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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第二章 家に帰るまでが遠足さ
34/93

幕間 素直じゃない、お姫様

ごゆっくりお読みください。

  ある日、私は奴隷になった。少し里の外にお散歩しに出かけたら、急に意識を失って、気づいたら首輪を嵌められてた。


  卑劣な人間の所業。最初、私は抵抗したけれど、その暴力の前に屈してしまった。


  悔しくて、怖くて、心細くて、辛かった。


  同じ境遇にいた三人の亜人の少女とともに、光の見えない生活を送っていた。


  そんな時、奇妙な人間がやって来た。そいつは何故かエルフ語を理解し、話すことができた。奴隷という身分に堕ちながらも決して余裕を失わず、奴隷商の振るう暴力をものともしない。


  何より、エルフの姫であるこの私をからかって楽しむ、変態だった。


  そいつが来た二日後、何故か私たちは奴隷から解放された。


  けれど、里がある樹海までは遠い。金も何も無い亜人の私たちは、人間の大陸では無力だった。


  そこでもまた、そいつは変わっていた。私たちを家に送ってやると言い出した。そんなことをする義理なんて無いのに、やると言った。


  ……この人間は、信じられるのだろうか。里の衛兵隊長をしているリヒトからは、人間は狡猾な種族であると聞いたけど、この男は違うように思えた。


  旅が始まった。その最中、彼は私に対しても他の三人と同じように接してきた。姫として扱われないのは、不快だけど不快じゃない、不思議な気分だった。


  ある夜のこと、彼が盗賊たちと相対してる場面を目撃した。何をしたのか分からなかったけど、彼は盗賊たちをすぐに撃退した。そして、私たちの様子を確認しに来たので、私は咄嗟に寝たフリをした。彼は私たちを見ると、「無事でよかった……」と小さく呟いた。


  それを聞いたのが、一つのきっかけになったんだろう。


  彼は私たちを守ってくれていた。そして、心から私たちを気遣ってくれていた。


  お父様が言っていたことを思い出した。


『人間だって、悪い奴ばかりじゃないんだよ。中には、本当に良い奴だっているんだ』


  お父様は人間にも好意的な変わったエルフだったけど、その言葉は真実だったのだ。


  この人間は、良い人だ。


  素直にそう思えた。


  態度には表せなかったけれど、一定の信頼を置いていた。


  そんな中で、同じく奴隷だった猫人族の少女ユリアが、彼と結婚するかもしれないという状況になった。


  結果として、即結婚ということにはならなかったのだけれど、それ以来彼が気になって仕方がなかった。


  近くにいると顔が熱くなるし、狐人族のカグラが彼の膝の上で眠るのを見ると、少しだけ嫌な気分になる。


  誰に言われずとも、彼のことを好きになり始めていると分かった。


  でも、エルフの姫として、それを認めたくはなかった。自分のことながら、つまらないプライドだと思った。


  エレンの家を魔物が襲って来た時、彼は一人で魔物と戦い、ボロボロになって二日間寝たままだった。


  カグラも同じ状態だったけれど、どうしても彼の方が心配だった。彼が人間とは思えない程に強いのは知っていた。だからこそ、こんなことにはならないと思っていて、その分ダメージが大きかったのだろう。


  彼が目を覚ました時、心から安堵した。食事を終えてから再度眠り出した彼を見つめていたのだが、その時に聞いてしまった。



『ごめん……』


 

  彼は、そう寝言を呟いて、泣いていた。


  彼の隣で眠るカグラを見て、彼の言葉の意味をすぐに理解した。そして、私の胸中に怒りがこみ上げてきた。


  こんな時になんだけれど、軽い嫉妬があった。でもそれ以上に、彼があまりにも自分の身を顧みないことに対する苛立ちがあった。


  どうして彼は私の気持ちに気づいてくれないのだろうか?


  その怒りは、エルフの里へと向かう途中でも消えることは無かった。


  彼は、一睡もせずに私を守ろうとしていた。けれど、そんなの無茶だ。顔色が悪くなっていることからも、それは察することができた。


  どうして心配させるの?


  その気持ちは、ついに溢れ出てしまった。


  泣き叫んで、彼を責めて、抱きついて、泣いて。


  思いをぶつけると、彼は謝りながら泣いていた。優しく、私を抱きしめ返してくれた。


  あぁ、分かってくれたんだ。


  そう思うと同時に、私は泣き疲れて眠ってしまった。


  ……翌朝、正気に戻って恥ずかしくなったのは、仕方ない。


  里に帰ると、お父様が勝手に彼を私の婚約者にしようとした。彼もそれを拒絶することは無かったけど、話は保留になってしまった。私が素直になれなかったせいだけれど、後悔した。


  犬人族のエレンも、彼のことを好いているのだ。カグラもそうなのだから、彼がいつ、誰と結婚するかは分からない。


  不安になった。そして、彼に対する好意がより明確なものになっていった。


  その後、彼の来訪を待つ日が続いた。一度来てくれたが、その時はお父様に用事があったみたいで、話を聞くとすぐに帰ってしまった。ここでも私の性格は邪魔になっていた。


  次に顔を出した時は、途中で突き放すような態度になってしまった。会えて嬉しいのに、どうしてこうなるのか……


  少し落ち込んでいる私に、彼は追い打ちをかけた。



  ーーーーーエレンとカグラ。その二人と結婚する。



  サーっと血の気が引いていく。目の前が真っ暗になって、倒れそうになった。何故素直になれなかったのかと、自分の今までの振る舞いを呪った。


  しかし、続けて彼はこう言った。



『リリシアとも結婚したい』


 

  一気に頭に血が上った。さっきとは違う意味で倒れそうになった。


  というか、一人で複数の女性と関係をもつなんて、不純ではないか?もしかしたら、自分は弄ばれてるだけなのではないか?


  疑問が浮かんでいる内に、またもやお父様が勝手に話を進めていた。思わず止めてしまったら、彼は真剣な眼差しで私を見つめた。恥ずかしくなって俯く私に、彼は決断を迫って来た。


  ズルいと思いながらも、嫌な気持ちは一切無かった。彼が真剣であると、伝わってきたから。


  ……私も、それに応えたい!


  再度確認を取って、彼はエレンとカグラ、それにユリアとも結婚するということを理解した。


  ……なんだか、悔しい。


  そんな小さな嫉妬心があったからだ。



『そ、そこまで言うなら仕方ないわね! いいわ! けけ、結婚してやろうじゃないの!』



  最後の最後に意地を捨てきれなかったのは。




  結局、素直にはなれないままだった。だから、ここでは正直になりたいと思う。


  わ、私は、あなたのことが、その、すっ、好き…………


 



  ~~~~~っ! やっぱり、ダメ!


  シンイチ! 私たちのこと、ちゃんと幸せにしなさいよね!!




力不足。リリシアの可愛さが半分も引き出せてない………


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