迷宮の罠
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何故かは分からないが薄ぼんやりと明るい地下迷宮の一階層目を、イケメン冒険者ショーンの解説を聞きながら進んでいく。灯りの類は見当たらないんだがな……
「この迷宮は五百年前にはもう存在が確認されていてね。最初は怖がって誰も近づかなかったらしいけど、百年ほど前にとある勇敢な冒険者がここに挑み、数々の財宝とともに戻ってきた。迷宮に冒険者が集まるようになったのはそれからなんだって」
「へえ、財宝があったのか」
「うん。ただ、既に攻略済みの階層にはほとんど残ってないけどね」
ギルドの受付嬢からは教わらなかった情報なども、ショーンは教えてくれた。
この迷宮、十階層毎に内部の構造が変わるらしい。例えば今いる一から十までの階層は碁盤目状の構造になっていて、次の十階層は縦横無尽に曲がりくねった長い一本道、さらにその次は迷路になっている、といった感じだ。
「ショーンはどこまで行ったことがあるんだ?」
「え? 僕は、パーティーを組んで五十階層までかな。僕個人だと四十階層手前が限界だったよ」
四十手前というと、出てくる魔物のランクは大半がBのはずだ。そこまで単独で行けるということは、実力は確かだということになる。Aランクは伊達じゃないってことか。
「十階層まではDランクまでの魔物しか出てこないから、安心して進める……っと、噂をすれば、ってやつかな」
「むおっ! どうしたんだ?」
碁盤目状の区画をもつ一階層。その特徴である十字路に差し掛かった時、ショーンがストップをかけた。後ろからバロックが衝突してきたが、注意力が足りてないな。いや、古龍様に注意すべきことなんて無いか。
ショーンが見つめる先、十字路の右側から、薄汚れたブサイクな小人がヒョコヒョコと現れた。その手には棍棒が握られている。
「ゴブリン、Eランクの魔物だ。弱い魔物だけど、捕まったら食べられるから気をつけてね」
食べるのかよ、その情報は聞きたくなかったな。
ショーンが剣を抜くと、ゴブリンは俺たちに気づいて奇声を上げながら走ってきた。ショーンは接近したゴブリンの棍棒を軽いステップで避け、横薙ぎに剣を一閃。ゴブリンの首を刎ねた。
「ふう、剣が汚れちゃった。ゴブリンの血って拭いても落ちないんだよなぁ……『クリーン』」
剣に手をかざす。すると、手から白い光が漏れ出し、その光が剣に付いた血をすんなり消していった。拭いても落ちない汚れを落とすとか、魔法って便利だな……
「む、どうしたワタラセ? 急に落ちこんで」
「あ、もしかして倒したかったかい? なら次はシンイチの番だね」
がっくりと肩を落とした俺を気遣ってくれる二人。ありがとう、勘違いでも嬉しいよ……
迷宮に関する雑学を聞きつつ歩いていると、今度は二足歩行の犬が現れた。
「コボルトだ。Dランクの魔物だけど、単体ならゴブリンと大差無いよ。さあ、頑張ってシンイチ」
言われて、どうするか迷う。素手で殴り殺してもいいのだが、そうするとショーンにいらぬ疑問を持たれてしまうかもしれない。
仕方ない、ここはバロックと共闘しよう。
「俺があいつを引きつけるから、その隙にバロックが魔法で倒してくれ」
「む、分かったぞ!」
コボルトに近づき、相手が掴みかかってくるのをさっき見たショーンのステップを真似て避ける。
コボルトは目標物が無くなったことで、勢い余ってこけてしまう。
「今だな! 『紫電』!」
バロックが腕を突き出し、そこから紫色の電撃が迸った。かなり手加減しているのか、電撃はコボルトに当たると原型を留めたまま感電死させた。
「二人はコンビで戦ってるんだ」
ショーンが感心したように拍手する。実際は違うけど、ここは合わせておこう。
「バロックの魔法の威力も申し分無いし、シンイチの体捌きもかなりのものだよ」
うん、バレてはなさそうだ。バロックの加減に感謝だな。
「むぅ、失敗したぞ……」
やめろバロック、それ以上言ったらさっきの感謝が水の泡になる気がする。
そんな感じで五階層までやってきた。魔物の多くはショーンが倒してくれたが、俺たちもたまに倒した。あまりショーンばかりを働かせるのは心苦しいところがあるからな。
「今日はどこまで行くつもりなんだい?」
「十階層まで。それより先に行くならもう少ししっかりと準備をしないと」
あくまでも今日はお試しだ。食料とかの物資が無いと、それ以上に潜るのは難しくなるだろう。
「あ、あそこを見て」
ショーンが足を止め、前方の地面を指差す。その地面には正方形が刻まれており、図形の内部は虹色に光っている。
「あれがトラップだよ。聞いてたとは思うけど、分かりやすいでしょ?」
トラップ? あれが? 分かりやすいとかいうレベルじゃない。
ジッと正方形を注視する。どうやら正方形は虹色というよりも、色が次々と移り変わっていると表現すべき模様になっているみたいだ。
「ここにあるトラップは大半がこんな目印がついていてね。下手なことをしなければ引っかかることはないよ」
だろうな。これに引っかかるのは相当なバカか好奇心が旺盛すぎるやつだけだ。
「昔、こんな感じの明らかなトラップを故意に踏んだ人がいたんだけど……」
「……どうなったんだ?」
「……左腕が失くなったらしいよ」
「……そいつぁ、お気の毒だ」
肩を竦めるショーン。何が起きて腕を失ったか知らんが、トラップには気をつけた方がいいな。
その後もショーンの案内で迷宮を下っていき、何事も無く十階層に辿り着いた。所々で見かけたトラップは、全てが目印つきだったから普通にスルーできた。
「実はこの迷宮、十階層毎に転移陣があるんだ。それを使って入口まで戻ろうか」
ん? 初出の単語だな、転移陣。察しはつくが。
「転移陣ってなんだ?」
「あれ、知らないのかい? 転移陣っていうのは、文字通り転移の魔法陣だよ。二つで一つの魔法陣で、片方の転移陣を起動すると、もう片方の転移陣に瞬間的に移動できるんだ」
ほほう、便利なもんだな。ここに来るまでに大体三時間はかかってるはずだ。バロックが空腹を訴えてるし、それで一気に帰った方がいいな。お礼も兼ねて、ショーンを飯に誘ってみるか。
「ほら、これが転移陣だよ」
連れられてやってきたのは、壁にぽっかりと空いた大きな窪み。優に十人は入れるだろうその空間の床面には、召喚直後に見た魔法陣を彷彿とさせる幾何学的な紋様が、淡い発光を見せていた。
そこで、少し困ったように頬を掻くショーン。
「この転移陣なんだけど、一人ずつでしか利用できないんだ。最初はシンイチからでいいかな?」
一人ずつ、か。召喚の時には何人もの魔術師が死ぬ程の魔力量を要していたし、これにもかなりの魔力量が必要なのかもな。
「分かった、先に戻らせてもらうよ」
転移陣の中央に立つ。陣から強い光が溢れ出し、転移が始まるのかと思った時ーーー
ーーーニヤリ、とショーンの端正な顔が歪んだ。
強い既視感。俺はどこかで、あんな顔を見たことがある。
その感覚を助長するように、首元に冷たい感触が甦る。
思い出した!
その瞬間ーーー
ーーーーー転移陣が「地面ごと」消える。
唐突な浮遊感。下がっていく視点。
咄嗟に手を伸ばして足掻くも、虚空を掴むのみに終わる。
……なるほど、罠だったわけか。それも、最初っから。俺はまんまと騙されたってことね。
ショーンの歪な笑顔。
あれは、あの奴隷商の下卑た笑みに、よく似ていた。
落下していく。あの転移陣は、迷宮内では数少ない「分かりづらい」トラップだったのだろう。
ショーンの狙い、それは間違い無くバロックだ。見た目だけなら途方もない美人だからな。
チラリと下を覗くと、かなり遠くに小さな虹色の光が確認できた。もしかしたら、あれが穴の底なのかもなしれない。常人なら命は無いだろう。
死を覚悟するような状況の中で、俺は安堵の溜息を漏らした。
何故かって? それは、俺とともに行動していたのがバロックだけだったからだ。
もしこの場にバロックではなく亜人娘たちがいたなら? きっとショーンの魔の手に脅かされていたに違い無い。リリシアは魔法を使えるみたいだが、Aランクの実力あるショーンならば幾らでも対処できるだろうから、安全ではない。
その点、バロックはどうだろう。あいつはアホっぽいが、その真の姿はドラゴンだ。古龍だと自称していたが、本当にそうならばAランク如きのショーンに負けることは万が一、億が一にもあり得ない。
つまり、心配する要素は皆無だと言うことだ。
それでは、俺の話だ。
現在、体感で三十秒程の落下を経験している最中なのだが、虹色の光がものすごい速さで近づいてきている。それはもう、かなり速く。
……これはぶつかるなぁ。
接近したことで、虹色の光がある辺りが穴の底であると判明。
後、十秒くらいか? 脱力し、重力に身を任せる。
高速で落ちる中、地に触れる直前。
俺は、あまりにも奇妙なものを見て目を見開き、
ーーーーーズドォォォン!!!
地面に叩きつけられた。
とても適当な計算ですが、晋一の体重を65kgだとすると、大体一分弱は落下しているので、衝突時の落下速度は……
………………時速200km前後。
あれ、効果音……
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