ぶっ壊れ
本日二話目です。
ごゆっくりお読みください。
※忘れていたゲルグの独り言のシーンを追加しました。先に読んでしまわれた方、申し訳ございません。
「………へ? こ、壊れちゃったのかな? すいません、ただいま別のプレートをお持ちしますので、少々お待ちください」
反応し難い数値に固まってた受付嬢が、もう一度奥の部屋に消える。
まぁ、故障を疑うのが普通だよな。魔力は10だし、筋力に至っては文字化けしてたし。
でも、俺は割と落ち着いていた。たぶんアレは故障じゃなくて、正しい俺のステータスだ。予想するに、筋力は高すぎて測定不能だったのだろう。
息を切らした受付嬢が新しいプレートを持って来たので再度試すが、結果は変わらず。変わったのは筋力の文字列ぐらいか。
受付嬢はどう対処すればいいのか迷っている。マニュアル通りに行かなくて申し訳ないな。
そういや、スキルって項目に「完全言語」ってのがあったな。この世界の言葉が分かるのはあれのおかげか。
魔力と筋力以外のステータスが高いか低いかは分からんが、まだまともな数値でよかったと思う。
「何ですか、これ!? こんな高ステータス、Sランク冒険者並みですよ!!」
前言撤回。まともじゃなかったらしい。
「す、少し上の者と相談して来ますので待っててください」
おぅ、慌ててる慌ててる。Sランクがどんだけ凄いかは知らんが、思わず上司を頼っちゃうくらいのことなんだな。
「おい、ボウズ。お前みたいなひょろっちいガキがSランクと同等ってのは、どういう冗談だ?」
手持ち無沙汰になったところに、柄の悪いおっさんが絡んできた。うわ、酒くせぇ。昼間っから飲んでんじゃねぇよ。
「さぁ? なんせ、自分でもよく分かってないんで」
とっとと離れて欲しい。顔は怖いし息は臭いし、そんなんじゃモテないぞ。
「あぁ? なんだその態度? 新入りが先輩に対して舐めた真似していいと思ってんのか?」
察しろよ。嫌そうな表情してるだろ、俺。してるよな?
「何ガンつけてんだよコラ!」
いやいや、んなことしてねーよ。
周りからは「またやってるよ」とか「あいつ度胸あんな……」とか言う声が聞こえる。このおっさん、他の人にもこんなことしてんのか。つーか、本当に俺の表情どうなってんだ?睨んでないよね? 度胸とか言われても知らないからね?
「表出ろよ。礼儀ってやつを教えてやる」
上から目線でそう言うおっさん。ちょっとムカつくな。軽くだったら殴っていいかな。
「さっさと来やがれ、このガキ!」
動こうとしない俺に痺れを切らしたのか、おっさんが俺の肩を掴んで引っ張ろうとする。
が、俺はその場から微動だにしない。こいつ本当に力入れてんのか? と思うくらいだ。
「チッ、クソがッ! ならここで教えてやるよ!!」
おっさんが俺の顔面に向けて拳を繰り出してくる。流石にアレに当たったら痛いかもな。こいつも冒険者なんだろうし、奴隷商よりはよっぽど力が強いだろう。
まぁ、これなら殴っても正当防衛になるよな。ムカついてたし、ストレス発散も込めて軽ーくどついてやろう。
大振りなおっさんのパンチを屈んで回避し、懐に潜り込む。緩く右手を握りこみ、一割程の力でおっさんの腹を小突く。
「グボェアッ……!」
すると、おっさんが変な呻き声を残して吹っ飛び、ギルドの壁に叩きつけられた。そのままズルズルと落ちて行き、うつ伏せに倒れた。
……いやいや、弱すぎだろ。
ピクピクと痙攣するおっさんを見ながら、俺は自分の力がよく分からなくなっていった。本気を出したらどうなるんだろうか?
ギルド内がシーンと静まり返る。他の冒険者たちも、唖然とした様子で俺とおっさんを交互に見ている。今の光景が信じられないのだろう。
そこに、パチパチと拍手の音が響いた。音の発生源に目をやると、先程受付嬢がいたカウンターのところに一人の爺さんが立っていた。
「あっぱれじゃな、シンイチとやら。お前さんにちと話がある。二階に来てくれんか?」
爺さんはそれだけ言うと、隅の方にある階段を上って行った。
よく分からないが、とりあえず爺さんの言葉に従って俺も二階へ向かう。
階段を上った先は応接室のようになっていた。テーブルを挟んでソファが向かい合わせに置いてあり、その片方に爺さんが座っている。
「ほれ、突っ立ってないでそっちに座れ」
「はぁ……」
お言葉に甘えて座らせてもらう。うわっ、すげーふかふかだな、このソファ。
「勝手にで悪いが、お前さんのステータスは見せてもらった。あんなぶっ壊れたステータスを見たのは初めてじゃわい」
言いながら笑う爺さん。その口ぶりから察するに、ギルドのお偉いさんなのかと思われる。今まで色んな人のステータスを見てきたが、って感じの言い方だったしな。
「ふぅ、笑ったわい。自己紹介がまだじゃったな。儂はゲルグ。一応、ギルドのキュボエ支部長を任されておる」
支部長か。予想は当たりだったな。
「はぁ、そうですか。で、ゲルグさん。俺に何の話ですか?」
「ほほっ、物怖じしない小僧じゃ。察しはついてると思うが、お主のステータスについてじゃ」
うん、そうだとは思ってた。受付嬢は俺のステータスを見て相談に行ったのだから、その話が出なくちゃおかしい。
「ギルドの規定に従うとな、お前さんのランクは魔力を除けばA、魔力を含むとDになってしまうんじゃ」
それはまた結構違うんだな。あの低魔力じゃ仕方ないか。
「しかしのぅ、さっきの力を見るとまず間違い無くお前さんの実力はSランク並じゃ。しかもお前さん、あれは本気じゃなかったじゃろう?」
見抜いてたのか。支部とはいえ長を任されていることも考えると、爺さんの実力も相当なものだろう。
「そうなると、どうランク付けしたらよいか、判断に迷ってしまうんじゃよ。儂としてはSをあげたいとこなんじゃが、ギルドの一職員としてはDにせんといかん。せめて魔力と知能が逆だったらのぅ……」
うんうんと唸る爺さん。騎士団長も「戦争では魔法が重要」と言っていたが、魔力は戦力としての重要な指数になってるみたいだ。
「魔法って、どんなものなんですか? かなり強いイメージがあるんですが……」
「なんじゃと? 魔法の威力を知らんのか?」
訝しげな爺さんに小さく頷きを返しながらも、質問したことを後悔した。この世界における魔法ってのは誰でも知ってるもののようだ。
「変なやつじゃの。では見ておれ、『フレイムハンド』」
爺さんが右手を俺の方に突き出してそう唱えると、急に右手が燃え出した。これが魔法か……
…………何かしょぼいな。
「しょぼいとか思ったじゃろ。室内で派手な魔法を使えるわけがあるまい。こんなの三歳の子どもでも使える初歩中の初歩じゃ」
あらら、ばれてたか。爺さんの言うことも尤もだな。こんなとこで戦争に用いる魔法を使ったら大変どころの話じゃない。
てか、三歳でも使えるのか。それなら俺にも……
「お前さんには無理じゃよ。10なんて魔力、そこらの植物よりも少ないわい」
よ、読まれてる……それに、俺は植物にも負けるのか。異世界での楽しみが一つ消えたぞ。
「とはいえ、身体強化も無しに大の大人を軽々と吹っ飛ばす筋力じゃ。最早お前さんの存在自体が魔法のようなもんじゃよ」
存在自体が魔法。こいつは一本取られた! HAHAHA!
「…………何の魔法も使えないんですかね、俺」
「表情は変わっとらんが、落ち込んどるのは分かるぞ。まぁ、使えなくてもお前さんなら問題は無い!」
そうか、使えないのか……
「で、話を戻すがの。お前さんの希望を聞きたいんじゃよ。Aまでなら好きなランクを付けてやれるが、どうする?」
そうだった、ランクの話をしてたんだ。とは言っても、別にランクに興味は無いんだよな。身分証が欲しいだけだし。
「ランクが高いと何か特典があったりはしますか?」
「そうじゃのう。ギルドが運営しとる宿を割安で利用できるぞい。他にも細かいものはあるが、正直使えるのはこれだけじゃな」
あとは自分の力を誇示できるってことぐらいかの、と爺さん。まぁ、冒険者としてはそこが一番大事なとこなんだろうなぁ。
「じゃあ、とりあえずAランクで」
宿屋を安く利用できるのは後々大きくなってくるだろう。亜人娘たちを帰したら色んなところを見て回るつもりだからな。
「そうか。本当はSを付けたいんじゃが、儂にそこまでの力は無くての。すぐにカードを作るから待っておれ」
爺さんが一階に降りて行く。
暇な時間ができてしまった。どうしようか。
適当にテーブルの上にあった銀色の置物を弄んでたら、思わず力を入れすぎて砕いてしまった。親指と人差し指で摘まんだだけなのになんで砕けんだよ。
「待たせたのう。ほれ、これがお前さんのカード……って、何をしとるんじゃ!?」
やべ、爺さんが戻ってきちまった。
誤魔化すのもいけないと感じたので素直に謝る。
「そこまで高価な物ではなかったから壊したのは構わんのじゃが、摘まんだだけでそれとは……」
壊れた置物を見て嘆息する爺さん。許してもらえてよかった。
「それじゃあ、俺はこれで。ありがとうございました」
「サラッとしとるのう。儂はお前さんが気に入ったわい。応援しとるぞい」
少年のように笑いながら、爺さんがそう言う。なんか、この爺さんには長生きして欲しいと思った。
こうして俺は、身分証を手に入れることができた。早く明日の船の予約を取って宿屋に戻らないとな。
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小僧が出て行った階段を見つめながら、儂は未だに笑いを抑えられんかった。
「くくく、なかなか面白い小僧じゃ。自分の力を驕ること無く、どっしりと構えておった。こんな若者は今時珍しいぞい」
小僧のしれっとした無表情を思い出して思わず噴き出してしまう。顔には出ないが雰囲気で感情の変化が分かる、意外に感情豊かなやつじゃった。
「それにしても、摘まむだけでこれを砕くとはのう……」
壊れた銀色の置物を片手で掴み、思い切り握り込む。が、置物は全く割れる気配を見せない。
「ふぅ。少し衰えてるとはいえ、これでも元Sランクの全力なんじゃが……やはりあの小僧は変わっとるわい」
この置物は高価ではないと言ったが、それは嘘だ。実際、市場に出せば魔銀貨十枚近くの値がつくだろう代物だ。
なにせ、その魔銀貨の元である「ミスリル」でできているのだから。しかも、魔銀貨に使われるミスリルよりも純度の高いミスリルだ。
ミスリルはその特性上、純度が上がるにつれてその硬度を増していくため、ある一定の純度を超えるとあまりの硬さに加工が不可能になってしまうのだ。それ故、市場に出回るミスリルや魔銀貨は、正確にはミスリル「合金」なのだ。
そしてこの置物は、加工できる限界の純度のミスリルで作られている。普通、素手でどうこうできる物じゃない。
それを、いとも容易く砕いたのだ、あの小僧は。
「頑張るんじゃぞ、シンイチ……」
強大な力を持った少年の身を今一度案じながら、儂は自分の仕事に戻るのだった。
ステータスの各項目については後々説明していきたいと思います。
誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。
また、感想をお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。