急襲
ユニークが二千を超えていました。何があったんだ………
何はともあれ、読んでくださって感謝感謝です。
では、ごゆっくりお読みください。
エレンの家で開かれたパーティーは、結局ぐだぐだのままに終わった。おかげで結婚云々の話も霧散した。
その後、俺とカグラはエレンの家の空き部屋に寝かせてもらった。俺は一人で寝ることを考えたのだが、カグラの放つ謎のプレッシャーに負けてしまった。リリシアはエレンの部屋に泊まったみたいだ。
「おはよう、シンイチくん。昨日は取り乱してしまって、済まなかったね」
「おはようございます。そのことはもう気にしないでください。またぶり返すと大変なので」
頭を掻きながら「たはは……」と苦笑するエレン父は、エレンを実の子のように大切にしている。昨日一日だけでそれが理解できた。
「それで、今日には行ってしまうのかい?」
「はい。お昼頃に出発しようかと思ってます」
「そうか。時間はあまりないが、エレンと一緒にいてやってくれ。そうだ、お昼ご飯を食べてから行くのはどうかな?」
「ん、そうさせてもらいます」
まだ日が昇ってからそんなに経っていない。日の出が六時だとすれば、今はまだ七時くらいだ。
そこで、エレン母に朝食の準備が整ったと言われたので、子どもたちを呼びに行く。カグラはなかなか起きないから、後回しだ。
エレンの部屋のドアをノックする。この時間だと、もうエレンは起きているはずだ。リリシアは涎を垂らしながら寝てるかもしれんが。
「は、はーい……って、シンイチさん!? あ、ちょっと待っててください!」
ドアを開けたエレンがアワアワとしてすぐに部屋に引っ込む。どうしたんだ?
少しすると、またエレンが顔を出した。少し頬が赤い。
「す、すいません。何の用でしたか?」
「いや、朝食の用意ができてるって言いに来たんだけど、もしかして取り込み中だったか?」
取り込むようなことも無いとは思うが、女の子は男のものさしで考えちゃいけないからな。
「そそ、そうだったんですか。……あの、外に声、聞こえてました?」
「ん? 少なくとも俺には聞こえなかったぞ」
「本当ですか? よかったぁ……」
なんだ、あまり聞かれたくないようなことを話してたのか。リリシアとの間でそんな話題が出るとは、仲良くなったものだ。
……まぁ、今日でお別れなんだけどさ。
「よく分からんが、冷めないうちに来いよ」
とは言うものの、二度と会えないわけでも無し。また皆で集まることもできるかもな。グロウを呼ぶのもいいか? 元奴隷のよしみで。
そんなことを思いつつ、カグラを起こしに行くのだった。
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「……行ったかしら?」
閉められたドアを見つめながら、リリシアが言う。
「うん、行ったみたい。あぁ、ドキドキしたぁ……」
本当に心臓が止まるかと思った。まさかシンイチさんがいるなんて、完全に油断してた……
「元はと言えば、リリシアがあんなことを聞くのが悪いんだからね」
「それは、その、仕方ないじゃない! 気になったんだもの……」
指先をツンツンしながら言うリリシア。その姿はとても可愛らしく、怒る気が削がれてしまった。
「でも、聞かれてなくてよかったわね」
本当にそう思う。
朝、いつもより早く目を覚ました私は、リリシアがこちらを見ていることに気がついた。彼女が私より先に起きているのは珍しかったけど、それよりその視線が怖かった。
どうしたのかと聞くと、彼女は唐突にこんなことを言い出した。
「エレンは、あの人のことは好き?」
リリシアの耳は真っ赤になってた。でも、目は真っ直ぐにこちらに向けられていた。
「うぇ!? それは……好きかどうかと聞かれれば、好きだと思うけど……でも、恋人とか、そういう関係になりたいわけじゃなくて……」
自分でも言ってて分からなくなっていた。私の気持ちはどうなんだろう? って。
「だから、お兄ちゃんって感じが一番近いんだと思う。けっ、結婚が嫌なわけじゃないけど、まだよく分からないし……」
「そう……」
昨日もそうだったけど、なんでリリシアがこんなことを言うのか、とても不思議だった。
「やっぱり、リリシアは……」
「へっ!? わっ、わわ、わた、私が人間を好きにだなんて、そそそんなことあるわけが無いでしょう!?」
そこまでは言ってないんだけどなぁ……
なんて思ってると、ドアがノックされた。ビックリして会話を中断する。私が対応することにして、恐る恐るドアを開けると、噂をすればなんとやら。シンイチさんがいた。
それで先程のやり取りがあって、今に至るのだ。
「とりあえず、ご飯食べに行こうか?」
「それもそうね。今日は何が出るのかしら?」
リリシアは意外と食いしんぼうだ。
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今だに半分寝ているカグラを連れて朝ごはん。エレンとリリシアは先に来ていたようで、既に椅子に座っていた。
「遅いわよ! 待ちくたびれちゃったじゃない!」
「それはカグラに言ってくれ」
リリシアの文句を受け流しながら椅子に座る。カグラは俺の服の裾を掴んで離さないので、仕方なくすぐ隣に椅子を置いて座らせた。
「なによ、カグラにだけ……私には……」
リリシアが何か言っているが、いつもこんなだからな。気にしないでおこう。エレンが苦笑気味なのを見ると、もしかしたらさっきの話のせいかもな。
「お、皆来てるね。それじゃあいただこうか」
「いっぱいあるから、おかわりもできるわよ、リリシアちゃん?」
エレン父と母がやって来て、朝食を食べ始める。リリシアは顔を輝かせた後、すぐにむすっとした表情に戻った。素直じゃないなぁ。
「ったく、そんな膨れっ面じゃ可愛くないぞ」
頭を撫でてやる。リリシアの金髪がサラサラと揺れる。地球なら相当羨ましがられるぞ、これは。
「ななっ! はぅぅ……!」
「ん?」
おかしいな。以前なら「なにしてんのよ!」とか言って手を叩いてたのに、今日は大人しいな。
「も、もういいでしょ……」
うぐ、その目はマズイ。なんか罪悪感がこみ上げてくる目だ。手をどかしてやると、ホッとしたように息を吐くリリシア。もしかして嫌すぎて声も出なかったのか……? もしそうなら傷つくな。
「悪かった。食おうぜ」
今度からは不用意にリリシアの頭を撫でないようにしよう。カグラはいいかな。気に入ってるみたいだし。
そんなことを考えている時だった。
「ま、魔物だ! 魔物の群れが襲って来たぞー!!」
外からそんな声が聞こえてくる。
食事を中断して外に出る。
すると、何人かの人が走ってきた。息を切らし、顔は一様に青褪めている。そのうちの一人の男が必死の形相で訴えかける。
「あ、あんた、早く逃げろ! 樹海の方から魔物が! それも結構な数だ!」
男が指差す方から、ギィーギィーと聞きなれない鳴き声がした。集落のすぐ外に砂煙が起きてる。これはかなり近いぞ。
「どのくらいの数がいた?」
「わからねぇ。少なくとも百は超えてる! そんなことより早く逃げろ!」
言い残して男は走り去ってしまった。
俺は一度家の中に戻る。
「ど、どうしたんだい? 魔物って聞こえたけど……」
「魔物の大群が迫ってます。数は百以上だそうです。皆さんは樹海とは反対の方に逃げてください。リリシアとカグラを頼みます」
「あっ、おい! シンイチくん!」
家を出た俺は、魔物の方に駆けていく。逃げていく人たちが俺を止めようとするが、それを置き去りにする。
集落の樹海側まで来ると、そこには既に魔物がいた。例えるなら、鹿、だろうか? 俺は尻尾が蛇の鹿なんて知らないけどな。
「キャーーーッ!!」
悲鳴だ!
声のした方では、先程の鹿もどきが一人の女性に向かって突進しているところだった。
「させっかよ!」
地面を抉るほどの力で踏み込み、鹿もどきに接近する。鹿もどきはこちらに気づくが、もう遅い。
吹き飛ばす程度に抑えたパンチで鹿もどきの腹を打つ。鹿もどきは数メートルほど吹き飛んだ後、ぐったりとその体を横たえた。
「あっちに向かって逃げろ。立ち止まるな!」
座り込んでいた女性を立たせて、背中を押す。女性は何度かこちらを振り返り、最後はぺこりと頭を下げて走って行った。
「にしても、これは多いな。百とか大嘘だぜ」
どう見ても二百はいる気がする。倍だ倍、ダブルスコアだ。
「仕方ねぇ、片っ端から殴り飛ばす!」
体に負担をかけない程度に走り、目についた魔物を通り過ぎざまに殴り散らしていく。うわ、手が真っ赤だよ……
猿のような魔物の頭に拳を叩き込むと、首から上が消えた。虎のような魔物の腹に蹴りを入れると、胴体が千切れた。
集落に入り込もうとした魔物の半分はなんとか倒せているが、半分は殴り損ねたみたいだ。集落の中心部からも魔物の声がする。
周囲に人がいないことを確認すると、苦々しい思いを抱きながらエレンたちのところに戻る。あいつらは無事だろうか……!
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「どうしたの、お父さん?」
シンイチさんが外に飛び出して行った。さっきの魔物がどうとかいう叫び声と関係あるのかな……?
「魔物の群れが迫っているらしい。急いで逃げろと言われた」
「えっ、じゃあシンイチさんは!?」
「分からないが、彼には何か考えがあるのかもしれない。彼はとても頭がいいからな」
お父さんはそう言うと、お母さんと一緒に逃げる準備をし始めた。そんな、シンイチさんが……
すると、困惑する私の肩に手が置かれた。その手は、カグラちゃんのものだった。
「……シンイチを、信じて」
「え……?」
カグラちゃんが、その銀の瞳で私を見つめる。
「そうよエレン。あの人はクラーケンを一撃で殺した人間ですもの。魔物程度でどうこうなるはずが無いわ」
リリシアまでもがそう言う。どうしてシンイチさんのことが心配じゃないの? いくら強くても、万が一があるかもしれないのに……
と、そこで気づく。リリシアの耳がピクピクと動いている。これは、彼女が嘘を吐いているサイン。
……そっか、リリシアもシンイチさんのことが心配なんだ。それでも、戻ってくると信じてるんだ。
「……分かった、信じるよ。そうと決まれば早く逃げなきゃ。魔物が来ちゃうかもしれない」
ちょうど準備が終わった両親とともに樹海とは反対側に逃げる。
しかし、そこで大きな影が私たちを覆った。
「あ、ま、魔物が……!」
頭上には、巨大な鳥が口を開いて飛んでいた。私たちを見下ろしている。
「グゲェェェェェエ!!」
鳴き声とともに、怪鳥が急降下してくる。
ダメだ!
そう思った瞬間、リリシアが怪鳥に向けて両手を突き出した。その腕から、緑色の光が溢れる。
「食らいなさい! 『ストームランス』!!」
緑の光がリリシアの両手の平に集まると、そこから風が巻き起こり、怪鳥に向けて嵐のような勢いが閉じ込められた風の槍が撃ち出された。
「グガァッ!?」
風の槍は怪鳥の胸を貫くと、そのまま怪鳥を建物の向こう側に吹き飛ばしてしまった。
「フンッ! 私を襲おうなんて、身の程知らずな鳥ね!」
彼女は軽いウェーブのかかった金髪をかき上げると、少し嬉しそうな顔をして胸を反らした。
「あ、ありがとう、リリシア」
「と、当然よ。仲間を守るためですもの!」
仲間。リリシアのその言葉が、とても嬉しかった。緊急時なのに、心が温かくなった。
「無事ですか!?」
そこへ、シンイチさんがものすごい速さで駆けつけて来た。
「あぁ、私たちは大丈夫だけど……」
お父さんが口ごもる。それも仕方ないと思う。だって……
「シンイチさん、なんで血まみれなんですか!? 大丈夫ですか!?」
……全身が血で真っ赤になってるんだから。
「ん? あぁ、これは魔物の返り血だよ。俺は無傷だから、心配すんな。それより、魔物が来ませんでしたか? 確かに鳴き声が……」
よかった、無事なんだ。って、その返り血の量は、それはそれでおかしい気が……
「魔物なら私が倒したわ! エルフの魔法を舐めないでちょうだい!」
フフン、と自慢気に語るリリシア。誰も舐めてないと思うけど……
「リリシア、お前、魔法が使えたのか……」
リリシアの言葉を聞いて、シンイチさんががっくりとうなだれた。どうしたんだろう?
「……気にしない。とにかく、逃げましょう。追ってくる魔物は大分減らしましたから、まずは向こうに……」
と、その時。シンイチさんが話を止めてバッと樹海の方を睨みつけた。
「やっぱり、先に逃げてください。俺は少し様子を見てきます!」
「シンイチさん!?」
様子を見てくる。そう言ってシンイチさんは来た時よりも速く樹海の方へと駆けて行った。
……何か、嫌な予感がする。
「エレン!? どこに行くんだ!」
気づけば、私は走り出していた。予感に突き動かされるように……
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無事にエレンたちと合流できた。なんとリリシアが魔法を使って魔物を撃退したらしい。そうか、リリシアまで魔法が使えるのか。俺も一回くらい……
気を取り直して逃げようとする。
しかし、いきなり心臓を掴まれるような感覚を覚えた。背中に嫌な汗が滲む。
樹海の方を睨む。向こうから気配がする。たぶん、放置してはいけない危険が、あっちに……
俺は再度エレンたちに逃げるように言って、気配に向けて駆け出す。最初からトップスピードで飛ばす。
どんどんプレッシャーが強くなってくる。なんだ、一体何がいるんだ。
……そういや、魔物の様子が変だったな。何種類もの魔物が一様に樹海から走ってきていた。まるで樹海から「逃げる」ように。
道を走り抜ける。その時、視界の端に、建物と建物の間に黒い何かがあるのが映った。
その瞬間、ゾワッと鳥肌が立った。
ーーーーーこいつだ!
足を止めて謎の黒い物体に体を向ける。よく見ると、建物の間にいるのではなく、建物の向こう側にいるみたいだ。
恐る恐る近づいていく。すると、突然目の前の家が吹き飛んで、何かが眼前に飛び出してきた。
「ッッ!」
間一髪で横っ飛びに避ける。
「グルルルル……」
そこにいたのは、真っ黒な巨体をもつ熊。三メートルはいくだろうかという体を揺らしている。目は濁った赤で染まっていて、まるで血のようだ。
「お前が元凶か……」
「ガアァァァ!!」
俺の呟きには反応せず、またも突進してくる。
けど、それは愚策だ。カウンターをお見舞いしてやる!
「ハァァァァッ!!」
六割ほどの力で十分だと当たりをつけて、固く握った右拳を迫り来る熊の眉間に向けて放つ。クラーケンを爆散させるほどの威力だ。これで倒せるはず。
そう思った時だった。
「グルゥゥアッ!!」
「なっ!?」
確かに拳は熊に当たったのに、熊はビクともせずに突進してきた。
「グハッ! ガッ!」
熊に吹き飛ばされて地面をバウンドする。くそ、六割じゃ足りないのか?
全身に痛みが走る。この世界に来てから初めてダメージらしいダメージを受けた。フラフラして上手く立ち上がれない。
「シンイチさんっ!?」
この声は、エレン!?
顔を上げると、目を見開いてこちらを振り返るエレンがいた。もしかして俺を追いかけて来たのか? それで、俺は熊に吹き飛ばされたせいでエレンの後ろに来ちまったのか。
そこまで考えて気づく。
「エレン! 後ろだ、逃げろー!!」
「え?」
エレンが振り返る。そこにいるのは、巨大な腕を翳す熊。
エレンのもとに行こうとするが、ダメージが邪魔をして立ち上がるのがやっと。
固まっているエレン。熊の腕がゆっくりと振り下ろされる。いや、違う。俺の視界が遅くなっているのか。
死が、エレンに迫る。あれに当たれば、間違い無くエレンは死んでしまう。
動こうとするが、思いとは裏腹に身体は錆びてしまったかのように止まっている。
エレン!!
小さなその身体がその凶腕の餌食となる寸前、横からフードを被った人がエレンを突き飛ばした。
グシャッ!!
潰れるような音がして、フードの人が吹き飛ばされる。スローモーションの世界の中で、ゆっくりと飛ばされていく。
その最中で、フードが外れた。
俺には、見えてしまった。
ーーーーーフードに隠されていた、茶色の犬耳が。
今回、投稿に時間がかかってしまいました。話をどこで切ろうか迷っていたのです。申し訳ない………
これからは18時を目安に更新できるように頑張ります。
誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。
また、感想をお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。




