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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第二章 家に帰るまでが遠足さ
26/93

帰還

今気づいたけど、ユリアのヒロイン度が低いな………


ごゆっくりお読みください。

  リリシアに別れを告げてエルフの里を出る。これから樹海を突っ切らなければいけないのだが、ここで一つ作戦がある。


「いっせーの、せっ!」


  かけ声とともに跳び上がる。二割も力を出してないが、それでも神樹を除くどの木よりも高い位置になってしまう。


  四十メートルはあろうその高さに内心恐々としながらも、ぐるりと視線を巡らせる。流石に某民族並みの視力でも詳細には見えないが、幾つかの建物が密集する場所を発見した。


  よし、あそこがエレンたちのいる所だな。


  スタッと地に降り立ち、先程の方角に体の正面を向ける。


「樹海に入ってから二日とちょっとでここまで来て、しかも最後は五分くらいで着いたんだから……うん、五割くらいでいいかな」


  入念にストレッチをして身体に異常が無いことを調べたら、全力の半分程の力で助走し、走り幅跳びよろしく跳躍する。


  瞬間、景色が全て斜め下に流れていき、強い風の抵抗を感じた。かなりの速度が出ていると、徐々に眼下に見えてきた地面を見て思う。少しすると深緑色の絨毯の切れ目が近づいて、後方に消えてった。


「って、通り過ぎちまってる!」


  大の字に体を開いて全身に風を浴びる。増した空気抵抗によって速度が緩やかになり、落下の角度が大きくなっていく。


  迫る大地に向かって脚を突っ張って、俺はガリガリと土を削りながら着地した。静止したところで足の裏を見るが、擦り傷一つ無い。


「やっぱ出力が上がってんな。それも、倍近くにはなってそうだ……」


  三百メートルは離れた位置にある馬のいない馬車を見て嘆息する。いくらゆっくりだとしても、二日かけた距離をひとっ飛びとは、驚きより先に呆れがくる。


  のんびりと歩いて馬車に向かう。


  作戦というのは、ただ跳ぶだけ。それだけでもこうした結果が得られるのは予想していたが、実際には予想以上だったな。


  馬車に着き、背負っていた荷物を荷台に積み込む。それらをロープでしっかりと固定して、定位置に着く。


  さあ、今から実験の始まりだ。


  往路でリリシアを連れていた時は、大体一時間半でここまでこれたんだよな。


  もちろん、手加減してその時間だった。


  じゃあ、ほぼ手加減無しならどれくらいで着くのか、試したくなったのだ。今なら馬車が壊れないようにすればどれだけ速く走っても文句は言われない。


「よーい……どんっ!」


  腰を落とし、勢いよく踏み込んだと同時に足下の地面が大きく抉れた。


  速い。思っていたよりもずっと速い。さっき跳んだ時よりも圧倒的なスピードで駆け抜ける。


  生身で走ってるからというのもあるのだろうが、新幹線の窓から外を見た時よりも景色の流れが速い気がする。


  グングンと集落が視界に占める面積を広げてくる。ゆっくりと減速していき、集落の入り口でピッタリ停止する。


  かかった時間はおよそ五分ほど。行きではあまりスピードを出してなかったが、それでも時速30km弱はあった。百メートル走と変わらない感覚だったから間違い無い。


  ってことは、ここから樹海まで三十キロちょいだから、それを五分で……やめた。考えない方がいい。


  これだけやっても息切れさえしないんだから、本当に人間じゃねぇなぁ、と思ってふと後ろを見て、俺は実験は失敗だったと結論づけた。


  何故かって?


  そこに、馬車の姿が無かったからさ…………






  掴んでいた押し手の部分を置いて逆走したら、馬車は小さなクレーターの中にぽつんと取り残されていた。走り始めの時点で押し手が取れたみたいで、馬車に大きな損傷が無かったのが救いか。


  仕方なく担いで走り、十五分で帰ってきた。ちょうど入り口近くにいた犬人族の男の子にキラキラした目を向けられたので、軽く手を振っておいた。良い子は真似しちゃダメだぞ?


  馬車を押しながらエレンの家に向かう。確か、こっちの方だったはずだけど……


「あれ、シンイチさん? 戻ってきたんですか!」


「ん? って、エレンか。久しぶりだな」


  声に振り向くと、エレンがいた。両手にいっぱいの青野菜 (文字通り)を抱えていることから、お使いを頼まれたといったところか。


  エレンがトタトタと近寄ってくる。茶色の髪がふわふわと揺れて、尻尾がパタパタと振られている。その顔はとても嬉しそうだ。


「シンイチさん、聞いてください! お母さんが一緒に暮らせることになったんです! それに、それに……」


  テンション高めのエレン。色々言いたいことはあるんだろうが、とりあえずは家に行こう。


「エレン、先ずは家に行こうぜ。話は聞くからさ」


「あ、あぅ……すみません、興奮してしまって。それじゃ、行きましょうか。皆が待ってますから」


  ここが道のど真ん中であることに気づいて恥ずかしそうにしながらも、尻尾はフリフリ。


  まぁ、ローラさんと一緒にいれるってことになったんだし、それも当然か。他にも良いことがあったみたいだしな。


「ふふっ、少し待っててくださいね」


  少し歩いてエレンの家に着く。悪戯な笑みを浮かべたエレンが先に中に入っていき、家の中で何やら話し声が聞こえたかと思うと、玄関の扉がバァン! と勢いよく開いた。


「シンイチくん! 無事だったんだね! いや、安心したよ! よーし、今日はパーティーだ!」


  出てきたのは、言わずもがなエレン父だった。俺を発見するや否や、その場で小躍りを始める。そんなに心配してもらってたのか。柄にもなく嬉しくなるな。


  と、そんなエレン父をどう宥めようかと思っていると、家の中から銀色の物体が飛び出してきた。


  俺は、飛んできたそれを優しく受け止める。銀色は、俺から離れまいとしてギューっとしがみついてくる。


  銀色を優しく撫でると、サラサラとした絹のような手触りがあった。その感触に、思わず笑みがこみ上げてきた。


  銀色はしばらく俺の胸をグリグリした後、顔を上げた。


  俺は、銀の瞳を見つめ、言う。




「……ただいま、カグラ」


「……おかえり、シンイ……その顔は、ない」




  微笑んでいたカグラの顔が一気にしかめっ面になった。何故に出てきた、マイ・デビル……






  締まらない再会を終えた後、一度部屋で寛ぐことにさせてもらった。


  今、部屋の中には俺とエレン、そして目を覚ましたカグラがいる。もちろん、カグラは俺の膝の上だ。これはもうお約束と言える。


  膝の上で耳をピコンピコンと動かしているこの狐娘、目覚めたのはつい半日前だそうだ。つまり、俺が牢の中でプライドをかけた孤独な闘いを繰り広げていた時のことだ。


「なんだか落ち着いてますね、シンイチさん。折角驚かせようとしたのに……」


  隣に座るエレンが小さく唇を尖らせる。珍しく不満を露わにしてるな。カグラのことで驚かそうとしたなら、それはミスだったな。


「エレンが先に言おうとしてたので予想ができちまったんだよ。まぁ、驚きはしてたがな」


  ローラさんのこと以外で良い報告といったら、カグラのことしか無いだろう。因みに、驚いたのは本当だ。思わず悪魔が顔に出てきたくらいにはな。


「うぅ、自分の失敗だった……」


  エレンの尻尾がシュンと萎れた。なんか退行してないか? ローラさんに甘えることができるようになったからかもしれないな。


「……それよりシンイチさん、なんとなく前より密着してません?」


  項垂れていたエレンの目が急に鋭くなった。いや、ジト目になった。


  言われてみれば、カグラとの距離が詰まってるというか、カグラが全身を俺に委ねているというか。重さとか感じないから分かり辛い。


「……ふっ」


  え? 今、カグラが笑った?


  そのことに気を取られたのは一瞬だった。揺れ動く狐耳を見ていると、強大な威圧感が俺を襲った。嫌な汗が滲んだ。


  プレッシャーの発生源は、エレンだ。あの熊の魔物のそれとは種類は違えど、密度は遜色無い。


「……シンイチさん、私も膝の上に座っていいですか?」


「あ、ああ。もちろんいいぞ……」


  妹のような存在からの、可愛らしいお願い。それを拒む理由は無い。


  だというのに、何故だろう。無理矢理に承認させられたと思うのは。


「それじゃ、失礼しますね」


  俺が縮こまったカグラを一度下ろすと、すかさずエレンが膝の上に座り込んだ。ピッタリと全身をくっつけてくる。


「あ……なんか、いいですね、これ。安心するというか、眠くなるというか……カグラちゃんの気持ちが分かった気がします……」


  ふっ、と重圧から解放される。止まっていた息をゆっくりと吐き出して肩の力を抜く。五十キロをノンストップで走っても疲れない身体が、今は異様に重く感じる。


「ん、ふぁぁ……やばい、眠くなってきた……」


  緊張の糸が途切れたからか、強い睡魔に襲われる。そういや、まともに寝たのはリリシアと一緒のあれだけだったな……


  エレンを膝の上に乗せたまま、俺の意識は沈んでいった……






  くすぐったい。


  腹に感じるこそばゆい感触に目を開くと、カグラと目があった。めちゃくちゃ近い。


  視線をヘソの方に向けると、俺の腹筋を指先でなぞっているエレンがいた。何してんだ?


「エレン?」


「……………」


  呼びかけるも、返事は無い。


「おーい、エレン?」


「……………」


  大きめの声で呼ぶが、エレンは俺の腹筋を凝視して動かない。一体俺の腹筋に何があるんだ?


「エレン! どうしたんだ?」


「ひぇっ!? あ、おお、おき、起きてたんですか!?」


  やっと気づいた。奴隷の時もこんなことがあったな。俺の髪をモサモサしてたんだ。


「す、すいません、つい夢中になっちゃって……」


  顔を真っ赤にして謝るエレン。見ると、腹筋が六つに割れていた。


  おぉ、これは嬉しいな。元々は筋肉が付きにくい体質だったから、地味に憧れてたんだよ、シックスパック。エレンは初めて見る割れた腹筋に興味を惹かれたのかもな。


「気にしなくていいよ。それより、お腹が空いたな。何か食べる物は無いか?」


「あっ、それなら今、パーティーの準備をしてるところですよ。お父さん、張り切ってるんです」


  本当にやるのか。エレン父のテンションの産物じゃなかったんだな。


  なんにせよ、エルフの里ではまともな食事をしてなかったから、一日ぶりの飯に期待しちまうな。腹の虫が鳴いてしまうくらいに。


「……私も、お腹空いた」


「ふふっ、二人とも腹ペコなんですね。私も楽しみです」


「早く食べてぇな。よしっ、手伝いに行くか!」


  今度はカグラの家に向かうんだし、英気を養う意味も込めて沢山食べてやるか。


  そう思いながら、二人と一緒にキッチンに向かうのだった。










  …………流し台いっぱいの青野菜を見て食欲が少し減ったのは、ここだけの秘密だ。



 

青は清涼感をもたらす代わりに、食欲を減退させる色ですからね。


明日は更新できないかもしれません。一応頑張りはしますが………


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