初依頼
第三章、開始です!
今回は始まりということもあって、短めになっています。
ごゆっくりお読みください。
リオス大陸へと渡る船の上。穏やかな波に揺られて潮風を浴び、紺碧の海を眺める。
「今回は、安全な船旅になりそうですな」
船長が声をかけてくる。以前、リュケイアに行く際にお世話になったあの船長さんだ。
俺は頷きを一つ返すと、目を閉じる。あの時はクラーケンが出たんだったな……
波の音だけ。記憶とは違い、少女たちの声は聞こえてこない。
そのことに少し寂しい気持ちになりながらも、胸に広がるのは「楽しい」という感情だ。
「キュボエの港が見えてきましたな。残りの時間、存分に海を満喫してくだされ」
船長さんが去っていく。俺はゆっくりと目を開くと、徐々に近づいている港町に視線を移した。船着場には、慌ただしく走り回る人たちの姿があった。
「……賑やかだねぇ」
ぼんやりとその光景を見つつ、俺は呟くのだった。
キュボエに着いた俺は、船長さんに挨拶をしてからギルドへと向かう。
亜人娘たちと別れてから三日。馬車をロニエに返してから、キュボエ行きの船に乗り、やっと到着したところだ。
キュボエに来たのは、第一に金を稼ぐためである。結婚というのは何かと金のかかるものだというから、その資金を集めるのだ。
亜人娘たちは全員がリュケイアの生まれであるから、俺たちが将来的に暮らすのはリュケイアになるだろう。リュケイアでは貨幣が殆ど流通してないが、それでも金が必要になることはあるだろうからこその判断だ。
で、お金を稼ぐ方法として、冒険者の活動を選択した。リュケイアには冒険者ギルドの支部が一つしかないため、仕事の量も限られている。比べて、人間の住むリオスならば仕事も多いだろうし、こっちの方が効率的かと考えた。
まぁ、色んな場所を見て回りたいというのもあるんだけどな。リュケイアは自然が溢れている代わりに大きな町とかは無かったし。
活気のある大通りを歩く。たくさんの人が行き交っているために騒がしく、船で感じていた寂しさも薄れていく。ガヤガヤというか、ザワザワとした雰囲気が……
って、ちょっと変だな。重そうな鎧を着込んだ人や大きな剣を背負った人など、冒険者っぽい人が多く、なんだか物々しい空気が漂っている。
……何かありそうだな。巻き込まれないといいんだが。
そんなことを考えていると、ギルドに着いた。中に入ると、外とは違ってピリピリして静かだ。もしかしてギルド関連の厄介ごとだったのか……?
扉が開いた音で冒険者たちの鋭い視線が俺に集中する。しかし、俺を見た瞬間に数人の目が驚きに見開かれていく。
「お、おい、あれ『S』じゃないか?」
「え、Cランクのドルンクを一撃で沈めた、あの?」
「ああ、黒髪黒目……間違い無く『S』だ!」
「やった! これでこの町は助かった!」
どよめきが広まっていき、次第に歓喜に変わっていく。なんだ「S」って。妙な二つ名をつけるんじゃない。
つーか、「この町は助かった」ってどういうことだ? そんな危機に陥ってるのか?
嫌な予感しかしない。
逃げようかと思って振り向くと、ガシッと肩を掴まれる。顔だけを動かすと、そこには冒険者登録の手続きをしてくれた受付嬢が立っていた。
「ワタラセ様……お願いです! 力を貸してください!」
冒険者としての初依頼は、どうやらとんでもない物になりそうだった。
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「ドラゴン?」
「ああ、ドラゴンじゃ。それも、老龍クラスのバケモノじゃよ」
ギルドの二階。俺は応接室のふかふかソファに座りながら、キュボエ支部長であるゲルグの爺さんと相対していた。
「まさかこんな場所に現れるとは、思いもしなかったわい」
大きな溜息を吐く爺さん。頭を抱えたくなる思いなんだろうな。
爺さんから、この町の騒がしさの原因を聞いた。それが、二日前に突如として出現した「ドラゴン」だという。
この世界におけるドラゴンは「絶対種」と呼ばれ、生態系の頂点に位置づけられているという。その要因としては様々なものが挙げられるが、中でもその「魔法」が脅威なのだとか。
ドラゴンは独自の魔法を使う。その魔法は、一説では天変地異と見紛う程の規模と威力をもつとされている。
理不尽さえ感じるな、こりゃ。
また、ドラゴンにはその年齢によってランクがあり、生まれてから百年間は「幼龍」、それから千年までは「成龍」となり、それ以上は「老龍」と言われるようになる。一万年を超えて生きるドラゴンは「古龍」と称されるが、その存在は確認されていない。
ドラゴンは歳を重ねる毎に力を増していき、しかも明確な寿命が不明という、末恐ろしい特徴を持つ。要は、強さに上限が無いってことだ。
魔物のランクに当てはめると、幼龍ならBランク。成龍ならAランク。老龍になるとSランク扱いになる。古龍がどうなるのか楽しみなものだね、全く。
そんなドラゴンは、普段はリオス大陸北部に連なる大山脈「スカイウォール」に生息するはずなのだ。それが南部のキュボエ近辺で目撃されたので、町中に不安が蔓延しているらしい。
必死の形相の受付嬢に連れられてこの部屋に来て、眉間にシワを寄せるゲルグの爺さんから話を聞いた。
ここまでの流れで言えることは一つ。
「……俺にそのドラゴンを倒せと、そう言うわけですか?」
「端的に言うと、そういうことになるのう」
やっぱりか……
「これは、ギルドからの依頼、という形でお前さんに受けてもらいたいんじゃよ。下手をしたら、王都の方にも危害が及ぶかもしれんのでな。報酬としては、魔銀貨一枚までなら用意できるはずじゃ」
そうだよな。いきなり住処から出てくるようなドラゴンだし、どこを襲ってもおかしくはないということか。その高額報酬も妥当なとこだろう。
結婚資金を得るために来た俺にとっては、かなり美味しい話なんだが……
「もちろん、無理にとはいわん。個人的には、お前さんには死んで欲しくないからの」
……爺さんの言葉は、嬉しい。正直言って、この依頼は結構な難易度だと思う。いくら人並み外れた力があったとしても、それが生物の頂点に君臨するドラゴンに通用するかは分からない。死ぬ可能性だって十分にあるのだ。
死んでしまったら、もうあいつらには会えなくなる。
リリシアに言われたことを、俺は忘れていない。彼女たちに心配をかけるようなことはしたくないし、悲しませるなんて以ての外だ。
だけど、と考える。
ドラゴンがリュケイアに行かないとは限らない。その猛威を、いつ彼女たちに向けるかわからない。それで彼女たちの命が危険に晒されるかもしれないのだ。
俺は、彼女たちと一緒にいたいと思っている。ならば、それを脅かす者は排除しなければならないだろう。
……また、心配させることになっちまうな。
「その依頼、受けます」
「……本当か? お前さんの力は知ってるつもりじゃが、勝てるかどうかは怪しいぞ?」
爺さんが、俺の意志を確かめる。この人にも心配かけることになんのかと思うと、なんだか心苦しいものがある。
でも、揺らがない。
「ええ、本当です。俺には、守りたい人たちがいますから」
ーーーーー俺と将来を共にすることを喜んでくれた、彼女たちのために。
「……くくくっ、とことん面白い小僧じゃ! よし、お前さんの覚悟は分かったわい。ギルドの一支部長として、一人のジジイとして、お前さんにドラゴンの討伐を依頼するぞい!!」
俺の決意を感じ取ったのか、愉快そうに笑うゲルグはそう言うと、右手を差し出してきた。
俺は、一度ゲルグの目を見て、その手をがっしりと握った。シワだらけなのに、逞しさを感じるその手に、背中を押される気分になった。
初めてのお仕事、頑張ってみますかね!
初の依頼はベリーハードでした。
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