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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第三章 旅、それは男のロマン
38/93

人外VS絶対種

ごゆっくりお読みください。

「あははははー、二倍になってるよー。俺の耐久の値が二倍になってるー」


「アホ言ってんじゃねぇよ。桁が一つ違う。二十倍だよ、二十倍!」


「えー。そんなことないって、もっとよく見て……本当だ」


  俺の頭の中で、信じ難いという気持ちと冷静にことを受け止めようとする気持ちがぶつかり合って、信じ難い気持ちは負けた。もうちょっと頑張ってくれ。


「………………は?」


  ゲルグの爺さんは顎が外れそうな程に大きく口をポカンと開けている。目が点になるって、こういうことを言うのか。


  かく言う俺も驚いている。百万ってなんだろうか。半分魔力に分けてあげてほしい。


  けど、こんなに耐久が上がってたならもっと力が出ると思うんだが。俺の意識の問題なのか? そこまで強くなってないという考えが力を妨げていたとか。


「お前さん、本当に人間か? 普通はこんなにステータスが上がることなどあり得んぞ。Sランクでも耐久は七万がやっとじゃぞ……」


  えー、最初っから耐久はSランク越えだったのかよ。


「体力が十万というのですら尋常ではないと言うに、百万とは……」


  そんなにショッキングだったか。それだけ異質ってことなんだよな。


  爺さんによると、ステータスは日々の訓練によって成長し、個人差はあるもののそこまで急激に伸びるものではないらしい。とはいえ、Sランクは殆ど才能のようなものらしいが。


「そういや、この知能っていうのはなんなんですか?」


「なんで落ち着いてられるんじゃ。知能は魔法適性の高さを示すんじゃよ。高ければ高い程に魔法の威力が上がっていくんじゃが、そこまで大きな差は無いの」


  なんだ、そんなもんなのか。以前の「魔力と知能が逆だったら」という発言の意味が分かった。


「こうなるとSランク認定せねばならんかもしれんのじゃが、お前さんはなりたいか?」


「Sランクにつく特典によります」


「この前もそれでAランクにしておったのぅ……Sになると、ギルド提供の宿屋は無料で利用できる。その代わり、王国から名指しで依頼が来ることがあるぞ。ま、それはかなり珍しいんじゃがの」


  ……王国から名指しってことは、王国側に名前を知られるってことだよな。一応は勇者として召喚されたわけだし、実力があると分かったら戦争に連れ出される可能性が出てくるだろう。ここは断っておくのが吉だな。


「Sランクは辞めときます。わざわざ名を広める理由も無いですからね」


「欲があるのか無いのか分からん奴じゃ。お前さんがそう言うならこちらもそうしておこう」


  優しい爺さんだ。その優しさは素直に受け取ろう。


「これでこちらからの用事は終わりです。俺はもう一度森の方に行ってみます」


「また行くのか? 気をつけろよ、暗くなると戦い難くなるからの」


  俺の目は月明かりだけでも十分に機能するから問題は無いんだがな。礼をしてギルドを後にする。バロックはまだ寝てるんだろうか? 帰ってきたら様子を見ておこう。


「力が上がってるんだよな……」


  町の外に出る。森に行く前に、目を閉じて自分の身体に意識を向ける。


  どれだけの力が出せるか? どれだけの負荷に耐えられるか? 考えるというよりも、感じるつもりで。


  すっ、と全身から無駄な力が抜けていく。なんだか、身体が羽のように軽くなった気がする。


  目を開き、森を見据える。ゆっくりと前傾していき、倒れる直前で左足を一歩踏み出しながら、右足で地面を蹴った。


  瞬間、周りの景色が緑に変わった。


  反射的に左足でブレーキをかけ、土を削りながら十メートル以上滑ってから止まった。既に森の中に入ってしまったみたいだ。


  ……おいおい、まだ全力じゃなかったんだぞ。三キロを一歩で走り抜けるってどういうことだよ、音速超えてるぞ。


  疑問は尽きないが、全て溜息で吐き出して切り替える。至って平和な森ではあるが、ドラゴンがいないとは言い切れないからな。


  ……いやでも、まさかここまでとは。百万を舐めてたな。


 

  その後、日が沈むまで森を歩き回ったが、結局何もいなかった。本当にどこかに行ってしまったのだろうか?






「ワタラセ! 本当に食べていいのか!?」


「食え食え、ここにあるだけな」


「うおおお! 感謝するぞ、ワタラセ!」


  夜。宿屋の一階で飯を食べているのだが、目の前に並ぶ料理の山の九割はバロックのものだ。俺は焼き魚と米だけ。この世界にも米があるのは嬉しいものだ。


  分かってはいたが、バロックは一文無しだった。俺の部屋に着くと何故かバロックがいて、腹が空いたとごね始めたので飯を奢ってやっている。ギルド提供の宿屋なので量が多くて安いからいいのだが、それにしても大食漢なんだなこいつ。どこに入ってんだ。


  バクバクと料理を口に運ぶバロックは、今は俺が貸した上着と買ってきたズボンを履いている。やっぱり上だけだと色々と見えそうだったからな。


  にしても、こいつはなんで森の中で寝てたんだ? 盗賊に襲われたってんでもなさそうだし……


「なあ、バロック」


「む、はんああはあへ」


「すまん、口の中の物を飲み込んでからでいいぞ」


  こいつ、食い方がリリシアより汚い……


「ん、んぐっ……なんだワタラセ?」


「お前、どうして森の中で寝てたんだ? 何も持ってないってのもおかしい。何があったんだ?」


  俺の問いに、キョトンとした顔をするバロック。


「そんなの、昼寝しやすそうな場所だったからに決まってるだろう。あの森は静かだったからな」


  当たり前、みたいに言うんじゃないよ。分かってないなぁ、みたいな視線はやめろ。


「あと、我は持ち物など持ってきてはおらん。邪魔だったからな!」


  は? そんな理由で全裸だったのか?


「つーか、お前はどっから来たんだ?」


「言ってなかったか? 我は大陸の北、スカ「大変だっ!!」……なんだいきなり! 邪魔をするな!」


  途中で飛び込んできた大声に遮られて、バロックが憤慨する。宿屋の入り口を見ると、息を切らした冒険者らしき男が膝に手をついている。


  男が顔を上げると、その青褪めた表情が明らかになる。


「ど、ドラゴンが……ドラゴンが襲ってきやがった!!」


  ドラゴン!? 見逃してたのか!


「む、こんな所にドラゴンだと? そんな変わった奴がいたかなぁ……?」


  ブツブツと何かを呟いているバロックを置いて外に駆け出す。その時、町の外の方から轟くような声が聞こえてきた。ドラゴンか!


  一気に出口まで行くと、そこには真っ赤な鱗をもつ大きな龍がいた。口の端から炎が見え隠れしており、地を掴む爪は人一人を串刺しにできそうな程の鋭さを感じさせる。


「グアアアアアアアアッ!!!」


  あまりの大音響に顔をしかめる。爬虫類に類似した細い瞳孔が俺を睨みつける。


「え、『S』だっ! 『S』が来た!」

「無理だ、いくら『S』でも、これじゃ……」

「くそっ、ここで死ぬのか……!」


  ドラゴンに気を向けつつ、周囲に視線を巡らせる。数人の冒険者たちが武器を構えているが、皆が絶望に呑まれているのが分かる。中には、へたりこむ者までいるくらいだ。


  それが、絶対種を前にした人間(エサ)の反応。


  もう一度、ドラゴンを見る。


  そして、思う。






  ーーーーーえ、こんなもんなの?






  ぶっちゃけると、全然怖くない。恐ろしい見た目をしてるけど、犬人族の集落を襲った熊の魔物程のプレッシャーを感じないし、時折出てくる裏エレンの方がよっぽど脅威だと思う。


  グルルル、と唸りながらこちらの様子を伺っているドラゴンだが、体長は十メートルに届くかと言うくらいだ。それなのに、この程度か。


  拍子抜けしたが、気を引き締める。手加減はしない、初手から全力でいかせてもらうぞ!


  腰を落とし、右手を固く握り込む。100%の力を出すことを強く意識して、一息でドラゴンの懐に入り込む。その速さに、ドラゴンは一瞬反応を遅らせてしまった。



  それで十分だ。



  全力の拳を叩き込む。全身に痛みが走るが、歯を食いしばって耐える。



「食らえええええっっ!!」



  全身全霊の一撃。



  それがドラゴンに触れ……



  ドグシャアッ!!!



  という気持ちの悪い音とともに、ドラゴンの腹を消し飛ばした。


  飛び散った血液が降り注ぎ、身体中がドラゴンの鱗よろしく真っ赤に染まっていく。胴体という支えを失くした首がズシンと落ちた。その瞳に、既に生命は宿っていない。


「「「う、うおおおおおおおおお!!!」」」


  冒険者たちから大歓声が上がる。口々に驚きや賞賛、感謝の言葉を発する彼らに、手を突き上げて応える。すると、歓声がより一層強まった気がした。


  そんな興奮状態のオーディエンスに囲まれて、俺は心の中で呟く。




  ーーーーー風呂入りてぇ…………




  虚しさと、全力を行使したことによる筋肉痛だけが残った。なんでだろう、無性に亜人娘たちに会いたくなった。あいつらと遊んで、頭を撫でて…………きっと楽しいはずだ。


  遠い目をしていると、不意に悪寒が走った。痛む身体を動かして飛び退くと、先程までいた場所を紫電が通り過ぎていった。


  突然の攻撃に紫電の来た方向を見ると、左手を前方に突き出したバロックが立っている。その端整な顔つきは、とても愉しそうに歪められている。


  バロックはこちらに近づくと、ドラゴンの死骸を一瞥した。


「ふむ、成龍か。老龍になりかけ、といったところだな。それを一撃とは……」


  ニヤッと、笑みを浮かべる。


  彼女は俺に正対すると、ビシッと指を突きつけてきた。


「お前は面白い! ワタラセ、我と勝負だ!」


  ……はぁ? 何を言ってんだ、こいつは。


「嫌に決まってんだろうが。ふざけるな」


「何っ!? 何故だ!」


「面倒くさいからだ。第一、お前と戦う理由なんて無いだろうが」


「むむ! しかし、ワタラセはかなりの強者ではないか! それなら我と……」


「理由になってねぇよ。なんで強かったらお前と戦わなきゃならねぇんだ?」


「そ、そんなの決まってる! それは……」


  バロックが言葉を区切る。短いタメの後、こいつはとんでもないことを言いやがった。


「我こそが強さの象徴たる『ドラゴン』だからだ!!」


  ………………はぁ?


  その場にいた全ての人からそんな間の抜けた声が漏れた。


  バロックが、ドラゴン? 何を言ってんだ本当に。最初に会った時から思ってはいたが、頭がおかしいんじゃないか?


「冗談も程々にしておけよ。周りの空気を読んで行動しようぜ?」


「なっ! 本当だぞ! 我は一万五千年の時を生きた、伝説とも言われる『古龍』が一角、『紫龍』のバロックだ!」


  手を振り回してジェスチャー付きで訴えるバロックだが、周りの注目を浴びているのはユサユサと揺れる乳房だけだ。あれは兵器だな。


「かなりの重症みたいだな……誰か、良い医者を知ってる奴はいないか?」


  前屈みになっている冒険者の野郎どもに訊ねると、バロックは流石に怒ったのか地団駄を踏み始めた。


「馬鹿にしてるな! いいぞ、それなら証拠を見せてやる!!」


  俺を再度指差した後、彼女は目を閉じて何かを唱え始めた。


  その時、空気がガラリと変わった。冒険者たちもそれを感じ取ったのか、警戒しだす。


「ーーーーー『龍化』」


  呪文らしきものを唱え終わった瞬間、バロックから凄まじいまでの雷が迸り、黒紫色の閃光が辺り一面を染めた。


  閃光が収まり、閉じていた目を開く。あいつは一体何をしたんだ……?


  問い詰めようとするも、バロックがいたはずの場所に彼女の姿は無く……



『どうだ、これこそが我が真の姿だ! さあ、勝負だワタラセ!!』




  ーーーーー彼女の髪と同じ、深紫色の鱗をもつドラゴンが立っていた。




なんと、バロックはドラゴンでした!

いやー、驚きですねー。


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