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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第二章 家に帰るまでが遠足さ
19/93

幸せな静けさ

エレンやリリシアの可愛さを十全に伝えられない自分の文才が恨めしいです。


ごゆっくりお読みください。

「あら、エレン? どこか行くの?」


  シンイチさんと一緒に旅をして、やっと私は家族と再会することができた。


  お父さんの発案でシンイチさんたちと一緒にパーティーをすることになって、私は準備を手伝うことにした。その途中、リリシアに声をかけられた。


「うん、ちょっと野菜を貰いに行くんだ」


「ふぅん。それ、私も着いて行っていいかしら?」


  私は少し驚く。リリシアはお姫様だから、あまり人を手伝うということをしない。基本は全部シンイチさん任せだった。シンイチさんも自分からやっていたから、リリシアが悪いとは言わないけど。


  そんなリリシアがどうしてこんなことを言うのか不思議に思った。


「いいけど、なんで?」


「え? なんでもいいじゃない、暇なんだもの。もう、カグラばっかり相手にして……」


  最後の方はゴニョゴニョとして聞こえなかったけど、たぶん仲間外れにされてつまらなかったんだと思う。シンイチさん、カグラちゃんに甘いからなぁ……


「とにかく! そうと決まれば早速行きましょう!」


  そう言って私に背を向けるリリシア。綺麗な金髪からピョコンと飛び出たエルフ特有の長い耳が真っ赤になっている。


「ふふっ、そうだね。じゃあ、一緒に行こう?」


  チラチラとこちらを見ているリリシアに笑いかけると、彼女もパッと笑顔になった。


  二人で並んで歩き出す。リリシアの、もう何度も聞いたエルフ自慢に相槌を打ちながら、時折犬人族自慢を返す。鼻がいいとか、耳がいいとか、そんなこと。そんな些細なことでも、リリシアはムキになって更にエルフの凄いところを語り出す。そんな彼女を見て私はクスクス笑う。


  私の髪や尻尾は茶色だ。お父さんやお母さん、集落の人は皆、灰色がかった青色をしている。


  一人だけ、違う。それで分かった。


  ーーーーー私は、この集落の生まれじゃない。


  犬人族の集落は、基本的に毛並みの色合いで区別されている。ユリアのお父さんはそれを「血統」の違いによるものだと言っていたけれど、本当かは分からない。


  私は茶色だ。この集落とは違う色だ。


  それが理由かは、はっきりしないけど、私には同年代の友達がいなかった。


  だから、隣で胸を張って楽しそうに話すリリシアを見て、こう思う。


  ーーーーーこれが友達なのかな?


  ここにはいないけど、ユリアもカグラちゃんも、私にとってはそんな存在だ。


  シンイチさんは……少し違うかな? たぶん、お兄ちゃん、って感じだと思う。


  そんなことを考えていたら、いつの間にかリリシアのエルフ話が終わっていた。なんだかジッと私を見ている。


「ねぇ、エレン?」


「な、なに?」


  リリシアの碧色の瞳が私を見据えている。うぅ、少し怖い……


  待っていると、リリシアが口を開いた。


「し、シンイチとユリアは、本当に、けけ、結婚、するのかしら?」


「ふぇっ!?」


  ななな、なんでいきなりそんなことを!? 思わず声が裏返ってしまった。


「べ、別に興味は無いのだけど、エレンはどう思ってるのか気になったのよ!」


  プイッ、とそっぽを向くけれど、彼女の耳はさっきよりも真っ赤に染まって、ピクピクしている。彼女が嘘を吐くときの癖だ。


「わ、私は、その……シンイチさんがいいなら、いいんじゃないかと思うよ?」


  き、急に聞かれても答えられないよ。け、結婚なんて、まだ先の話だし……


「そうなのね……」


  すると、リリシアは何やら考え始めたみたいだ。凄く真剣な顔をしている。これってもしかして……


「リリシアって、シンイチさんのことが、その、す、好き……なの?」


「なっ! そんなことないわ! エルフが人間を好きになるなんてそんなこと、キャッ!」


「だ、大丈夫? リリシア?」


  思わずとんでもない発言をしたと同時に、リリシアが大慌てで否定した。あまりに突然の質問だったからか、驚いたリリシアは足を引っ掛けて転んでしまった。


「いたた……」


「ご、ごめんね、リリシア。変なこと聞いちゃって」


  見ると、膝を擦りむいて血が出てきている。悪いことしちゃったなぁ……


「い、いいのよ、気にしなくて……っ痛ッ!」

 

  立ち上がろうとするけど、どうやら足も挫いてしまっているようだ。


「大丈夫? エルフのお嬢さん?」


  かけられた声に振り向くと、そこにはフードで顔を隠した人が近づいてきた。声から女性だと分かったけど、なんだろう……


  ーーーーーどこかで聞いたことがあるような……?


「ほら、見せて? 擦り傷と、足も捻ってるわね。少しじっとしてて」


  フードの女性はリリシアの傷口に手を当てると、小さく何かを唱えた。


「我慢しててね……『ヒールライト』」


  女性の手が柔らかな薄緑色の光に包まれたと思うと、その光がリリシアに吸い込まれていく。女性が手を退けたところには、もう傷は残ってなかった。


  ーーーーー魔法だ。


「これでもう大丈夫よ。ほら、痛くないでしょう?」


「本当だ……あ、ありがとう」


  リリシアが足を動かして、痛みが無いことを確認する。どうやら治ったみたいだ。


「ふふっ、気をつけて歩くのよ? じゃあね、可愛いお嬢さんたち」


  フードの女性はそれだけ言うと、立ち去ろうとする。


「あの! ありがとうございます。あなたは一体……?」


「……通りすがりの魔法使いよ」


  女性はこちらを向くこと無く、手をヒラヒラと振って歩いて行ってしまった。


「誰だったんだろう……」


  あの声、確かにどこかで……






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「シンイチくん、ちょっといいかな?」


「はい、なんですか?」


  エレン父に呼ばれて隣の部屋に向かう。カグラはお昼寝中なので、とりあえず椅子に座らせておいた。リリシアは何やらソワソワしていたが、どこかへ行ってしまったのか姿が見えない。


「どうしました?」


「あぁ、少し話したいことがあってね」


  その表情は固い。


「エレンのこと、ですか……」


「! 気づいていたのか。そう、あの子のことだ」


  やっぱりか。来るとは思っていた。エレンにあの話を聞いたときになんとなくこうなる、と。


「あの子が私たちの実の子ではない、ということは……」


「エレンから聞きました」


「そうだったか。やっぱりあの子は気づいていたんだな」


  なんだ? エレンは親に聞いたんじゃなかったのか。まぁ、毛色が全く違うもんな。怪しむくらいはするか。


「実はね、あの子は妻の兄の子どもなんだ。つまりは、姪にあたる」


「義理の兄の? なら、エレンはその人と、茶色の集落の女性との間の子、ということですか?」


「……よく分かったね。そう、だから、エレンの毛は茶色なんだ」


「で、茶色の集落は他の集落を嫌っているか何かで、灰青の血が流れるエレンを受け入れなかった、といったところですか?」


  ユリア父の「血統による集落」という話を鑑みれば、自然とその推測に行き着いた。


  俺の問いに、目をパチクリさせるエレン父。


「……すごいね、その通りだよ。なるほど、あの子が頼りにするわけだ」


  そこまでエレンに頼られた記憶は無いんだが、親だからこそ分かることなのだろうか。


「でも、それなら灰青の集落でその女性も暮らせばよかったのでは?」


  見た感じ、灰青の人たちはエレンを避けたりはしてない。灰青の集落は比較的血の違いを気にしない方なのかもな。


  エレン父は、俺の疑問に表情を暗くして、重々しく口を開いた。


「義兄さんは、もう亡くなってる。その原因が、エレンの産みの親を庇ったことなんだ。そのせいで、彼女は灰青の集落ではあまり良い目を向けられないんだ」


  ……何かしらの理由があるとは思っていたが、まさか父親が死んでるなんてな。これは、キツイ。


「茶色にも灰青にも馴染めない彼女は、単身リオスに渡ったよ。エレンは産まれたばかりで体が弱かったから、連れては行けなかった。だから、義妹である妻に、エレンを預けたんだ」


「そうだったんですか……で、それを聞かせて、どうするつもりなんですか?」


  まさか、ただエレンの生い立ちを聞かせただけで済むはずもない。


  エレン父は苦笑した。驚いた、と言う感じに。


「見透かされてたか。シンイチくん、君はこれからどうするつもりなんだい?」


「察しはついてると思いますが、一緒にいた少女たちもエレンと同じ境遇です。あの子たちを帰そうと思っています」


「そうか。実は一つ、お願いがあるんだ」


「お願い?」


「ああ。偶にでいいんだが、顔を見せてくれないか? エレンは、君に随分と懐いているようだからね。さっきも無意識のうちに君の側に座っていたくらいだ」


「構いません。と言うより、俺もそうするつもりでした」


「助かるよ。あの子は友達がいなかったからね。どうも、毛色の違いは子どもたちには大きく見えるみたいだ」


  言いながら、嬉しそうに俺に手を差し出してくるエレン父。俺は、何も言わずにその手を取った。


「本当に、君がいてくれてよかった。ありがとう、シンイチくん」











「シンイチさん、これをどうぞ。採れたてだから美味しいですよ」


  エレンが何やらサラダのようなものを渡してくる。ただし、そこにあるのは全て青色の葉野菜だ。


  「青々とした」じゃない。「青色の」葉野菜だ。


「あ、ありがと。いただくよ……」


  受け取っちまった……エレンの目が俺を見ている。くっ、食べるしかない!


  意を決してサラダを口にする。噛むと、シャキッといい音がした。


「あ、美味しいな、これ」


  普通に食べられた。味はキャベツっぽいだろうか。その甘さに加えて、少しミントっぽい爽やかな感じがあるな。味の強いものを食べた後の口直しにするといいかもしれん。


  今は、エレンの帰還パーティーの最中だ。それほど大きくないテーブルには肉と野菜が半々で載せられている。


「はむっ、んぐっ。これ美味いわ! ねぇ、このお肉は何なのかしら!?」


  リリシアがかなりのペースで肉を減らしてるから、野菜がメインになってきてるが。


「ほらほら、リリシア。口の周りにソースが付いてるぞ」


  布の切れ端でリリシアの口元を拭ってやる。この布は対ユリア&リリシア用に何枚か常備している。もうちょっと落ち着いて食べてもらいたいな。


「あ、んぅ、そ、それくらい自分で拭けるわよ!」


  パシッと布を奪い取ってぐしぐしと乱暴に拭くリリシア。そんなに強くしたら肌が傷つくぞ。


「……ん、シンイチ、私も」


  今度はカグラが口元、だけでなくなぜか眉間の方までベタベタにしていた。お前、それ絶対にわざとだろ……


「はいはい、やってやるよ。ジッとしてろよー?」


  まったく、世話の焼けるお嬢さんたちだ。エレンを見習って欲しい。


「はははっ、シンイチくんは面倒見がいいな。まるでお兄ちゃんだな」


  朗らかに笑うエレン父。お兄ちゃん、か。周りからだとそう見えるのかね。俺はどうも幼稚園の先生のような気がしてならない。


「あ、シンイチさんも口の横にソースが付いてますよ」


「えっ、マジか? こっちか?」


「ふふっ、反対ですよ。拭いてあげます」


  そう言ってエレンが俺の口元を指で拭った。自分でできるんだが、まぁ、やってもらって言うことじゃないか。そんなことをしちゃ、リリシアと同レベルだ。


「ん、悪いな。ありがとよ」


  エレンの頭を軽く撫でる。


「ふぁっ、うぅ……」


  顔を赤らめて小さく俯くエレンだが、尻尾は元気に動いているし、嫌がってはないだろう。


  そんな様子をまじまじと見つめる視線が。


「……………」


「うわっ、どうしたんですか?」


  なんかエレン母の目が鋭い。ギラギラしてる気がする。


「……シンイチさんは、エレンとはどういう関係なの?」


「……はい?」


  いきなり何を聞いてるんだこの人。って、今気づいたが、この目はユリア母の目と同じ……!


「お前、何を言ってるんだ。シンイチくんが困ってるじゃないか」


  お、ナイスだエレン父。そのまま話を横に流して……


「あなたは黙ってなさい」


  エレン父の顔からサーっと血の気が引いていく。尻にしかれるタイプだったか、幻滅したぜ、エレン父。


「えっと、なんつーか、俺にとってのエレンは、しっかりした妹、って感じですかね。頼りになるな、と思ってますが、特に深い間柄ではないですよ。仲間ってとこですね」


  よし、模範解答だろ。正直な気持ちを言っただけだが。


「そう……じゃあエレン。あなたはシンイチさんをどう思ってるの?」


「えっ、私!?」


  矛先がエレンに向けられた。手をわたわたと振って動揺する。こんな慌ててるエレンは少し珍しいな。


「私は……お、お兄ちゃんみたいだなぁ、って思ってた……」


  チラチラと俺の方を気にしながら、小さな声で言うエレン。そんな風に思われてたのか。お兄ちゃん、嬉しいぞ。


「そうなのね……」


  気づけば、リリシアの食事の手が止まっている。あぁ、また口がベトベトになってるよ。


「なるほど……」


  エレン母が何か考え込んでいる。この人、キャラ変わってないか? 実はユリア母が憑依してるんじゃないか?


  すると、エレン母が両手を打って立ち上がった。ユリア父に感じた嫌な予感がここにも……


「シンイチさん。エレンのことを幸せにしてあげてください」


  丁寧にお辞儀するエレン母。見事に九十度、これは点数高い、っていやいやいや……


「い、いくら相手がシンイチくんでも、娘はやらんぞ!」


  エレン父がガタッと立ち上がる。顔が青くなってる。落ち着いて欲しい。まだ結婚なんて言ってないだろう、絶対にその意味で言ったとは思うけどさ。


「ちょっとお母さん! 本当に何言ってるの! そんな、結婚とかまだ早いって……」


  言っちゃったよ、この犬耳娘。否定するところが若干おかしいし、それだけ動揺してるってことか。


「エレンまで……」


  リリシア、顎に手を当てて真剣に考え込むのは後にしろ。お前は肉を食べて場の雰囲気を壊す役だろう。


「……………………………………」


  せめて何か言おうか、カグラ? フォークを握ったまま感情の読めない瞳で見つめられると、少なくない身の危険を感じるよ。


「はぁ、とりあえず落ち着いてくださいよ……」


  各々が好き勝手に振る舞う中で、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしながらも楽しそうなエレンを横目で見ながら、まずは場を収拾しようと動くのだった。






 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






  夜。


  ギャアギャアと鳴き声を上げながら、鳥たちが飛び立つ。


  そこは、ナーガ樹海北部。


  バキバキッ、という大きな音とともに、一本の木が倒れる。その木は、何かに圧し折られたようだ。


  闇夜に、赤い目が爛々と煌めく。


  巨体を揺り動かしながら、その目の持ち主は樹海を北上していく。


  その目から逃れるように、何匹もの動物や魔物たちが樹海を走り抜けた。


  それらが向かう先にあるのは、一つの集落。


  巨体は、のっそりとその歩みを進める。


  平穏な時間は、そう長くは続かないーーー


 


ちょっと晋一がキモいですね。


誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。

また、感想をお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。

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