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人外さんの異世界旅行記  作者: 洋風射手座
第二章 家に帰るまでが遠足さ
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猫人族の町へ

なんと、お気に入り件数が10を超えていました。拙い文章を気に入ってくださった方、本当にありがとうございます!


では、少しエレン成分を入れておいたので、ごゆっくりお読みください。

  クラーケンを爆散させた後、俺は海に落ちた。クラーケンの肉片がプカプカと浮いていて凄く気持ち悪かったのだが、それ以上に先日の極彩色のトビウオがガツガツとクラーケンを食べているのがショッキングだった。


  船長さんがロープで引き上げてくれたおかげで船に戻れた。甲板に上がると、船長さんを手伝っていた亜人娘たちが駆け寄って来た。


「だ、大丈夫ですか? ケガは……無いですね、よかったぁ……」


「本当に何やってるのよ、あなたは。別にどうなっても構わないけど、無事で良かったわね……うぇ、安心したら気持ち悪くなってきたわ」


「シンイチ、にゃんでイカがはれつしたんだー? シンイチがやったのかー?」


「……シンイチ、流石」


  うん、皆に心配をかけてしまったみたいだな。いや、ユリアは微妙か? カグラは誇らしげな顔で親指を上に向けている。この子は少しズレてる気がする。


「悪いな、心配かけて。お前らが無事で、こっちは安心したよ」


  純粋に俺を心配していたエレンの頭を撫でてやる。リリシアは今撫でると、レディとして少しマズイことになりそうなので止めておく。


「あ、あぅ……」


  エレンが頬を紅くしている。後ろで尻尾がパタパタしているから、嫌がられては無いな。たぶん。恥ずかしがってるだけだろうな、たぶん。


「シンイチー、ユリアもー」


「……私も、頭」


  ちびっ子二人が催促してくる。まだまだ子どもだなぁ、この二人は。エレンの頭から手を離すと、尻尾がぺたんとしおれた。意外と甘えん坊なのか? 大人っぽいエレンの年相応な面が見れて安心だ。


「はいはい、やってやるよ。あっ、そうだ。船長さん、ありがとうございます」


  海から引き上げてくれたし、この人にはお礼を言っとかないと。あのまま海の中にいたら、視界の端のリリシアと同じ状況になっていたかもしれないからな。


「そ、そんな、礼を言うのは私の方だ。今回のことは、海に潜む危険を忘れていた私の失態でもある。本当に、ありがとう」


  船長さんが頭を下げる。うーん、照れ臭いなぁ。クラーケンが出たのは想定外のことだから仕方ないと思うけど、海の男なりのプライドがあるんだろうか?


  あ、そういえば甲板の床板を壊しちゃったな。踏み抜くとか、そりゃあの速度になるわな。


  ……一度、腰を落ち着けて自分の力を測る必要があるな。下手をしたら、周りの人に迷惑をかけてしまうかもしれない。守ろうとした人を傷つけちゃ、本末転倒だ。


  まぁ、それは後にして。


「リリシア、身を投げるのはまだ早いぞー」


  先ずは、船の縁でズタズタになってるお姫様のプライドを修復するとしますかね。

 





  そんな騒動の後は、何事も無くリュケイアの港町、ロニエに着いた。


  塞ぎ込んだリリシアのフォローにかなり手こずったが、エルフ族の素晴らしさを教えて欲しいと言ったら一瞬で快復した。語り出したリリシアは止まらなかった。止めようとしても「貴方が聞きたいと言ったんでしょう!」と言われれば返す言葉も無い。


  まぁ、元気になって何よりだ。


  で、船を降りてからはリリシアも落ち着いたようで、ユリアとカグラにエルフ族のことを教え込んでいた。うん、落ち着いてるかは微妙だな。


  現在、宿屋で一休み中だ。船長さんはギルドにクラーケンの出没を報告しに行った。警戒を促してもらうつもりらしい。


「明日はユリアの家に向かうんですよね。移動方法はどうしますか?」


  エレンが尋ねてくるが、実は俺も迷っていた。


  リオスで馬車を引いてくれていたブルは「ブルーホーン」という魔物で、普段は大人しいが怒ると並の人間では手が付けられない。


  そのために船に乗せることを拒否されたので、キュボエに置いてきてしまったのだ。


  一応、ゲルグの爺さんに預けてきたから問題は無いと思う。爺さんはブルを見て驚いてたが、快く引き受けてくれた。今度お礼を持って行こう。


「馬と馬車を借りてもいいんだが、そうするとお金が心許なくなるんだよな。どっちかを借りる分には問題無いんだが……」


「片方だけでは意味が無いですからね……」


  そうだよなぁ。馬だけ借りても乗れないし、そもそも馬車を引くのがただの馬じゃ、命令を下すこともできない。ブルは知能があるから言葉でコミュニケーションが取れるから楽だったなぁ。


  いや、こうは言ってるけど、実は代案はあるんだよね。エレンが心配性だから言わないけどさ。


  でも、そうすると徒歩で行くことになる。それじゃ何日かかるか分からない。


  ……仕方ない。


「あのさ、エレン。俺的には良い案があるんだけど」


「シンイチさんの負担にならないものなら良いですよ」


  出鼻を挫かれた。でも、一応言ってみるか。


「まず、馬車だけを借りる」


「はい」


「で、それを俺が引っ張って走る」


「え? ダメですよ、そんなの。シンイチさんだけが頑張ってるじゃないですか」


  ……この子は本当に優しい子だなぁ。きっと良い両親に恵まれたんだろうな。


  そう考えると、のんびりしてる暇は無いよな。ここはこの案を飲んでもらおう。


「いや、これはお前たちにも頑張ってもらうことになる。寧ろ、お前たち次第で移動速度が変わるんだ。俺の負担は少ないと言ってもいい」


「そ、そうなんですか。でも……」


「頼む。エレンも、早く帰りたいだろう?」


「……それは、はい、たしかにそうです。分かりました。シンイチさんがいいなら、それで行きましょう」


  よし、許可が降りた。多少強引だったが結果オーライだ。


  その日はそのまま宿に滞在して、明日のために早めに眠ることにした。






  借りた馬車に改造を施す。とは言っても、全体を簡単に補強して荷台に手すりを付けただけだ。昔見た日曜大工の番組の見よう見まねだが、しっかり作れたと思う。


「シンイチは“だいく”にゃのかー」


  ウロチョロするユリアの頭を撫でてやる。こうすると大人しくなると最近気づいた。


  ユリアも、久しぶりに親に会えるということで嬉しいのかもな。


「よーし、たしか西の方に行けばいいんだよな。んじゃ、皆後ろに乗ってくれ」


  四人が乗ったのを確認して、俺も馬車の前方にスタンバイする。


「あの、私たちは何を頑張るんですか? これじゃ、ただ乗ってるだけになっちゃいますけど……」


  振り返ると、エレンの心配そうな顔があった。


「あー、そのままでいいよ。お前らはその手すりをしっかり握って離さないこと」


  そう言うと、渋々手すりを掴むエレン。それが大事なことだというのは、すぐに分かるだろう。


「絶対に離すなよ? それじゃ、行きます、よっ!」


「くどいわね! 早く走りなさッ、キャアァァァァァァ!!!」


「えっ、ちょっ、は、はやっ、すぎですー!!」


「にゃーーー! にゃーーーー!!」


「……ッ! こ、これは、スゴイ」


  再度注意して、掛け声とともに地面を蹴る。その瞬間、馬車は一気に加速して、景色を置き去りにする。リリシアが何か言っていたが、それはすぐに悲鳴に変わった。あのカグラですら息を飲んだほどだ。


  まぁ、大体のところで時速100kmとちょっとって速度かな。気分的にはジョギングと大差ない。


  ん? 馬車の車輪がガタガタ言ってる。壊れたらマズイし、持ち上げるか。


  手首を少し下に回すと、それだけでガタガタという振動や音が消えた。まだ軽いな、五キロのダンベルより軽い。

 

「うっ、浮いてる! 浮いてるわ!」


  リリシアの楽しそうな声が聞こえる。悲鳴ではないはずだ。ユリアもにゃーにゃーとテンション高く叫んでいるし、アトラクション的な面白さはあると思う。無かったら後で謝ろう。


  船長さんの話だと、ロニエから猫人族の町まで約五十キロだったか?なら三十分しないで着きそうだな。


  俺は亜人娘たちの声をBGMに走り続けた。


  ……………後で彼女らに土下座させられたのは、また別の話だ。






  満身創痍の亜人娘たちに土下座をして許しを得た俺は、ゆっくりとした歩みで馬車を引きながら、猫人族の町に入ろうとした。


  猫人族の町は周囲を柵で囲ってあり、その周りを槍を持った猫人族が巡回している。


  ……なんか物々しいな。


  門に近づくと、門番の男が槍を向けてきた。怖いな。あと猫耳がミスマッチだ。


「止まれ! 怪しいやつだな、馬はどうした?」


  あ、そういや俺が馬車引いてたわ。そりゃ止められて当然か。


「あー、馬はいないです。馬まで借りると金が無くなるんで、仕方なく俺が引いてきました」


「なんだその考え方は……?」


  俺に訝しげな視線を向けていた男は、何かに気づくと荷台に目を向けた。あぁ、ユリアか。


「えっと、こいつは俺と一緒に奴隷になってて……」


「ゆ、ユリア様!? おい、お前ら! この男を捕らえろ!! こいつが犯人だ!!」


  ん? こいつ、勘違いしてるな?


  ……いや、馬車を引いてる怪しい男が少女を四人も連れてたら、そう思うわな。


「この犯罪者め! 無事でいられると思うなよ!!」


  うん、地球でこんなことしてたら何もしてなくても犯罪者だよ、たしかに。


  猫人族の兵士たちに腕を縛られ、詰所のようなところに連れて行かれる。この体なら余程のことが無い限りは大丈夫だろうし、心配はしていない。この誤解もすぐに解けるとは思ってる。


  でも、たった一つだけ、気になることがある。


  …………なんであのお嬢さんたち、誰も擁護してくれないんだ? もしかして、まだ怒ってるのか?


  次に馬車を引くときは、もう少しゆっくり走ろう……




晋一は馬車のどこを掴んでんの?というツッコミは無しでお願いします………


尻尾パタパタするエレン、いいですよね。亜人娘たちの中では一番感情表現が楽にできます。


誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。

また、感想をお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。

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