奴隷? それ俺のことだよ。
少しグダグダですね。とりあえず、生暖かい目で読んでってください。
首に嵌められた鉄製の輪に指を這わせる。ひんやりとしたそれは、一瞬にして俺の命を刈り取ることもできるだろう代物だ。
「何だ、その反抗的な目は!」
小太りな中年オヤジが唾を飛ばしながら怒鳴る。汚いな。
俺の周りにいる幼い少女たちはビクビクしながらこちらの様子を伺っている。
彼女らは姿形は人間だが、人間とは異なるところが幾つかある。
彼女らの頭部には耳が生えている。正確には、「頭頂部」に。犬っぽい耳に猫っぽい耳、狐っぽい耳の生えた者もいる。
また、彼女らには一様に尻尾も生えている。今は薄汚れているが、元々はモフモフとしていたことが容易に想像できる。
更に、彼女らと違って、人間と同じ位置に耳があり、尻尾が無い少女がいる。
しかしながら、その少女も人間とは言い難い。
彼女らとも人間とも違い、その耳は長く尖っているのだ。
彼女たちは一般に「亜人」と呼ばれている。
それぞれ種族の違う「亜人」の彼女たちに共通しているのは、ボロ布を着て、痩せ細っていること。まともな食事にありつけていないだろうことが見て取れる。
そして、今俺がしているのと同じ「首輪」を着けているということ。
お察しの通り、彼女たちは(まぁ俺もだが)『奴隷』である。
一体何故こんなことになっているのか? それは、これから説明しよう。
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俺の絶望的な魔力量が露見した後、正気を取り戻した騎士団長に連れられて俺たちは王の間へと舞い戻った。
「じゅ、じゅう……? それは何かの冗談か………?」
騎士団長からの報告を聞いた王は思わず聞き返すが、重々しく首を横に振る騎士団長に顔を引き攣らせた。
「お前が嘘を吐くとは思えん。となると、どうすべきか………」
腕を組んで唸る王。
王の間全体が微妙な空気に包まれる中、突然勢いよく扉が開き、一人の少女が飛び込んできた。
「聞きました。貴方に勇者の資格はありません! 今すぐに消えなさい! いえ、死んでしまいなさい!!」
入ってくるなり俺を指差してヒステリックに叫ぶ少女。その目は泣き腫らした様に真っ赤だ。
「シ、シエル。落ち着きなさい」
「嫌です! 何でこんな奴が、こんな奴が……!」
そう言って力なく泣き崩れる。
ん?どっかで見たことあると思ったら、こいつ、最初に会った電波女じゃないか。電波では無かった訳だが。
つーか、死んでしまえとか、穏やかじゃないな。いくら低スペックでもそこまで言うか?
「すまんな、勇者殿。これには訳があって……」
王がそう言うと同時、少女が俺を鋭く睨みつける。
……訳っていうのは、相当深いみたいだな。
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前言撤回。
「訳」とか言ってたが、俺にとっては深くもなんともない。
王の話では、あの少女はシエル第一王女、つまりは王の娘であるとのこと。類稀なる魔力をもつらしく、召喚の儀に参加していたのだとか。
で、彼女が怒り狂っていた理由だが、その召喚の儀にあるらしい。俺の魔力量の低さがトリガーになったということだが、大元はそちらにある。
話によると、召喚の儀というのは膨大な魔力を必要とするため、術者が保有する魔力を限界以上に吸われて命を落とすことがあるという。
俺たちが召喚された直後の周りで倒れていた人たちは、実は死んでしまっていたのだ。シエルだけはその天賦の才とも言える魔力で生き延びたのだとか。
つまり、俺たちはその人たちの犠牲の上に召喚されたということだ。
しかもしかも、召喚の儀にはシエルの想い人が参加していたと言うではないか。
シエルが涙を流していたのは、想い人の死が大きな要因となっていたのだろう。
そんな背景がある中で、俺の冗談としか思えない魔力量を知ったシエルはこう思った。
死んだ者たちはこの国を救うためにその命を賭けたというのに、何の力もない役立たずが召喚されてしまった。彼は死んだというのに、その役立たずは生きている。そんなの許せない!
俺はその話を聞いた瞬間、そんな大掛かりな話だったのか……と少し気まずくなったが、すぐに思い直した。寧ろ切れそうになった。
なんつー身勝手な話だ、と。
シエルは俺を生かしておく価値は無いと喚いていたが、考えてもみて欲しい。
俺を喚んだのはこいつらだ。俺は自分の意思でこっちに来た訳ではない。無理矢理連れてこられたのだ。しかも、戦争の道具として、だ。
ここまででも十分に理不尽な話だが、その上更に俺の意思ではどうにもならなく、且つ私情たっぷりの恨みをぶつけられたのだ。
これで怒らないならそいつは病院に行った方がいい。
あまりの言い分にいざ正論を振りかざそうと思ったら、御堂に先を越された。
御堂が言ってしまったのだ。俺が思っていたこと全てを。
これに対して王は酷く申し訳なさそうにしていた。当たり前だ。
しかし御堂の糾弾を受けても、シエルは俺を睨むことを止めなかった。それどころか、俺を処刑することを未だに求めているのだ。
よし、俺もブチ切れてやろうか……と思った時、またしても御堂に出鼻を挫かれた。
ギリッ! と嫌な音が響くと同時、御堂から物凄い威圧感を感じた。御堂の周りが揺らいで見えた。多分、魔力が溢れてるんだ。
御堂は歯ぎしりしながら「そう、そんなに渡良瀬くんを殺したいの、そうなの……」と小さな声で呟いており、目はシエルを見据えて離さなかった。
寒くもないのに鳥肌が立ったのは初めてだった。
周囲が御堂の夥しい魔力に顔を青褪めさせる中、流石と言おうか、騎士団長が一歩進み出て王に進言した。
「彼を奴隷にするのはどうか?」と。
そう言った瞬間御堂の魔力が膨れ上がって何人かの人が気絶したが、騎士団長の決死の説明により御堂は少しだけ落ち着いた。
曰く、「奴隷」というのは俺たちが思うような自由意思を奪われた虐げられる存在ではなく、何かしらの理由で普通には生活できないが、一定の労働を条件に国から最低限の生活を保証してもらっている人たちのことを指すらしい。
借金を抱えて住む場所を失った人や、更生の可能性の高い犯罪者などがこれに該当する。
王は騎士団長の進言を受けると、そうするしか無いと言った。
これもまた身勝手な話だが、国としても体裁というものがあり、戦力となり得る魔術師を失って役立たずを喚んでしまい、しかもその役立たずと勇者を同列に扱っては、国民からの信任が大きく揺らいでしまうのだとか。
なら奴隷じゃなくて一般市民にしてくれよと思うが、御堂の魔力のせいで軽々しく口を開けない。
御堂は魔力を抑えようとしなかったが、奴隷についての補足説明を聞いて急に矛を納めた。
奴隷は、その身分を表すために王国の紋章が入った「腕輪」をつけられる。
いくら国公認とは言え、腕輪付きの人は市民から蔑まれることがあるらしい。
そういった精神的苦痛から逃れるために、奴隷には「解放」と呼ばれる措置が施されている。
「解放」はその名の通り奴隷身分から解放されることで、方法は二通り。
一つは、一定基準まで労働をこなすこと。その労働によってどれだけの利益を出したかを考慮して借金を帳消しにしたり、罪を免じたりするのだ。
もう一つは、解放に足る金を払うことだ。
普通に考えて、奴隷になった人にそんな財力があるはずも無い。
これは、人材を欲する貴族や大商人に向けた制度なのだ。
貴族や大商人は偶に奴隷たちの働く様子を見て回り、気に入った奴隷がいたら国に金を払って奴隷を解放し、一個人として「雇用」するのだ。
この時、奴隷たちには人権が認められているため、雇用主が好き勝手することは許されていない。
いわゆる「スカウト」に近い。
御堂はそれを聞くと、それなら、と言って許可を下した。
気付いているだろうか?
ここまで俺の意思はない。
その後、何故か御堂が主体となって手続きが進み、俺は奴隷となることが決定した。
誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。