デジャヴ……?
今回は短めです。
では、ごゆっくりお読みください。
「……で、何か申し開きはあるかしら?」
「ありません」
俺は今、草の生えた地面を削る勢いで土下座している。眼前には、般若を背に仁王立ちするエルフのお姫様。
「……あなた、本当に反省してるの?」
「誠心誠意、心の底から反省しています」
リリシアの心情を聞いた、その翌朝。何故こんなことになっているのか? 至極簡単なことだ。
リリシアを抱いて寝た。
いや、誤解しないで欲しい。決していやらしい意味合いは無いのだ。しかし、文字通りのことをしてしまった、というのが今回の問題である。
リリシアが眠った後、俺は一人で泣いていた。十八にもなって情けないと思ったが、ひとしきり泣いた後はなんだかスッキリした気分だった。
そして、それと同時に耐え難い眠気が襲ってきた。張っていた気が緩んだのが原因だと思うが、抗えそうになかった。
だから僅かな抵抗として毛布を一枚手繰り寄せてリリシアに掛けたところで、俺は睡魔に負けた。
そして朝。
ポコポコと何かの音がしているのに気づいて目を開けると、ギュッと俺に抱きしめられたまま顔を真っ赤にして俺の肩を叩くリリシアがいた、という状況だ。俺の力が強くて抜け出せなかったらしい。
おかしい。寝る前にはリリシアから手を離していた気がするのだが。
抱き枕か何かと勘違いしてしまったのかもしれない。
それで、ご立腹のお姫様に許しを請いているのが今の俺だ。
「二度とこのようなことが起きないよう、細心の注意を払います」
「え、それは、その、そこまで気をつけなくてもいいわよ! 別に嫌ではなかったし……」
トマトのように赤くなっているリリシアが、ゴニョゴニョと呟く。
……唐突だが、俺の身体は人間のものとは全く異なる性能を誇る。故に、人間の常識があまり通用しない。
アフリカの某民族と遜色ないぐらいの視力があるし、犬人族や猫人族ほどとは言わないまでも聴力も上がっている。
何が言いたいのかというと、最後の言葉もバッチリ聞こえてるぞ、ということである。
分かってはいたが、このお姫様もなかなかに素直じゃない。とは言っても、無闇に抱きつきはしないが。いくら俺でも倫理観はあるのだ。
「と、とにかくっ! 準備して行きましょう!」
誤魔化したな。残念だが俺は鈍感系主人公にはなれないんだ、頭はいいんでな。
ここは一つ、からかってやろうと思う。
「そうだな、そうするか。時にリリシア。もう名前では呼んでくれないのか?」
「えぅっ!?」
おうおう。動揺してる、動揺してる。なんとも可愛らしいもんだ。
「あああ、アレはつい勢いで言っちゃっただけよ! シンイチなんてお前で十分だわ!」
プイッと顔を背けるリリシア。いや、言ってるからな。こいつは本当にイジリ甲斐があるなぁ。
「冗談だって、怒るなよ。そのうちでいいさ」
「……ふんっ!」
拗ねちまったか。まぁ、すぐに戻るだろう。
それよりも、一つ提案がある。これならばすぐにエルフの里まで行けるはずだ。
「リリシア、お前ってエルフ族の姫なんだよな?」
「……そうよ! エルフ族はこのナーガ樹海を護る神樹の最も側にいることを許された高潔な種族! 私はそのエルフ族の中でもより高貴な存在なのよ! 本当なら人間が話しかけていいものじゃないんだから!」
曲がってたへそを一気に真っ直ぐにして、というか上に反らして語り出すリリシア。
高貴な姫。それなら問題は無い。今からするのはそういった人がされる行為だからな。
「へぇ、凄いんだな。それじゃあ、エルフの里がどこにあるかは分かるか?」
「当然よ! 神樹の加護を受けたエルフなら誰でも知ってるわ! だって神樹の根元にあるんですもの!」
「そうなのかー。なら、行く方向は決まったな」
適当に返事をしながら神樹の位置を確認して、リリシアを抱き上げる。右手は脇の下を、左手は膝の裏を支える。
「ちょっと、何よその気の無い返事は……って、キャアッ! いきなり何するのよ!」
「何って、お姫様はこの状態がデフォルトなんだぜ?」
そう、俗に言う「お姫様抱っこ」である。この場合は正真正銘のお姫様抱っこだな。
それにしても軽いな、まるで重さを感じないぞ。あ、俺がおかしいのか。
「よーし、エルフの里に向けて出発だ。しっかり掴まってろよ!」
足に力を込め、一気に解放する。景色を置き去りにして急加速。
「待って、そんなに速くしないで! もっとゆっくりーーーーー!!」
そんな悲鳴を聞きながら、俺は神樹目指して一直線に樹海を駆けていく。もちろん、スピードは落とさない。
目の前に葉が生い茂る枝が伸びているが、ぶつかる寸前で枝が引っ込む。その他にも進行方向にある木が横にズレたりと、一歩進む度に不可思議な現象が起きている。
思った通り、この樹海はエルフを神樹の元へと導いている。
これは昨日のリリシアの様子を見て立てた仮説だった。昨日は結構なハイペースで進んでいたのだが、よくよく思い返してみれば何故か全く木にぶつかってないのだ。
まるで先を行くリリシアに道を譲るかのように、一切の木が邪魔にならない位置にいた。
寝不足で気づかなかったが、普通に考えておかしい。そんなに都合の良い木の並び方があるだろうか?
そこまで考えて、ここが異世界であることと、リリシアがエルフだということを思い出した。そして、エルフが森に愛された種族であるということも。
それなら、勝手に木が動いたり、枝が縮んだりしても不思議ではない。異世界だし、リリシアは森の民であるエルフのお姫様だし。樹海がリリシアを迎え入れてると考えるのが妥当なところだろう。
で、それは実際に証明された。かなりの速度で走ってるが、リリシアを抱えているから道中の木々が避けてくれて障害となる物が無い。
強いて言えば稀に魔物が顔を出すが、俺に追いつけるような魔物はいないみたいだ。立ちはだかるやつは俺の足で粉砕しといた。
「ーーーーーーッ!」
リリシアが声にならない悲鳴を上げて俺にがっしりとしがみついている。これは後で怒られそうだが、許してもらえるだろうな、たぶん。
なんてことを考えつつ走ること五分、突然開けた場所に出た。急ブレーキをかけて、少し地面を削りながらもなんとか止まる。
「……ここがエルフの里か」
眼前の光景に溜息が漏れる。それは落胆ではなく、感嘆からくるものだった。
背が高く幹も太い大木が立ち並んでいる。その枝の上には木でできた家があり、チラホラと出入りする人影が見える。大気中には粒子状の何かがふわふわと漂い木漏れ日をキラキラと反射して、とても幻想的な雰囲気になっている。
それらを見た後、俺はもう一度溜息を吐く。今度は感嘆ではなく、嘆息だ。
「何故人間がここにいる!」
背が高く、整った顔立ちの男たちが俺を囲んでいる。目をやると、周囲の木の上に立つ者もいる。その目は一様に鋭く、射殺さんばかりに俺を睨みつけている。向けられた矢の先端が木漏れ日を反射してなんとも恐ろしい。
そう、俺はエルフたちに囲まれている。敵意剥き出しのエルフたちにだ。
今だにしがみついているリリシアを下ろして、とにかく落ち着いてもらおうと話をする。
「怪しい者ではありません。俺はこいつを……」
ヒュッ、と右頬を矢が掠めていった。目の前の男が矢筒から新しい矢を取り出してつがえる。
「黙れ! さっさと立ち去れ。次は当てる……?」
男の視線がリリシアに向かう。少しして、その目が大きく見開かれると、すぐに憤怒の表情に変わる。
「姫!? お前ら、この人間を捕らえろ! こいつが犯人だ!!」
ん? こいつ勘違いしてるな? って、どっかでやったな、これ。ユリアを送った時と同じ……
「このクズが! 命は無いと思え!」
訂正、やってないわ。猫人族はもうちょっと優しかった。
エルフの男たちが駆け寄ってきて俺の両手を蔦のようなもので縛る。蔦はかなりの長さのようで、手だけでは余っている。
「『バインド』」
俺の手を縛った男がそう唱えると、余っていた蔦が俺の全身を縛りつけた。なるほど、そのための余りだったのか。
「その男は牢屋に連れて行け! 姫、こちらへ」
命令を出しているリーダーらしき男がリリシアを俺から引き離す。リリシアは涙目で俺を睨んでいる。耳まで赤くなってるが、あれは怒りの赤だ。すげー怒ってる。
これは助けを求めても無駄だな……
少しからかいすぎたことを反省しながら、俺は牢屋へと引きずられて行った。
途中でリリシアと同じくらいの背丈のエルフの子供たちに石を投げられたり、わざわざ水たまりの上を引きずられたりした。
…………流石に扱いが雑じゃないかと思ったのは、言わない方がいいだろうな。
晋一のキャラが変わりましたね。
今回は最後の部分を書きたかっただけです。
誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。
また、感想をお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。




