷いことはされてないか?」
「……特には。胸を掴まれただけだな」
「……それが酷いことの勘定に入ってないなら構わないが、それ以上のことはされてないんだな?」
「うむ、我の軽い威圧だけで気絶したよう軟弱者だ。手を出すなどできようはずも無い」
「そうか、よかった……」
ホッとする。なんだかんだ言ってバロックのことを気にしてたんだな、俺。すげー安心した。
「じゃ、これ着とけ。ちょっとキツイかもしれんがな」
破れてしまった服の代わりに、俺の服を渡す。土と埃で汚れまくってるが、胸が丸見えなよりはずっとマシだろう。こいつが裸を恥ずかしいと思わなくてもな。
「お、怒ってないのか……? 服を、ダメにしてしまって……」
おずおずと服を受け取りつつ、尋ねてくるバロック。なんだこいつ、妙なことを気にしてんな。
「お前が無事ならそれで十分。別に怒ったりしねぇよ」
バロックの頭をポンポンと撫でてやる。あっ、ついついやっちまったが、もしかして嫌だったり……
「う、むぅ……そうか……我が無事なら……うむ……」
……嫌がっては、ないな。頬を紅潮させてるくらいだ、きっと気に入ってくれたんだろう!
「って、それよりも状況の確認だな。まず、お前は何者だ?」
もじもじし始めたバロックから目を逸らし、放置していた謎の虹色少女に問う。
「私はオリハルコンでございます、マスター」
「オリハル、コン……?」
「む、あの伝説の金属か? スカイウォールでも見かけたことはあるが、人の姿ではないぞ?」
あ、伝説の金属なのね。伝説なのにスカイウォールにはあるんだ。つーか、金属?
「なんで金属なのに喋ってんだ? それよりも、なんで人間の姿になってんだ?」
「お答えします。私は正確にはオリハルコンではなく、約千年前にロード族によってオリハルコンを元に造られた『生命金属』です。すなわち、意思を持ったオリハルコンなのです」
……ぶっ飛んでんな。ロード族とやらがどんな種族かは知らんが、金属に生命を与えちまうとは。
「次の問いにお答えします。元来、オリハルコンとは色、形、性質までもが環境によって変化する、変幻自在の金属です。しかしながら、私は自らの意思において姿を変えることが可能ですので、マスターの好みとする容姿をトレース致しました」
変幻自在って、髪と瞳が虹色だってこと以外はまんま人間だぞ。そこまで自在なのかよ。
と、いうよりもだ。
「もう一つ、その『マスター』ってのはなんなんだ?」
「マスターのことでございます」
ジッと俺を見据えて、淡々と答えるオリハルコンの少女。いや、分かってたけどさ。
「質問を変える。なんで俺がマスターなんだ?」
「マスターはこの『虹の迷宮』の最深部へ、ほぼ無傷で到達しました。魔法を一切使わずに辿り着いたことから、創造主の提示した条件を満たしていると認識し、マスターがマスター足り得る存在であると判断したためです」
……うん、分かった。色々と分かった。
まず、俺たちが今いる場所は、迷宮の最深部だ。そこに辿り着くだけの力を持つ者をマスターとするように、ロード族がこの生命金属にプログラムした。それに、どうやらこの「虹の迷宮」とやらを作ったのもロード族みたいだな。とんでもない種族だ。
で、あの落とし穴のトラップは、最深部に直行する自由落下型のエレベーターだったわけだ。
見回してみると、この空間はかなり広い。それこそ、迷宮の一階層分くらいはありそうだ。足下には人骨らしきものが見受けられる。
「今までに十八人の到達者がいましたが、全員が既に死んでいました」
……その内の何人かは、あいつに騙された奴なのかもな。
「マスター、これからよろしくお願いします」
「お、おう。よろしく……」
これはもう、確定なんだろうな。断ろうにも、深々と頭を下げられてはな。
「ではマスター、私に名前をつけて頂けますでしょうか?」
「名前?」
「はい、名前でございます」
名前か……主従関係を示すとか、そんな意味合いがあるのか?
うーむ、虹……レインボー……いや、これは違う。ネーミングセンスが無いから困るなぁ。えっと、こいつはオリハルコンだから……
「よし、決めた。お前の名前は『ハル』だ」
「ハル、ですか。ありがとうございます、マスター」
安直にも程があるが、呼びやすいからいいだろう。
こうして、ハルが従者となった。
「その体型が、ワタラセの好み……? 少々幼いように見えるが……」
折角スルーしてたのに、なんで突っ込んじゃうんだよ、バロック。
ま、生きてますよね。
新キャラ、出ました。晋一の周りには「普通の」人間が集まりませんね。今度は金属ですよ。
クズメン? あんなんで許されますかね?
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