幕間 素直じゃない、お姫様
ごゆっくりお読みください。
ある日、私は奴隷になった。少し里の外にお散歩しに出かけたら、急に意識を失って、気づいたら首輪を嵌められてた。
卑劣な人間の所業。最初、私は抵抗したけれど、その暴力の前に屈してしまった。
悔しくて、怖くて、心細くて、辛かった。
同じ境遇にいた三人の亜人の少女とともに、光の見えない生活を送っていた。
そんな時、奇妙な人間がやって来た。そいつは何故かエルフ語を理解し、話すことができた。奴隷という身分に堕ちながらも決して余裕を失わず、奴隷商の振るう暴力をものともしない。
何より、エルフの姫であるこの私をからかって楽しむ、変態だった。
そいつが来た二日後、何故か私たちは奴隷から解放された。
けれど、里がある樹海までは遠い。金も何も無い亜人の私たちは、人間の大陸では無力だった。
そこでもまた、そいつは変わっていた。私たちを家に送ってやると言い出した。そんなことをする義理なんて無いのに、やると言った。
……この人間は、信じられるのだろうか。里の衛兵隊長をしているリヒトからは、人間は狡猾な種族であると聞いたけど、この男は違うように思えた。
旅が始まった。その最中、彼は私に対しても他の三人と同じように接してきた。姫として扱われないのは、不快だけど不快じゃない、不思議な気分だった。
ある夜のこと、彼が盗賊たちと相対してる場面を目撃した。何をしたのか分からなかったけど、彼は盗賊たちをすぐに撃退した。そして、私たちの様子を確認しに来たので、私は咄嗟に寝たフリをした。彼は私たちを見ると、「無事でよかった……」と小さく呟いた。
それを聞いたのが、一つのきっかけになったんだろう。
彼は私たちを守ってくれていた。そして、心から私たちを気遣ってくれていた。
お父様が言っていたことを思い出した。
『人間だって、悪い奴ばかりじゃないんだよ。中には、本当に良い奴だっているんだ』
お父様は人間にも好意的な変わったエルフだったけど、その言葉は真実だったのだ。
この人間は、良い人だ。
素直にそう思えた。
態度には表せなかったけれど、一定の信頼を置いていた。
そんな中で、同じく奴隷だった猫人族の少女ユリアが、彼と結婚するかもしれないという状況になった。
結果として、即結婚ということにはならなかったのだけれど、それ以来彼が気になって仕方がなかった。
近くにいると顔が熱くなるし、狐人族のカグラが彼の膝の上で眠るのを見ると、少しだけ嫌な気分になる。
誰に言われずとも、彼のことを好きになり始めていると分かった。
でも、エルフの姫として、それを認めたくはなかった。自分のことながら、つまらないプライドだと思った。
エレンの家を魔物が襲って来た時、彼は一人で魔物と戦い、ボロボロになって二日間寝たままだった。
カグラも同じ状態だったけれど、どうしても彼の方が心配だった。彼が人間とは思えない程に強いのは知っていた。だからこそ、こんなことにはならないと思っていて、その分ダメージが大きかったのだろう。
彼が目を覚ました時、心から安堵した。食事を終えてから再度眠り出した彼を見つめていたのだが、その時に聞いてしまった。
『ごめん……』
彼は、そう寝言を呟いて、泣いていた。
彼の隣で眠るカグラを見て、彼の言葉の意味をすぐに理解した。そして、私の胸中に怒りがこみ上げてきた。
こんな時になんだけれど、軽い嫉妬があった。でもそれ以上に、彼があまりにも自分の身を顧みないことに対する苛立ちがあった。
どうして彼は私の気持ちに気づいてくれないのだろうか?
その怒りは、エルフの里へと向かう途中でも消えることは無かった。
彼は、一睡もせずに私を守ろうとしていた。けれど、そんなの無茶だ。顔色が悪くなっていることからも、それは察することができた。
どうして心配させるの?
その気持ちは、ついに溢れ出てしまった。
泣き叫んで、彼を責めて、抱きついて、泣いて。
思いをぶつけると、彼は謝りながら泣いていた。優しく、私を抱きしめ返してくれた。
あぁ、分かってくれたんだ。
そう思うと同時に、私は泣き疲れて眠ってしまった。
……翌朝、正気に戻って恥ずかしくなったのは、仕方ない。
里に帰ると、お父様が勝手に彼を私の婚約者にしようとした。彼もそれを拒絶することは無かったけど、話は保留になってしまった。私が素直になれなかったせいだけれど、後悔した。
犬人族のエレンも、彼のことを好いているのだ。カグラもそうなのだから、彼がいつ、誰と結婚するかは分からない。
不安になった。そして、彼に対する好意がより明確なものになっていった。
その後、彼の来訪を待つ日が続いた。一度来てくれたが、その時はお父様に用事があったみたいで、話を聞くとすぐに帰ってしまった。ここでも私の性格は邪魔になっていた。
次に顔を出した時は、途中で突き放すような態度になってしまった。会えて嬉しいのに、どうしてこうなるのか……
少し落ち込んでいる私に、彼は追い打ちをかけた。
ーーーーーエレンとカグラ。その二人と結婚する。
サーっと血の気が引いていく。目の前が真っ暗になって、倒れそうになった。何故素直になれなかったのかと、自分の今までの振る舞いを呪った。
しかし、続けて彼はこう言った。
『リリシアとも結婚したい』
一気に頭に血が上った。さっきとは違う意味で倒れそうになった。
というか、一人で複数の女性と関係をもつなんて、不純ではないか?もしかしたら、自分は弄ばれてるだけなのではないか?
疑問が浮かんでいる内に、またもやお父様が勝手に話を進めていた。思わず止めてしまったら、彼は真剣な眼差しで私を見つめた。恥ずかしくなって俯く私に、彼は決断を迫って来た。
ズルいと思いながらも、嫌な気持ちは一切無かった。彼が真剣であると、伝わってきたから。
……私も、それに応えたい!
再度確認を取って、彼はエレンとカグラ、それにユリアとも結婚するということを理解した。
……なんだか、悔しい。
そんな小さな嫉妬心があったからだ。
『そ、そこまで言うなら仕方ないわね! いいわ! けけ、結婚してやろうじゃないの!』
最後の最後に意地を捨てきれなかったのは。
結局、素直にはなれないままだった。だから、ここでは正直になりたいと思う。
わ、私は、あなたのことが、その、すっ、好き…………
~~~~~っ! やっぱり、ダメ!
シンイチ! 私たちのこと、ちゃんと幸せにしなさいよね!!
力不足。リリシアの可愛さが半分も引き出せてない………
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