エレンとカグラ
昨日は更新できず、申し訳ありません。
では、ごゆっくりお読みください。
青野菜パーティーの翌日。俺はエレン一家と話し合いをしていた。そこには、ローラさんの姿もある。
「シンイチさん。あなたのおかげで娘といられるようになりました。感謝しています」
エルフの里に行く前は暗い表情のローラさんだったが、今は清々しさを感じる。
「俺は何もしてないですよ。皆さんが決めたこと、でしょう?」
「……ふふっ、聞いてた通り、素敵な方のようですね」
ふんわりとした優しい笑みを返される。こうして見ると、エレンと似てるところがあるな。
「これなら、エレンを安心して任せられます」
「でしょう? 義姉さんもそう言ってるし、あなたも納得しなさいよ」
「に、二対一はズルイぞ! シンイチくんも何とか言ってやってくれ!」
……無理だ、俺にはどうしようもない。両側から強いプレッシャーがかけられてる。犬と狐の幻影が見えてきたよ。
そんなことよりも、ローラさんは大分馴染んだみたいだな。どんな話し合いがなされたのかは知らないが、良い結果になって良かった。さっきの会話で話題の予想はついたけどさ。
え? 結婚? 何の話だか分からんね。
とまぁ、それは置いといて。
俺はリュケイアに来るまでに買った地図をテーブルの上に広げながら尋ねる。
「狐人族が住んでいるのは、どこら辺なんですか?」
そう、カグラの家の場所が分からないのだ。カグラに聞いてもコテンと首を傾げるだけで一切の情報が無い。その上、地図にも書いてない。
「狐人族か……北の草原地域にいるって聞いたことあるけど」
「え? 私は樹海に住んでるって聞いた……」
「この近辺ではないんですか?」
……おかしいぞ。ローラさんたちは、皆がバラバラなことを言っている。どれが本当か、そもそも真実はあるのか、それすらも分からない。
一応、地図に候補となる場所をチェックする。北部、樹海、中央部南寄り……三つじゃ何も見えてこないな。正確じゃ無くとも、もっと情報が欲しい。
とすれば、さらに聞いてみればいい。知り合いの中で知識量が豊富な人というと、エルフの族長さんが一番ありそうだな。次点でユリア父だろうか?
……どうしよう、どっちにも会いたくない。間違い無く面倒臭い展開が待ってる。
だが、そうも言ってられない。まさかカグラを連れてリュケイア全土を歩き回るなんてことはできないしな。俺一人ならいくらでも走れるが、見落としてしまう可能性があるから却下だ。それに、当てずっぽうじゃ時間がかかる。
よし、まずは族長さんのところに行こう。近いし、ユリア父の「にゃ」はあまり聞きたくない。
そうと決まれば即行動。
「ちょっと知り合いに狐人族の居場所を聞いてきますね。そんなにかからずに戻ってきます」
「えっ? どこに行くんですか?」
「……お留守番?」
「リリシアの家にな。なに、そんな心配することねぇよ。一応長の許可は得てるから、迷わずにエルフの里まで行けるはずだ」
茶色と銀色、二つの頭を撫でてから、俺は家の外に出て樹海へと軽く走り出す。徐々にスピードを上げていき、集落を出た辺りから一気に加速する。馬車が無い分、遠慮することが無くていいな。
三分で樹海に到達。目の前の木々がザワザワと目に見えて動き出し、進むべき道を示してくれる。かなり広めに開けてくれたみたいだし、このまま突っ込むか。
…………木が俺を避けようとして動いたように見えたのは、気のせいだよな。
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シンイチさんが、エルフの里に行くと言ってから十秒で姿が見えなくなった。遠くで砂煙が上がっているのが見えるけど、あれがシンイチさんかな。
「……シンイチ、変わった」
隣で同じように樹海の方に目を向けていたカグラちゃんが呟いた。
「変わったって、どういうこと?」
確かに、魔物の襲撃の後と比べるととても元気になってたと思う。そのことだろうか? でも、カグラちゃんは眠っていたからそのことは知らないはずだけど……
「……シンイチ、無理してない」
……うーん。してはない、とは思うけど、カグラちゃんの言うことは時々分からない。
「……リリシア、強敵?」
その言葉に、耳が反応した。
「カグラちゃん。それは、どういう意味かな?」
自分でも怖いくらい冷たい声。なんだか、シンイチさんのことを考えると胸がモヤモヤする。さっきみたいに近くにいると落ち着くけど、いないと、こう、少し苦しくなってくる。そう、今みたいに。
「……たぶん、リリシアがシンイチに、何かした。それでシンイチ、変わった」
……もしかして、リリシアがシンイチさんに告白した、とか? それで元気になったなら、シンイチさんはリリシアのことを……
胸が痛い。締め付けられるような、刺されているような、感じたことの無い痛み。
「……エレン、シンイチのこと、好き」
「えぇっ! なな、なんで!?」
「……見れば、分かる」
唐突なカグラちゃんの言葉に動揺してしまった。確かにシンイチさんのことは好きだけど、でもそれはお兄ちゃんとしてというか、決して恋とかそういうものではないというかなんていうかっ! シンイチさんも妹みたいだって言ってたし、私もそう言われて嬉しかったし!
……うん。言い訳だって、気づいてはいる。それを見破られる程に表情に出しているとは思わなかったけど。
「……私も、同じ」
カグラちゃんが、私の目を見てそう告げる。
やっぱり、カグラちゃんもシンイチさんのことが好き、なんだ。
そして、リリシアもそう。ユリアは分からないけど……そうか。皆が、シンイチさんを慕ってる。
どうしてだろう? なんで、シンイチさんに惹かれたんだろう。
それはきっと、シンイチさんが優しいから。それだけなんだと思う。
……難しいな。全然、はっきりしないや。
「……考えることじゃ、ない。それで、いい」
「……そう、だね」
カグラちゃんの一言がすんなりと受け入れられた。胸の苦しさが和らいでいく。
「カグラちゃんは、余裕があるね?」
「……まだ、負けてないから」
「それは、リリシアに?」
「……エレンにも」
「ふふっ、私も負けてないよ?」
私が微笑むと、カグラちゃんも小さく笑った。相変わらずボーッとした目だけど、しっかりと私を見据えている。私も、逸らすことなく見つめ返す。
「結婚」
「……!」
「私の方が、一歩リードかな?」
「……なら、私もする。それで対等」
「何が対等なんだ?」
「ひぅっ! し、シンイチさん!? 今の聞いてましたか……?」
「? エレンが一歩リードしてるってところは聞いた。なんかのゲームでもやってたのか?」
カグラちゃんとの間で火花を散らしていると、いつの間にかシンイチさんが隣にいた。リリシアとの時もだけど、本当にビックリした。私の問いかけにキョトンとしているから、聞こえてないのは本当だと思う。よかった、流石にここで聞かれるのは恥ずかしいから……
「そ、そんな感じです。それより、早かったですね。もう行ってきたんですか?」
「おう。バッチリ聞いてきた。エルフの族長ともなると違うな、かなり正確な情報が手に入ったぞ」
「……はぁ」
思わず溜息が出てしまった。ここから樹海まで相当な距離があるのに、平然とした顔で立っている。これは呆れてもしょうがない。
けど、帰ってきてくれた。それだけで嬉しくなった私は、自分の気持ちに従って行動しようと思った。
一先ずは、カグラちゃんみたいにシンイチさんに抱きついてみようかな。もうカグラちゃんはやってるし、私がやっても問題は……無いよね?
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エルフの里から戻ってきたら、家の前でエレンとカグラが向かい合っていた。ジッとお互いを見つめあって、異様な雰囲気を醸し出している。
声をかけると、エレンが尻尾をピンッ! と直立させて飛び上がった。驚かせちまったのか。
「対等」とか「リード」とか言ってるから、何かのゲームをやってたのかもな。中断させたなら悪いことをしたな。
と、思っていたら、カグラが飛びついてきた。なんだか甘えん坊になってるなぁ、こいつ。それなりに心配してたんだろうな。
すると、さらにエレンまでくっついてきた。なんだか、本気で幼児退行が進んでるような気がする。顔を真っ赤にしてるから、理性は残ってるみたいだけど。
そんな可愛らしい子ども二人を両腕に引っさげて家の中に入り、待っていたエレン一家も交えて結果を報告する。
簡単に言えば、三人の言っていたことは間違いだった。もっと正しく言うと、嘘の居場所を教えられていた、ということだ。
エルフの里に着いた俺は、「貴様が姫の婚約者とは認めないぞ!」とか喚いてるリヒトを軽くあしらいながら族長さんの家に向かった。つーか、決まりもしてない話が一日で広まってるのに驚いた。
迎えてくれた族長さんは忘れ物でもしたのかと聞いてきたが、目的地に着いてから戻ってきたと言ったら少しの驚きの後に苦笑して「君ならできるか」と言った。普通ならこの距離を一日で往復はしないよな。
リリシアは俺を見てパァッと顔を輝かせたが、すぐに「エ、エレンたちはいないの?」とそっぽを向いてしまった。耳を赤くしているから意味は無かったが。
で、本題に移ったところ、族長さんは狐人族の居場所を知っていた。どうも、大陸西部の小さな山の奥地に住んでいるらしい。若い頃には何度か訪れたこともあり、それなりの交友があるそうだ。
因みに、なんでエレン一家の情報がバラバラだったのかを聞いたところ、「狐は他人を化かすものだからね」とのこと。要は、狐人族が嘘の住処を教えて回っているのだ。
教えてもらったお礼ということでリリシアとの婚約を確約させられそうになったが、リヒトが乱入してきたおかげで助かった。その際にあいつがリリシアに好意を持ってると知って引きそうになったが、仕方ない。だってリリシアは見た目十歳くらいだし。実年齢は分からんが。
そんなこんなで帰ってきたと言うわけで、やっとカグラを送ることができるわけだ。
「エルフの里まで、この短時間で……?」
「空を飛べる翼人族でもこんなに早くはないのに……」
エレンの養夫妻は驚いていたが、「シンイチくん (さん)ならできるのかもな」という結論に落ち着いた。その認識はどうなんだ?ローラさんはなんか目がギラリとしてるし、妙なことを考えてる気がしてならない。
何かを切り出される前にさっさと出て行った方がいいかもな。送った後にはいくらでも会いに来れるし。リュケイアくらいのひろさなら一日で四ヶ所行くのも難しくはない。
「それじゃ、昼過ぎになったら出発したいと思います」
「え、もう行っちゃうんですか……?」
エレンが俺の服の袖を引きながら上目遣いでこちらを見てくる。そんなことされたら行きたくなくなるじゃないか。本当にエレンも変わったな。
「あ、ああ。遅くなってもいけないしな」
「……そうですか」
くっ、尻尾が萎れてしまってる! すごい罪悪感が……
「また会いに来るから、待っててくれよ」
こういう時こそ頭なでなでは強い、はず。うん、尻尾も元気を取り戻してきた。パタパタ振られて嬉しそうだ。
「じゃあ、約束、ですよ?」
「……おう」
「結婚、ですからね?」
「おう……ん?」
聞き捨てならないことを聞いたな、今。エレンが俺を挟んで逆側にいるカグラに笑みを浮かべる。そのカグラは少し悔しそうな顔をしてる。なんだこの展開。
「エレン、あの時の私にそっくり……」
「これで私も安心したわー。他の犬人族じゃゴタゴタもありそうだし、やっぱりシンイチさんが一番よね。ね、あなた?」
「え、エレンまで!? そんなぁ……こうなったら、覚悟を決めなきゃな! シンイチくん、幸せにしてやってくれよ」
マズイ、誰も味方がいなくなった。つーかこれ、遺伝なのか? 亡くなったエレンの実の父は今の俺とそっくりなのか?
「ストップ。その約束は保留にしよう。とにかく、カグラのことを先に、な?」
「ええ、それでいいですよ。私、待ってますからね」
ニコリと微笑むエレンにちょっとだけドキッとしたが、俺にはリヒトのような性癖は無い。無いったら無い。
その後、色々と有耶無耶にしながらも、俺はジト目のカグラを連れて犬人族の集落を旅立った。目指すは、狐人族の住まうリュケイア大陸西部である。
……… (感情の表現とか) 難しいな。全然、はっきりしないや。
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