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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第二章 家に帰るまでが遠足さ
17/93

寂しさと新たな旅路

ユリアとお別れ&エレン編開始です。


ごゆっくりお読みください。

「それじゃ、お世話になりました」


「シンイチー、もういっちゃうのかー?」


「こらユリア、シンイチ殿の迷惑ににゃってしまうぞ。それに、次にシンイチ殿が来た時に沢山遊べるんだから、我慢しにゃさい」


「あらあら、ユリアったら。すっかりシンイチくんの虜ねー」


  ユリアの家を後にして、次はエレンの家に向かうことにした。ユリアは寂しさからか、俺たちを少しでも長く引き止めようとするが、ユリア父に止められている。その隣でちょっと危ないことを言いながらクスクスと笑っている猫耳さんは、ユリア母である。


  実は昨日の夕食の時に会ったのだが、その時にはユリア父を抑える位置にいたのだ。それが何があったのか、今朝顔を合わせた瞬間、俺の両手をガシッと掴んで「ユリアをお願いね」などとのたまうではないか。


  一人娘の将来を勝手に決めすぎだろうと思うのだが、猫人族の習わしなのかもしれない。好意的な解釈に過ぎる、と冷静な俺が囁くが、ここはひとまずそれで押し通そう。


「そんなに経たずに会いに来るよ。だから、それまで良い子にしてろよ?」


  今だにぐずぐずと駄々をこねていたユリアの頭を撫でてやる。小さい子には目線を合わせるのも忘れない。


「うにゃ……わかった。ユリア、まってる」


  よし、上手くいった。ユリアは頭が弱点らしいからな。こうすれば大人しくなるんだ。上から「もう堕ちてる……」とか「責任を……」とか聞こえてくるが、気にしたら負けだ。


「改めて、お世話になりました。どうかお元気で」


「うむ、本当にありがとう、シンイチ殿。君も達者でにゃ。私たちはいつでも歓迎するぞ!」


「ええ、感謝してもしきれないわ。困ったことがあったら、頼ってくれていいのよ? もう家族も同然なんだから」


「……ありがとうございます」


  その言葉に、胸が温かくなる。この世界に来てから何回か感謝されたことはあるが、こんなにも優しい気持ちになったのは初めてだった。


  ユリア母の「家族も同然」という言葉には、先程までの茶化した意味合いが無いのが分かった。本心からそう言ってくれているんだ。


  ーーーーー家族、か。


  既にエレンたちは馬車に乗り込んでいる。後は、俺が馬車を引くだけでいい。


「それじゃ、また……」


  ゆっくりと力を込めると、馬車はキィ、と音を立てて進み始める。


  数歩進んだところで、後ろから声が届く。幼い声が聞こえてくる。


「シンイチー! またにゃー!!」


  振り返る。そこには、短い腕を大きく振って笑う、緑の髪の猫人族の少女。


  父と母の間で咲く、一輪の花。


「ああ、またなー!!」


  それだけを、少女に負けないように大きな声で伝える。手を振り返すと、花は更に大きく揺れた。


  その様子を見て、俺は少しだけ馬車を引く速度を上げる。足が止まらないように、しっかりと大地を踏みしめる。


  こうして俺は、無事にユリアを両親のもとに帰すことができた。まずは一つ、目的を達成できたんだ。




  ーーーーーでも、どうしてだろう?





  一人分の重さが無くなったはずの馬車は、とても重かった。













  シームンの町を出てからは、ずっと南西の方角に進む。目指すは犬人族の集落。


  エレンやユリア父の話によると、犬人族は猫人族とは違って大きな町に一族が集って住むのではなく、ある程度の集団を形成した共同体が小さな村を作って暮らしているらしい。


  生活の基本は狩りと採集になるようで、南部の森林地帯沿いに村があるという。そこなら平野の動物と森の動物を同時に狩ることができるし、畑を作ることも可能だ。採集した物を育てることで定住が容易になる。


  部族内でコミュニティが分かれるのは、血統の違いなどが一因になっていると、ユリア父が言っていた。何でも、町を訪れた犬人族の老人の話だから本当かどうかは怪しいとのこと。


  俺はスピードを出しすぎないようにしながらも、できるだけ速めに走っていた。感じ緩めの早歩きといったところか。


  御者台にはエレンが座っている。一応、道案内として出てきたらしいが、まだ森林地帯には遠い。このペースだと最速で二日はかかるだろう。


「………………」


  俺たちの間に会話は無い。荷台からリリシアの得意げな声とカグラの拍手の音がするだけ。大方、エルフの逸話でも語っているのだろうな。


「……なぁ、エレン」


「は、はいっ。どうしましたか?」


  エレンが少しビクッとする。話しかけられるとは思ってなかったのかな。


「エレンの親って、どんな人なんだ?」


「私の、親……」


  エレンが考えるように黙り込む。しばらくして、やっと紡がれた事実に、俺は動揺した。


「……実は私、本当の親を知らないんです」


「! それは、悪い事を聞いたな」


「いえ、構いません。血は繋がってませんが、優しい父と母、お爺ちゃんにお婆ちゃん、皆に可愛がってもらいました」


「そっか。エレンはその人たちのこと、好きか?」


「はい。大切な、家族だと思っています」


  ーーーーー本当の親を知らない。


  まさかそんな答えが返ってくるとは思っていなかった。


  そういったことは、地球でもよく見られた。産まれてすぐに病院に預けられ、養護施設で育った子どもたち。身近には無かっただけで、ありふれたことだった。


  だからこそ、異世界に来てそんな子どもがいると知って、心が乱れてしまった。


  よく考えれば、世界が違くてもそこにあるのは同じ人間社会だ。そう大きくは違わない。


「エレンは、家族に会いたいか?」


「……はい。ユリアの姿を見て、強くそう思いました」


  チラッと後ろを見ると、ぎゅっと手を握るエレンの姿。


「じゃあ、親には会いたいか? お前を産んでくれた、親に」


「……どうして、そんなことを聞くんですか?」


「さぁ、どうしてだろうな……」


  エレンの本当の両親は、まだ生きているのだろうか?


  そう思ったら、口を突いて出た問いかけだった。少しばかり、俺らしくない。


「……私には、分かりません。会いたいと思う気持ちもあります。会って、どうして私を捨てたのか、聞きたいです。でも、それはとても……怖い」


  俯くその姿は、何かを諦めているような、そんな姿だった。


  ーーーーーまるで、誰かを見てるような、そんな気分。


  すごくモヤモヤして気持ち悪い。


  だから、それを取り払おうと思った。


「なら、俺が探しといてやるよ。会いたくなったらいつでも会えるようにな。こう見えても、人探しは得意なんだぜ?」


  別に得意ではないけどさ。


  ニッ、と笑いながらエレンの方を向くと、彼女はビクッと肩を震わせた。


「そ、その顔、久し振りに見ました……」


  キメ顔だったんだがなぁ……






  夜、亜人娘たちが寝静まり、周囲に誰もいないことを確認してから、俺は足音を立てないように馬車から離れた。この体、夜目も利くみたいで、月明かりだけでもあまり気にならないレベルの視界を得られる。


  だいたい五百メートル程離れて馬車が見えることを確かめた俺は、屈伸運動を始める。身体をよくほぐしたら、その場で軽く垂直跳び。


  それだけで、五メートル程飛び上がってしまう。なんなく着地を決めて、異常が無いかどうかチェックする。


  ……問題は無いみたいだ。


  普段の生活には全く支障無く、少しでも意識を身体に向けて動くととんでもないパフォーマンスを発揮する。観察の結果、そのことはすぐに分かった。


  肉体的な限界が全く見えない、ということが無いのも判明している。


  クラーケンを爆散させた時、海に落ちるまで、実は身体に僅かな痛みが走っていた。


  俺の予想だと、あれは全力のパンチのせいで筋肉が傷ついた、という感じだが、すぐに治ってしまっては調べようも無かった。


  恐らくだが、これは俺の「体力」と「耐久」のステータスに関連するんじゃないだろうか?


  耐久の値を超えた力が肉体を限界以上に酷使し、ありあまる体力でその疲労を治癒した。


  こんなプロセスがあると踏んでいる。それはそう、筋肉痛の仕組みに近いと思う。超回復、というやつだ。


  そうすると、俺はあの時よりも強い力が出せるかもしれない。制御しなければならない範囲が広がったとも言えるな。


  それと同時に、あの子たちを守る力になるはずだ。なんとしても、この力を物にしたい。


  ーーーーー無事に、家族に会わせてやろう。できるなら、本当の両親にも。


  エレンの小さな姿を思い出し、強く拳を握る。


  この身体が役に立つなら、いくらでも動いてやる。馬車を引きながら時速100km超で三十分間走り続けても、同じ時間歩いたのとなんら変わらない化け物染みたスタミナなんだ。動かさなきゃ、宝の持ち腐れも甚だしい。


  その後もちょっとした実験を行って、こっそりと馬車に戻った。


  すると、御者台にカグラがちょこんと座っていた。


  驚いてしまう。まさか起きているとは。さっきは寝ていたはずだ。


「……無理、しないで。独りじゃ、ないから」


  いつもよりもハッキリと開かれている銀色の瞳が、月明かりの夜に輝く。俺は、その瞳から目を逸らせない。


  心の中を、覗き込まれているような、そんな感覚。


「か、カグラ? 何のことだ?」


  その問いかけに返されるのは無言の視線。自分でさえ知らない何かを、目の前の少女は知っている。


  そんなことを思っていると、不意にカグラから目を逸らした。そして、トコトコと近づいてくると、俺の手をきゅっと握った。


「……一緒に、寝る」


「え、あ………」


  そのままカグラに手を引かれて、エレンたちの眠るテントの中に誘われる。


  何も言わずに横になり、俺をその隣に導くカグラ。抵抗もできず、従うままに横になり、カグラに向かい合う。


「……おやすみ」


  それだけ言って、すーすーと可愛らしい寝息を立て始める狐耳の少女。


  何故かその一言は俺の中にすんなりと染み渡っていき、俺はすぐに意識を手放した……










「な、なんで貴方がここにいるのよー!?」


  翌朝、そんな悲鳴で俺は飛び起きた。


「なんだ、何があった!? エレン、リリシア、カグラ! ……って、あれ? なんでテントの中に……?」


「それはこっちのセリフよ! 早く出て行きなさい!」


「ちょっ、リリシア落ち着けって。わかった、すぐに出るって」


  真っ赤になって怒っているリリシアから逃げるようにテントの外に這い出る。そういや、昨日はカグラに連れ込まれたんだっけ。


  この前も、こんなことがあった気がする。


  あれは、奴隷から解放された次の日の夜のことだった。あの時も、カグラは俺に無理をするなと言った。そして今回は、独りじゃない、そうも言っていた。


  ……一体、何のことなんだ?


  少し、頭がズキズキする。こんな痛みは慣れてるから、気にしない。


  っと、そんなことよりもだ。


「どうやってお姫様のご機嫌をとりますかねぇ……」


  最終手段に「エルフ族」のワードを、秘奥技に「スマイル」を置いて、考えを巡らせるのだった。


 

 

カグラの発言の意味とは………?


エレン編は少し重い話になります。僕の力量で十分に表現できるかは分かりませんが、精一杯書かせていただきます。


少し、ユリアの態度が不自然だったかもしれませんね。


誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。

また、感想をお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。

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