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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第三章 旅、それは男のロマン
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迷宮へ

迷宮に向かいます。


ごゆっくりお読みください。

「先輩、大丈夫ですかっ!?」


  気を失った受付嬢の元に、別の受付嬢が駆け寄ってきて息をしていることを確認すると、奥の部屋に運び込んでいった。これはこれで面倒な展開になってるんじゃないか?


  待つこと数分、倒れたはずの受付嬢が颯爽と現れた。快復が早いな。魔法でも使ったのだろうか。


「先程は失礼致しました。申し訳ありませんが、もう一度ステータスをお見せしていただいてもよろしいでしょうか?」


  颯爽と現れた割には、顔が青白い。目の前にいるのが化け物かもしれないんだから仕方ないか。


  伏せていたプレートを裏返し、受付嬢にだけ見せる。受付嬢は大きく目を見開くと、急に頭を下げ始めた。


「もも、も、申し訳ございません! わ、私共としましては、実力の無い者を迷宮に送り出すのは、その、あまりにも無責任な行為でありまして、だからこそ先程のような対応になったのでして……!」


  お、おう。そうだったのか。そういう面があったんだろうとは予想してたけど、あの時は明らかに疑ってかかってたよな? 俺は騙されないからな?


「いえ、気にしてませんよ。それより、迷宮についての説明をしてもらえませんか?」


  まぁ、責めたりはしない。また気絶されても大変だし、なによりも最初の目的があるのだから。


「は、はひっ! かしこまりました!」


  噛んだ。別にかしこまらなくていいよ、他の人のことを考えて行動しようぜ? 俺を見る周囲の目が痛い。


  冷や汗かきまくりの受付嬢によると、迷宮というのは魔物が生息する巨大な地下空洞のことをいうらしい。迷宮は街から西に二百メートルのところにあり、現在は王国の管理下にある。


  迷宮は地下空洞なのだが、人の手が加えられてる箇所も見受けられるため、古代文明の遺跡なのではないかとされている。迷宮は下へ下へとどこまでも続いており、確認されてるだけでも七十を超える階層から成り立っている。百年ほど前から数多の冒険者たちが挑んでいるのだが、未だに最下層に辿り着いた者はいないという状況だ。


  特徴的なのが、迷宮内の魔物たちだ。何故か奴らは迷宮に住んでいて、いくら倒しても湧き出てくる。そのくせ、一定以上の数にはならず、迷宮の外に出ることもないという変わった性質をもつ。また、奴らは地下に行くにつれて強くなっているらしい。七十階層にはAランクの魔物がウヨウヨいるとの報告がある。


  もう一つ特徴的なのが、謎のトラップだ。ちょっとした落とし穴程度の軽いものから、踏んだ瞬間に魔法の火炎に焼き殺される床板といったえげつないものまで、よりどりみどりだそうだ。全ての罠に共通して言えるのは、それが罠であると判りやすく示されているということ。しかし、それは罠なのか……?


  一通りの説明を終えて真っ白に燃え尽きている受付嬢に礼を言い、ギルド内をウロウロしていたバロックを引きずって宿屋に帰った。






「む、では明日はその迷宮とやらに行くのだな?」


「試しにな。どんな場所なのかを見て回って、その後は飯でも食いに行こう」


「おお! それはいいな!」


  「飯」という単語に即座に食いついたバロックは、実に良い人生を送っていると思える。人生?


  宿屋の二人部屋。俺とバロックはそれぞれのベッドに座って明日の予定について話し合っていた。と言っても、一方的に俺が話してただけだが。


  さて、何故に二人部屋なのか? それは、俺の甘さのせいである。街についてすぐに宿屋に行ってブルを休ませてもらった俺は、そこで部屋を二つ借りようとした。しかしながら、バロックはこんなことを言い出した。


『わ、ワタラセ。部屋は一つでいいと思うぞ……? その、二つでは金がかかりすぎてしまうだろう?』


  チラチラとこちらを気にしつつ言うバロックに、俺は当然の如く拒否の意思を見せた。


  すると、バロックの紫根の瞳にジワッと涙が滲んだ。


『側にいたいと、言ったではないかぁ……あれは嘘だったのか……?』


  焦った。どれくらい焦ったかというと、その後になんと言ったか覚えてないくらいに焦った。泣くのは反則だろう、泣くのは。


  それで、気づけば二人部屋をとることになっていた。その時には、バロックは満面の笑みをたたえていた。あんまりにも嬉しそうな笑顔に何も文句を言えなかったのは、仕方のないことだと思いたい。


  よくよく考えれば俺はこいつの監視を依頼されているのだから、同じ部屋にいた方が都合が良いだろう。うん、結果オーライだ。


「明日の計画も立てたことだし、夜飯食いに行こう」


「大賛成だぞっ! ほらワタラセ、早くしろ! 無くなったらどうするんだ!」


「無くなんねぇよ……」


  グイグイと腕を引っ張るに軽く辟易しつつも、これはこれで楽しいかもな、なんて思っていた。








  朝である。


  俺のベッドに何かが侵入してきている。


  当然、バロックである。


  ………………なんで? 寝ぼけて入ってきたのか?


  カグラだったらまだ兄妹的な微笑ましさがあると思うんだが、バロックはマズイ。中身はガキっぽいアホさ満点だが、見た目だけなら大人なのだ。実年齢はドラゴンだが。


「ん……わたらへぇ……いっしょに……」


  完全に緩み切ったその表情。俺を抱き枕にして寝てるため、彼女が身じろぎする度にムニュムニュと柔らかいものがその存在を主張してくる。その寝言もあって少しドキッとしたが……


「…………はぁ」


  溜息一つでそんな気持ちを振り払う。世の男どもが羨むシチュエーションなんだろうが、残念なことに俺がそれを堪能してはいけない。あいつらがいるからな。


  バロックの腕を外そうとする。


「……ん?」


  が、外れない。次はもう少し力を入れるが、それでも外れない。こいつどんな力で抱きついてんだよ。


  全力の四割を費やしてやっと拘束を解いた。昨日ステータスが上昇してるのを見た後にしっかりと意識を切り替えたから、俺の筋力は三百万ぐらいまで上がっている。その四割でやっとということは、この闖入者はそれ程の力で抱きしめてきたということで……普通の人間なら死んでいたというわけだ。俺も油断していたから、下手したら口から胃が出てきていたかもしれない。


  朝から命の危機に立たされていたことに戦慄する。憂さ晴らしとして涎を垂らして寝てる古龍さんを床に叩き落としておいた。「ぷぎっ!」とかいう声が聞こえたが、無視。


「ふぁぁ……もう朝か……? む? 何故我は床の上に……? ワタラセは……?」


「ここにいるよ。起きたんなら準備しようぜ、今日は迷宮にお出かけの日だ」


「おお、そこにいたのか! どこに行ったのかと思ったぞ」


  ホッと胸を撫で下ろすバロック。


「そういえば昨日そんなことを言ってたな。分かったぞ! 先ずは腹ごしらえだな!」


「何が分かったのか知らないが、そうするか」


  欲求に忠実というかなんというか。バロックはバロックだな。






  準備を終えた俺たちは、迷宮の前へと来ていた。


  しかし、ここが迷宮か……


「なんかイメージと違うな……」


「ワタラセ、ワタラセ! あそこに肉が売っているぞ!」


  目を輝かせて飛び跳ねるバロック。さっき大量に食っただろうが。後、野郎どもが歩き難くなってるからピョンピョンするな。


  街から迷宮への道中二百メートル。真っ直ぐ続く道の両脇には、沢山の屋台が並んでいた。お祭り感満載だ。


  もうちょっと殺風景な感じを想像してたんだけどな。街の代名詞ということもあって集客率が高いのかね。


  迷宮の入り口付近には酒場らしきものが数件ある。迷宮帰りに一杯、ってところか?


  周りにいるのは、ほとんどが何かしらの装備をした冒険者だ。その中に普段着で突っ立ってる俺たちは、悪い意味でとても目立つ。視線の大半はバロックに向けられているが、俺を見てヒソヒソと話し合っている奴らもいる。


「手ぶらで迷宮に挑むのか……?」

「そんなことよりあの女、超綺麗じゃないか?」

「で、デケェ……ごくり」

「声かけてみようかな……」

「やめとけ! 隣にいる黒髪の男、アレは『S』だ!」

「『S』!? 指先一つで人を殺すって噂の?」

「ウソ! 悪魔のような男だって聞いてたけど、以外とカッコいいのね……」

「遂に迷宮攻略に乗り出してきたか……」


  え、その二つ名ここまで広まっちゃってんの? しかもめちゃくちゃ捻じ曲がって伝わってる。俺の体には七つの傷なんてないぞ。


  色々とツッコミたいところだが、スルーして入り口横の受付へと向かう。迷宮に行った冒険者たちが生きて帰ってきたかを確認するための手続きらしいが、名前を書くだけだから手間ではない。冒険者でないバロックも問題無く入れるみたいでよかった。セキュリティの面では不安だらけだがな。


「ちょっと、そこのお二人さん」


  受付を終えていざ出発、というところで誰かに呼び止められた。振り向くと、一人の青年がいた。腰に下げた剣を見るに、冒険者と思われる。


「迷宮は初めてかい? よかったら案内するよ」


  爽やかな笑みを見せる青年。とんでもないイケメンだな。短めの金髪と相まってイケメン度合いが急上昇してる。


  ……普通、ここで声をかけてくるか? 明らかに場違いな俺らに進んで案内をしようなんて、よっぽどの親切か何かを企んでいるかのどっちかだろう。隣でいつの間にか買っていた肉串に齧り付いてるバロックのことを考えると、裏がある気がして仕方ない。


  数秒、相手の視線の動きを観察する。青年の目は俺の目を見据えて動かない。


  ……下心が見受けられないな。バロック目当ての可能性が高いと思ったんだが、ただのお人好しなのかもしれない。性格までイケメンか。


「……じゃあ、お願いしようかな。俺の名前は晋一。こいつはバロックだ。あんたはなんて言うんだ?」


「僕はショーン。こう見えてもAランクの冒険者さ。迷宮のことはよく知ってるから、任せてよ」


  お互いに自己紹介をする。その際にショーンが自分のランクを言ってきたが、嫌味な感じが一切無いのはイケメンだからか?


  そんな青年ショーンとともに、迷宮への階段を降りていく。さて、どんなところなのか楽しみだ。




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