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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第三章 旅、それは男のロマン
39/93

アホのバロック

ユニークが一万を超えてました!

読んでくださっている皆さん、ありがとうございます!


さあ、晋一はバロックにどう立ち向かうのか?


ごゆっくりお読みください。

『さあ、勝負だワタラセ!』


  ーーーーー紫の龍。


  先の赤いドラゴンに倍する体長。そこから発される威圧感は、暴力的というよりも神々しいと感じるものがある。冒険者たちが自然と跪き、頭を垂れてしまう程に。


  月に照らされるその姿は、荘厳。


  これが、古龍……


  目の前にして思い知る。この世界における絶対種とは何なのかを。


  ーーーこれは、人が抗える存在ではないのだろう。


  紫龍と化したバロックに対峙し、そう推測(・・)する。


  畏怖と崇敬の対象。「絶対種」とは、この世界に生きる全ての者にとって、そういう存在。絶対の権化。


  それが、勝負を申し込んでいる。


  例え勝ち目の無い勝負であったとしても、誰しもが受けざるを得ない、いや、喜んで引き受けるだろうもの。さながら、それこそが名誉であるかの如く。


  それに対し俺は……




「嫌だ」




  ……普通に「拒否」を選択した。


『ななな、何故だ! 我と戦うことができれば、それは末代まで語り継がれるだろう栄誉であるのに!』


  バロックはドラゴンとなってからも変わらないみたいだ。頭の中身という点では、だが。それなら、適当に言いくるめることもできそうだ。


「そんな栄誉はいらん。別に強さを求めてるわけでもないしな」


  寧ろ強さなんてもういらない。今の時点でも十分すぎる。


「それと、お前と戦いたくない理由が二つあるぞ」


『そ、その理由とは……?』


  お、食いついてきた。この調子なら、この作戦でゴリ押しできるな。


「一つ目は、俺が疲れてるということだ。俺はさっき老龍もどきの成龍を一撃で倒したが、あれでもかなり消耗してるんだ。こんな状態で戦いたいとなんて思わねぇよ。まさかとは思うが、絶対種ともあろうお方が万全でない者と戦いたいだなんてそんなこと、言うわけないよな?」


『うぐっ、それは……』


「そして二つ目。お前、宿屋の柔らかいベッドで眠ってどう思った?」


『気持ちよかったぞ! 素晴らしい心地だった……』


「じゃあ、宿屋の飯を食って、どう思った?」


『美味かった! 生の肉よりも断然美味かったぞ!』


  翼をはためかせて興奮するバロック。砂埃が舞って迷惑だな。


「そうだろ? じゃあ、それを享受できたのは、誰のおかげだ?」


『む、そんなのワタラセのおかげに決まってる! 本当に感謝しているぞ!』


  長い首を曲げて頭を下げる。よしよし、ちゃんと分かってるみたいだな。


「それじゃあ、お前は俺に何をしてくれた?」


『む? それは、えっと……何もしてない……』


「それだよ、それが戦いたくない理由の二つ目だ。いいか? お前は俺に『施し』を受けたんだ。俺がお前のことを思って、優しさを与えてるんだよ」


『む、むぅ、そうだったのか……? それにしては適当に扱われた気もするのだが……』


  うん、自分でもそう思う。ベッドに投げつけたり変人呼ばわりしたり。


「いや、それは照れ隠しなんだ。お前があまりにも綺麗だったから、ついつれない態度をとってしまったんだ」


  好きな子にいじわるする理論だが、こっちの世界でも通じるのか?


『そ、そうだったのか! わ、我が綺麗だとは……』


  よかった、通じたのか。一安心だが、眼前でクネクネする巨体がなんとも気持ち悪い。褒められ慣れてないってか。いや、普段はドラゴンの姿だから綺麗も何も無いってところか?


「ともかくだ。お前は優しくしてくれた人に対して、その人の嫌がることをするつもりか? 恩を仇で返すのか?」


『そ、そんなことはしない! 我はそんな礼儀知らずではないぞ!』


「けど、戦いたくないという俺に、お前は何度も勝負しろと言ってきたよな?」


『っ! まさか、我は礼儀知らずだったというのか……?』


  ふらっ、とよろめくバロック。そんなにショックなのか、とか気づいてなかったのか、とか色々と言いたいことはあるけども。ここでは言わないでおこう。


「なあ、バロック。俺はお前のために言っているんだ。お前に無礼な真似をさせたくないという、お前を思う気持ちから言ってるんだよ」


『そうなのか! そ、それ程までに、ワタラセは我のことを……』


  完全に嘘ですけどね。カグラでなくとも、亜人娘たちなら瞬時に見破るだろうに。


『……うむ! ワタラセの気持ちはしかと受け取った! 勝負を挑むのはやめる!』


  よし、上手くいったか。バロックがアホで助かった。


『しかし、そんなに想われているとなると……むぅ……』


  思われていると何なんだ? 少し気にはなるが、それより先にやることがあるな。


「バロック、とりあえず人の姿に戻ってくれないか?」


  最初に来た赤ドラゴンのせいで町は小さくない騒ぎになっている。さらに古龍までもが現れたんだから大騒ぎ間違い無しだ。事態を収拾するためにゲルグの爺さんに事情を説明してみよう。支部長だから何とかしてくれるだろう、たぶん。


『分かったぞ!』


  片手を挙げて返事をするのだが、デカすぎて可愛くない。面白くはあるけどさ。


  ドラゴン状態のバロックは目を閉じると、ぼふっという音を出して紫の煙に包まれた。龍化の時との落差が半端じゃない。


  丁度よく風が吹き、煙が払われていく。人影が見えてきた。こちらに向かって歩いているのか、胸部に二つの大きな揺れが確認できる。やっぱりすごいな、束縛から解き放たれたかのように自由に……自由に(・・・)


  気づくと同時に走り出す。周りの冒険者たちは全員アホみたいに口を開いて俺を見てたから、まだバロックのことを注視していなかったのは幸いだ。


「ワタラセ! 戻ったぞぅおっ!?」


  バロックが完全に煙の中から姿を現す前に頭めがけて掌を突き出し、引っ掴んでそのまま走り抜ける。バロックが驚くのも気にせず、引きずるようにして宿屋まで駆け抜ける。


  既に避難が済んで人がいない宿屋の、バロックの部屋へと入っていく。扉を閉めると、バロックを持ち上げる。


「わ、ワタラセ! これも照れ隠しなのか!?」


「……ああ、そうだよ。お前が美しすぎてな」


  そう、これは俺なりの照れ隠し(アイアンクロー)だ。


「そ、そうか。嬉しいような気がすイタタタタタタ痛い痛い!! 頭が、我の頭がぁっ!!!」


  ジタバタと暴れるバロックをベッドに優しく下ろしてやる。バロックは頭を押さえて涙目でこちらを見上げる。


「我は古龍だと言うのに、何故こんなに痛いんだぁ……ワタラセ、お前は本当に人間か……?」


「……悪かったな、力を入れすぎちまった。それよりバロック」


  ほんの少しだけ罪悪感を覚えないでもない。それに、今のシチュエーションが即逮捕ものだと分かっているので、あまり強く出ることもできない。そんなことしたら二つ名に変な意味が加わってしまう。



  だって、今のバロックはーーー



「お前、服はどうした?」

 


  ーーーまたしても全裸になっているのだから。











「なんじゃそれは…………」


  ゲルグの爺さんが脱力してしまった。十歳くらい老けたように見える。


  昨日、バロックを部屋に放置してゲルグの爺さんにドラゴンを倒したことを報告し、それを住民に伝えてもらった。朝になるまでにはキュボエも平穏を取り戻し、昼前の今はもう既に平常運転だ。


  ただし、ギルド二階の支部長室だけは微妙な空気になっている。俺がバロックの正体についての報告をしたからだ。当の本人は、新品の服を着てフカフカのソファに驚きを見せている。


「お前さんが嘘を吐いてないのは分かる。そこの娘が只者ではないのも理解できる。ただ、突然のことすぎて頭が追いつかん……」


  バロックが只者じゃない? アホにしか見えないのは俺の経験不足とかのせいなのか、爺さんがすごいのか。


「ワタラセ、こいつかなり強いな」


  バロックが愉しげに笑うが、俺にはよく分からない。爺さんって凄腕の冒険者とかだったのか? 実は元Sランカーだったりしてな。


  冗談はそこまでにして、本題に移る。


「バロックをどう扱うか、という話なんですが……」


「そこじゃよなぁ……」


  古龍が実在した。


  そんなことが知れ渡ったら、王国中が昨夜のキュボエのようになってしまう。それだけ、古龍という存在は強大なんだとか。


「儂としては、秘匿しておくべき情報だと思うがの。無闇に不安を煽ることもあるまい」


「それは俺も同感ですね」


  暇そうに髪を弄るバロックを見て溜息を一つ。こいつの真の姿を知っているのは俺と爺さん、それにあの時居合わせた冒険者たちだ。彼らとは「S」の名の下において口外しない約束を交わしたため、きっと大丈夫だろう。ドラゴンを単独で屠る化け物の機嫌を損ねる阿呆はそうそういない。


「……はぁ。とりあえず、ドラゴン討伐の報酬は魔銀貨一枚じゃ。これについては用意にちと時間がかかるのでな、渡せるのは二週間後になるじゃろう」


  前の話だとそれが上限みたいな言い方だったが、本当にそんなに貰えるのか。確か一般市民一人につき小金貨一枚、つまりは一万円で一ヶ月暮らせるんだから、単純計算で八十年、亜人娘たち四人を含めると十六年分の生活費が手に入るわけだ。


「それと、お前さんに追加で依頼があるんじゃよ。こっちの報酬は魔銀貨二枚じゃ」


  ……うまい話には裏がある。ここまで大金を積むということは、相当に面倒くさい。そしてそれは、俺の隣に座る残念美人が深く関わっているはず……


「お前さんに、そやつの監視をしてもらいたい」


  ですよね。実は薄々感じてましたよ、こいつのお守り役になるんだろうなー、って。


「……それ、他のSランク冒険者に頼むとかはできませんか?」


「逆に聞くが、できると思うか?」


「……無理、ですね」


  Sランクの魔物はSランクの冒険者がパーティーを組んで倒すもの。その説明を聞いたからこそ下せる判断だ。Sランクが手を焼く老龍の、さらに上位の存在なんだよな、こいつ。


「けど、そんなにホイホイ払えるもんなんですか、魔銀貨って?」


「そこまで難しいことではないぞ。儂個人でさえ魔銀貨数枚なら持っておるくらいじゃからの」


  くそ、資金面での問題は無いか。何気に金持ちだったんだな、爺さん。


「……分かりました。こいつの面倒は俺が見ときます」


「自分から頼んでおいてなんじゃが、申し訳ないのぅ。できる限りの支援はさせてもらうとしよう」


  何だかんだ言って一応断ろうとはしてみたものの、実際には断る理由というものが殆ど無いんだよな。一人で旅するのも寂しいので、例えドラゴンでも話し相手がいるのは嬉しい。頭のできは悪いみたいだから、手綱を握るのも難しくはない。それなら魔銀貨二枚で将来への基礎を固めた方が良いだろう。


「なあワタラセ、結局何の話だったんだ?」


「ん? 俺がお前の側にいることが決定したってだけだよ」


「……それはつまり、我の側にいたいということか?」


  なんでそうなる。話を全く聞いてなかったな。最初から教えるのも手間だし、適当に話を合わせておこう。


「ああ、そうだ。お前の近くにいたいんだ」


「そ、そうか。やはりワタラセは我のことを……」


  バロックの白磁のような肌が淡い朱色に染まる。俺の様子をチラチラと見ながらモジモジしている。


  ……あれ? どこにフラグが立ってたんだろうか? 亜人娘たちの時よりも不可解な展開に困惑を隠せませんよ。


  どこで道を踏み外したのかと考えていると、バロックが急に立ち上がって俺を指差し、こんなことを言った。




「わ、ワタラセ! 側にいたいと言うのならば、我の下僕となるがいい!」




  言い終わると、彼女は赤くなった頬を隠すように両手を当てて、再度ソファに座り直した。小声で「言ってしまった……」とか呟いてるのが聞こえる。




  ………………………え?




………………え?


なんでこんな展開になったんでしょう?


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