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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第二章 家に帰るまでが遠足さ
30/93

銀狐様の嫁入り

あれー? なんでこんな展開になったんだー?


とにもかくにも、ごゆっくりお読みください。

  狐人族からの個性的な歓迎を受けた後は、もうどんちゃん騒ぎだった。広い和室は宴会場だったようで、集まっていた人たち全員が好き勝手に騒ぎ出した。さらに、どこから手に入れたのか分からないような食べ物が続々と運ばれてきた。どれもこれも美味そうだったし、事実美味かったのだが、時折魔法で悪戯してくる奴がいて精神的に疲れた。口に入れようとした肉がいきなり生の状態に戻った (ように見えた) ら誰でも驚くだろ。


  その後も勢いが衰えることはなく、食事が終われば外に放り出されて歓迎に参加できなかった狐人族たちの魔法の実験台になってた。彼らは幻影を操る魔法を得意としているようで、物理的被害が無かったのだけが救いだった。


  あの妖怪パーティー、実は俺が山道の魔法を打ち破った後に企画されたものらしく、僅か数分の内に町中の人が魔法で姿を隠し、俺を待ち構えていたのだという。気合いを入れる場所が間違ってるな。


  で、ヤヨイさんの館の宴会場で、選ばれし狐人族たちがこぞって幻影の魔法を使って俺を驚かそうとしていたのだ。俺は落ち武者を見た時点で勘付いてた。まぁ、よくある展開の一つだしな。それを特に驚きもせず、拍手一つで壊滅させたのは、向こうとしては非常に不本意な結果だったそうだ。


  最初にヤヨイさんが放った殺気については、俺に対する試練だった、と説明された。要は、これに耐えられないようなら狐人族の里に立ち入る資格は無い、ということだ。


  因みに、山道の魔法は魔法で普通に打ち消せるし、里の入り口を隠していた魔法は、山を一周しないと解除できないよう細工されていたとのこと。ならあの立て札は何なのかと聞いたら、あれが狐人族の悪癖であり特徴だと教えられた。エルフの族長さんは知ってて教えなかったのか……?


  そんなこんなで丸一日が経った。俺は今、カグラと一緒にヤヨイさんと話をしている。


「事情は分かりました。貴方様は娘をここまで連れてきただけだと、そう言うのですね?」


「ええ、その解釈で合っています」


「なるほど、そうですか」


  ここまで来た経緯を聞き終えて、ヤヨイさんは一つ頷く。


「次はこちらからお聞きしたいことが幾つかあるのですが」


「はい、何でしょうか? 答えられる範囲ならば、お答え致しますよ」


「では一つ。カグラの父はどこにいるのですか?」


  一発目から地雷を踏み抜く覚悟で尋ねる。ここに来てから一度も見かけてないのだ、当然気にはなる。深入りするようだが、答えられる範囲ならば答えてくれるだろう。


「……やはり、そこですか。その問いに対する答えは、『分からない』です」


「……それは、どこかに旅に出ている、というわけではないんですよね?」


「はい。正確には、『誰が父親か分からない』です。私は族長になる以前は、娼婦をしていましたので」


「そうでしたか。すみません、妙なことを聞いてしまって」


「いえ、構いませんよ。貴方様も、分かっていて聞いたのでしょう?」


  薄く開かれた目を真っ直ぐに見つめて、視線で応える。ヤヨイさんは俺の覚悟の程を感じとっていたようだ。そうそう都合の良いことは無いと思っていたが、なんと言えばいいのか……


  だが、俺が頭を悩ませても意味は無い。さっさと次の質問に移ってしまおう。


「では次を。ヤヨイさんは最初に会った時、カグラのことを『銀狐様』と呼んでいましたが、それはなんですか?」


  これについては、ある程度の予想を立てている。恐らくだが、カグラがその『銀狐様』であったが故に、娼婦であったヤヨイさんが族長になったのだろう。もしその通りなら、『銀狐様』というのは狐人族の中では重要なものなのだろう。


「あら、ご存知ではなかったのですか? てっきり、カグラから聞いているものだと……」


「聞いてませんが……カグラは知ってるのか?」


  少し驚いた風のヤヨイさんを見て、俺はカグラに訊く。すると、カグラは頭を縦に振って肯定した。


「ヤヨイさん、説明をお願いしてもいいですか?」


「もちろんです。カグラは『銀狐様』……つまり、狐人族の始祖の魂を受け継いだ、所謂先祖返りなのです。その証拠が、その子の銀色の毛並みです」


  ……そうか、やっと納得した。ヤヨイさんの髪色は紫で、耳や尻尾は地球にいた狐と変わらなかった。他の狐人族も髪色は違えど、耳や尻尾はヤヨイさんと大きく違うことは無かったから、カグラの銀の毛並みに違和感があったんだよな。


「……ローラを治したのは、『銀狐様』の力。強すぎて、耐えられなかったけど」


 ああ、そういうことか。リリシアの言ってた魔力切れの症状との差異はそこから来てたわけだ。


「我々狐人族は、『銀狐様』を崇めていると言っても差し支え無い。だからこそ、カグラは我々にとってはとても大事な存在でした。それが、少し目を離した隙に里からいなくなっているなんて……」


  着物の袖で目元を拭う仕草はとても美麗なのだが、嘘泣きではな。この調子だと、目を離したのは皆で騒いでて気づかなかったから、とかでも不思議じゃない。


  それでも、心配はしてたんだろうな。そうじゃなきゃ、一日中馬鹿騒ぎすることも無いはずだ。たぶん。


「『銀狐様』を崇めるのには、相応の理由があるのです。それは、『まやかしを見抜く』というスキルを持っていたため。『銀狐様』はそのスキルをもつ故、狐人族の得意とする幻影魔法を容易く打ち破ってしまわれた。その力は我々にとっては脅威でありながら、同時に崇敬の対象となったのです。そしてカグラは、そのスキルを受け継いでいる」


「まやかしを見抜く? なら、狐人族の幻影魔法は効いてなかったのか?」


  問いかけると、カグラは小さく頷いて口を開いた。


「……シンイチ、山の前でずっと足踏みしてた。そしたら、いきなりどこかに消えた。その後、気づいたら皆がシンイチを囲んでニヤニヤしてた」


  その場で足をバタバタさせ、次は手を空中でワキワキさせながら奇妙な動きをするカグラ。マジか、そんな風に見えてたのか。


「ん? それなら、どうして魔法を解除してくれなかったんだ? 山道のやつは魔法だって気づいてただろ?」


「……私は、魔法を打ち消す魔法を持ってない。それに、シンイチ面白かったから」


「うふふ、流石は私の娘」


  悪癖出てんじゃねぇか。解除の魔法を知らないなら仕方ないが、後者の理由は言わなくていいだろうに。本当に流石だよ。


「うふふふふ。貴方様も、そのスキルのことはお知りになっているはずですよ?」


  楽しそうに笑っているヤヨイさんから、そんな言葉が出てきた。俺がカグラのスキルを知ってる?


「まやかしを見抜く。すなわちそれは、嘘を見抜くということ。貴方様は、その子に心を覗かれるような心地になったことはございませんか?」


  言われて、ハッとした。カグラに向き直すと、その銀色の瞳と目が合った。


  ……そうだ。偶に、カグラがよく分からないことを言う時があった。エレンたちが寝静まっている時にだけ、そんな感覚があった。


「……私は、シンイチが苦しんでるの、知ってた」


  カグラは、「無理しないで」と、言っていた。けど、俺は無理なんてしてなかったから……


「……シンイチ、自分でも気づけない嘘、吐いてた」


  ……分からない。俺は、どんな嘘を吐いていたんだ?


  ん? というか、吐いてた? 過去形なのか?


「……でも、今は吐いてない。どうして?」


  ……それはなんとなく、分かるかも。


  たぶんだが、リリシアを送る途中のことだ。リリシアたちの気持ちを知って、泣いた後だ。あの時、なんだかスッキリした気分になったんだよな。


  俺は、両親の死がトラウマになっている。あの卒業式の夢が、その表れだった。


  カグラの言う嘘は、もしかしたらそれに関係しているのかもな。自分では分からないのが厄介だが、もうそれは解消されているらしい。心的外傷自体が消えたわけではないだろうが、軽減されてはいるのかもしれない。


  得心がいった。いや、ほとんどいってないけど、分からないなら仕方が無いのだし。


  なんて思っていると、カグラがこっちを見つめているのに気がついた。う、心を覗かれる感覚が……


「……リリシア?」


「い、いきなりどうしたんだ?」


  あ、今のも見抜かれるのか? カグラは小さく頬を膨らませて俺の膝の上に飛び込んできた。いや、ヤヨイさんの前だからそういうのは抑えてもらえると……


「……お母さん。私、シンイチと結婚する」


  俺の願いは真ん中からポッキリと折れた。なんでそんなはなしになるの?


「あらあらあら、うふふふふ」


  笑ってないでなんとかしろよ。お前の娘だろ。


「……ユリアもエレンもする。なら、私がしても問題無い」


「どんな理屈だよ。そもそも、ユリアもエレンも結婚するなんて決まってないし、リリシアだって……」


「……リリシアも、するの?」


  しまった、口を滑らせた。別に隠しておくことでもないが、カグラのジト目が突き刺さるようで後ろめたい気持ちになる。


「リリシアの父親がそう言っていただけで、すると決まってはない。だからそんな目をするな」


「……すけこまし?」


「まぁ、カグラったら。いつそんな言葉を覚えたのかしら?」


  ヤヨイさんが口を押さえて驚くフリをしてる。絶対にあんただろ、教えたの。


「……はぁ。ヤヨイさん、ふざけてないで止めてくださいよ。大事な娘の将来なんですから」


  始祖の魂を持つカグラは里全体で大切にされているだろう。それが他所者、しかも他種族である人間に嫁ぐなんてきっと認められるはずもない。


「うふふ、『銀狐様』の決定に逆らう人などいるはずないでしょう。それに、カグラと結婚しようとする勇敢な男など、狐人族にはいませんよ。畏れ多くてとてもとても」


  そ、そんな考え方があるのか? 狐人族は『銀狐様』を崇めていると言ったが、そこまでの話だったとは。


「……シンイチは、私のこと、嫌い?」


  カグラが涙目に上目遣いを併せて俺を見上げる。


「……嫌いなわけないだろ」


  くっ、そんな顔されたら嫌いとは言えない。元々嫌いじゃないから返事は変わらなかったけどさ。


「……なら、問題無い」


  満足したような笑みを浮かべて、カグラは俺に凭れかかってくる。その様子を見て、ヤヨイさんの微笑が妖しさを増した。


「もしや、貴方様はカグラを虜になさっておいて、責任を取らないと申すのですか? 男として、最低の行為ですね」


  ……くそっ、言い返せない! 言い返したら、それこそ男としての株が下がってしまう。それはプライドが許さない。


「失望しました、女を弄ぶのが趣味だなんて。親としては心苦しいですが、『銀狐様』の意志を曲げることは不可能。娘をこんな鬼畜に渡すなんて……」


  ……ほほう、言うじゃないか。いいだろう。その誘い、乗ってやろう。


「……分かりました。そこまで言うなら、責任を取りましょう」


「あら、そうですか?」


「ええ。男として、ね」


「うふふ、よかったわね、カグラ。結婚してくれるって」


「……やった」


  ガッツポーズを決めるカグラ。預けていた背を離して膝の上で向きを変え、俺に抱きついてくる。ヤヨイさんはいつも通りの薄い微笑。


  スリスリと頬ずりしてくるカグラの頭を優しく撫でてやりながら、俺は思っていた。






  …………………やっちまった、と。




晋一くんはリヒトと同類になりました。


晋一の嘘については、皆様のご想像にお任せします。


誤字・脱字の指摘、感想、評価などをお待ちしています。



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