港町キュボエとギルド
PVが5,000を超えました!読んでくださってる皆様、本当にありがとうございます!
今回やっと今の晋一のステータスが出ます。
では、ごゆっくりお読みください。
※晋一のスキルを「完全言語理解」から「完全言語」に変更しました。
小高い丘に挟まれた港町、キュボエ。ここが俺たちの行き着いた場所だった。
「向こうからじゃ見えなかったが、海があったんだな」
宿屋の窓から見える港の様子はとても活気がある。人々が動き回り、船に荷物を積み込んだりしている。時折怒鳴るような声も聞こえてくるが、これも海に生きる人たちの日常の一つなのだろう、怒鳴られた本人以外はクスクス笑いながら自らの仕事をこなしている。
昨日の昼過ぎ、キュボエに着いた俺たちは、門番に何かを言われることも無く無事に町に入ることができた。人間嫌いのエルフを連れていることを指摘されるかと思ったが、そんなことは無かった。
リリシア曰く、人間に興味を持つ物好きもいる、とのこと。そんなエルフたちはナーガ樹海を出てリオス大陸へと渡るらしい。だからさっきの門番もリリシアを気にしなかったのだろう。
とりあえず宿屋で三人部屋を借りてその日は何もせずに旅の疲れを癒そうということになったのだ。
因みに、ブルは宿屋の裏庭に置かせてもらった。干し草を美味そうに食んでいたな。
「今日はどうするんですか?」
エレンが尋ねてくる。特に計画を立てていた訳でも無いので、これからの時間は自由だ。
しかしながら、あまりゆっくりしてもいられない。早くこの子たちを家に帰さなければならないのだ。親御さんのことを考えてもそれが最優先事項なのは明らかである。
明らかではあるのだが、それより先にしなければならないことがある。これは必須事項なのだ。
「ん、今日は服とか食料とか、色々買い揃えようと思ってる。皆にも付き合ってもらうけど、大丈夫か?」
そう。買い物である。
この子たち、まぁ俺もなのだが、服がボロボロなのだ。隠す所は隠せているが、服と呼ぶのは少し躊躇われるような代物となってしまっているので、早急に対応せねばならない。
下手をすると全裸で感動の再会、ということになりかねない。
「買い物ですか。たしかに足りないものとかありますから、このままでは不安ですね」
「わーい、おでかけー」
「………楽しみ」
「服を買うのは賛成ね。そうと決まれば早く行きましょう。こんなボロ布じゃみっともないもの」
「そうか。じゃ、行こうぜ」
うん。皆乗り気みたいだ。
カグラとユリアの手を引いて宿屋を出る。この二人、目を離すとフラフラして危ないのだ。手を繋いでおけばその心配も無用だ。気になるのは俺たちを微笑ましそうに見るおばちゃんたちの視線と、数人の男たちの視線。
「可愛い子ばっかり連れて歩きやがって。羨ましい……」
「いいなぁ、俺も手を繋ぎたいなぁ……」
「あの猫人族の子、ハァハァ……」
聞こえてるぞ、変態ども。純粋なユリアにそんな目を向けるんじゃない。見ろ、エレンが引いているじゃないか。
「なんか、気持ち悪いです……」
「やっぱり人間は変態ばっかりね!」
「おい、なんで俺を叩く」
俺が変態だとでも言いたいんですかね、このお姫様は。
そんなこんなで必要な物を買いながら町を歩く。服も新調してしっかりとした物になっている。亜人娘たちも何だか嬉しそうだ。
日持ちしそうな食料を揃えたところで、所持金が半分になってしまった。結構金はあったと思うのだが、やっぱり服が高いなぁ。
この世界では貨幣を扱うのは主に人間だけで、魔族はもちろん亜人も使わないらしい。亜人の間では物々交換が主流だそうだ。
で、貨幣は銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨、白金貨、魔銀貨の順に高価になっていき、それぞれ十枚ずつで一つ上の物と同価値になる。実際に使ってみた感覚だと、銅貨は日本でいう十円かそこらだと思う。魔銀貨ともなると一枚で一千万円になるのか。
俺たちは金貨を一枚と銀貨を七枚持っていたから、おおよそ十万七千円を持っていたことになる。一般市民一人当たりの一月の生活費は小金貨三枚で十分すぎるほどだと言うので、結構な大金を持ち歩いていたと言える。三ヶ月は何もせずに暮らせたのか。
まぁ、それも半分は服と食い物に消えたが。
ともあれ、目ぼしい物は揃えられたので、適当にぶらぶらと町を散策する。荷物は俺が手に持っている。結構量はあるけど、全く重量を感じない。あの殺人麻袋の中身が少し気になってきたな。あれは少しだけ持った感じがしたからなぁ。
手が塞がって子どものお守りができなくなったため、ユリアをエレンに、カグラをリリシアに任せた。すぐにウロチョロし出すユリアにエレンが引っ張られて困った顔をしている。カグラはユリアよりは大人しいから、リリシアの負担は比較的小さく済んでいる。
「おにゃかすいたー。にゃにかたべたーい」
ユリアが俺の背中をカリカリしながら空腹を訴えてきた。そういえばもうすぐ昼時か。港町なんだし、折角だから魚料理でも食べますかね。後、爪砥ぎは止めなさい。新品の服が傷ついてしまう。
周囲を見て、盛況そうな飯屋を探す。飯時に客が多い店には信頼がおけるだろう。それだけ人気があるってことなんだからな、たぶん。
一番賑わっていそうな店に入る。結構混んでいるが、丁度いいタイミングで五人分の席が空いたので、そこに座る。店員が注文を取りに来たので、オススメの一品を頼んでおいた。さて、何が出てくるやら。
「私を満足させられるのかしら?」
リリシアがワクワクした感じの笑顔を浮かべて足をパタパタと動かしている。椅子が高くて地面に足が届いていないのを見ると、こいつも子どもだと思う。いつもは大人ぶっていても、根っこの部分はまだまだ幼いってところか。
因みにだが、エルフである彼女も普通に肉や魚を食べる。物語のように菜食主義というわけでは無い。それどころか、リリシアはほとんど野菜を食べようとしない。こんなところもお子ちゃまだ。好き嫌いしないエレンを見習った方がいい。
そんなに待たずに料理が運ばれて来た。底の深い皿に盛られているのは、頭を切り落とされた白身魚。それがトマトのような野菜の入ったスープの中にいる。
「こちらは当店のオススメである『白身魚のスープ煮込み』でございます」
ふむ、所謂「アクアパッツァ」というやつか。魚介類とトマトなどの野菜を白ワインと水で煮込んだスープ料理だ。水とワインだけ、という簡単な料理だが、魚から出るダシのおかげでしっかりと旨味もあるので俺は好んで食べていた。偶に自分で作ることもあったな。
そんなことを思い出しながらも、とにかく一口食べてみる。
魚の身をナイフで切って口に入れると、舌の上で柔らかく解けていった。
「美味いな、これ……」
地球で食べた魚とは何処か異なる味と食感。見た感じは鯛のように見えるのだが、決して鯛ではない。スープには野菜の味が出ているのか、ほんのりとした甘みが口に広がる。薄味が好きな俺としては高得点を上げたい一品だ。
「これ、いいですね。魚特有の生臭さも無くて、食べやすいです」
「……私も、好き」
「うーん。美味しいのは美味しいけど、もう少し味が濃い方がいいかしらね」
「あつくてたべられにゃい〜」
エレンとカグラは気に入ったみたいだが、リリシアは少し不満なようだ。ユリアは猫舌のようで、小さく切った魚を一生懸命ふーふーしている。
量が少し物足りないと思ったが、ユリアとカグラが食べ切れなかった分を食べたら満足した。うん、文句無し。流石はオススメするだけはあるな。
五人分合わせて銀貨二枚を支払って店を出る。一皿で小銀貨四枚、四百円くらいか。あの味でこの値段なら言うこと無し、だな。
「さて、やることはやっちまったし、午後はどうしますかね〜」
この後は本当に用事が無い。強いて言うならリュケイア行きの船の時間を確認するぐらいだ。
「……眠い」
カグラが目をぐしぐしとこすっている。
「んー、私も少し眠いわね。まだ疲れが残ってるのかしら?」
そう言って小さくあくびをするリリシア。慣れない馬車の旅だったから、それもあるのかもしれない。
「なら、お前らは先に宿屋に戻っててくれ。エレン。悪いけど、三人の面倒を見ててくれないか?」
「はい、大丈夫です。荷物はどうしますか?」
「これは俺が持ってくよ。一時間もしないで帰ると思うから、その間だけ頑張ってな。途中の道で悪い人に襲われそうになったら、大きい声で助けを呼べよ。すぐに駆けつけるからな。あと、知らない人にはついて行っちゃダメだぞ! 真っ直ぐ宿屋まで帰ること。いいな?」
特にユリア。お前は騙されやすそうだから心配だ。落ち着きないしな。
「わ、分かりました。シンイチさんもお気をつけて」
俺の心配までしてくれるなんて、エレンは本当にできた子だ。後ろでぶーぶー文句たれてるどこぞのとんがり耳とは大違いだ。
「それじゃ、また後でな。気をつけて行くんだぞ!」
再度念押ししてから港の船着場へと向かう。とりあえず明日の船の時間を確認して、予約とかできるならしておかないと。
船着場には宝くじ売り場のような場所があった。どうやらそこで船の乗り降りなどの受付をしているようだ。
「すみません、明日のリュケイア行きの船の出発時刻を聞きたいんですが。後、できれば予約したいんです」
「リュケイア行きですか? それならお昼過ぎになるかと思います。予約もできますよ。身分証明書はお持ちでしたか?」
「いえ、持ってません」
そういえば無いな。そういうのを貰う前に奴隷になってたしなぁ。これから何かと不便なこともあるだろうし、何処かで手に入れないとな……
なんて思ったのが間違いだったのか、受付の人の次の言葉で俺の懸念は現実のものとなった。
「無いんですか? それは困りましたね。身分証明書が無いと、船には乗れないんですよ」
………………え?マジで?
「あの、どうしたら手に入りますか? できれば明日までに……」
「明日ですか。それならギルドに行くのがいいと思いますよ。あそこならすぐに作ってくれますから」
ギルド? そういえば騎士団長もその言葉を使ってたな。何と無く予想はつくが、一応聞いておく。
「あの、ギルドって何ですか?」
「そんなことも知らないんですか? リュケイアの生まれなのかな……いいですか。ギルドっていうのは、冒険者ギルドのことです。冒険者たちはギルドで依頼を受けて魔物討伐をしたりするんです」
おぉ、冒険者。そんな職業があるのか。ファンタジー感バリバリだ。
「ギルドで冒険者として登録するとギルドカードが発行されて、それが身分証になるんですよ」
そういうことか。なら早速ギルドに向かわなければ。
「ギルドってどこにありますか?」
「それなら、門から入ってすぐのところにありますよ。でっかい建物だから分かりやすいはずです」
「分かりました。ありがとうございます」
礼を言って船着場を後にする。
それにしても、冒険者か。男心をくすぐられるな。
歩いて数分。見たこともない文字で「ギルド」と書かれた看板を掲げた大きな建物を見つけた。なんで読めるんだろうか。つくづく不思議な言語能力だ。
扉を開けて中に入ると、見た感じは酒場のような作りになっていた。何かしらの武器を持った人たちが数人見受けられる。
うわ、なんか見られてるな。早く登録を済ませて宿屋に戻ろう。
カウンターの受付嬢だろう人に声をかける。
「すいません、冒険者として登録したいんですけど」
「登録ですね。では、こちらの方にお名前などを記入してお待ちください」
受付嬢は紙とペンを俺に渡して奥の部屋に消えた。何か持って来るのだろうか?
とりあえずペンを手に取って名前を書いてみる。すると、さっき見た看板のと同じ字で渡良瀬 晋一と書くことができた。なんでだよ。
「お待たせいたしました。えーと、ワタラセ様ですね。では、こちらがステータスプレートになります。このくぼみの部分に血を数滴垂らしていただきますと、現在のワタラセ様のステータスが表示されます。それを参考にランクを決めさせていただきます」
あぁ、騎士団長が言ってたやつか。これで俺の本当の力が分かるんだな。それに新しい単語も出て来たな。ランク?
受付嬢の説明によると、冒険者には「ランク」と呼ばれる格付けがあるらしく、それによって実力が示されるとのこと。ランクはE、D、C、B、A、Sの六つに分かれていて、依頼を受けるにもランクによっては制限があるようだ。例えば、Aランク推奨の討伐依頼をEランクの人は受けられない、といった感じだ。
初期ランクは冒険者自身の初期ステータスによって決められ、ランクを上げるには依頼をこなして功績をあげるしかない。今のところ、最高ランクのSに到達したのは十人に満たない程だとか。
俺は受付嬢からナイフを借りると、指先を小さく切ってプレートに血を垂らした。少しすると、プレートにぼんやりと文字が浮かび上がってくる。
そこに示されたのは……
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名前 ワタラセ シンイチ
種族 人
年齢 18
性別 男
ステータス
・体力 27000
・魔力 10
・筋力 %o 4¥@*dx*^|\?&&!,.$
・耐久 83700
・知能 34500
スキル
・完全言語
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………ちょっとよく分からないものだった。
僕はブイヤベースは好きですが、アクアパッツァは食べたことも無いです。美味しそうですよね。
晋一が完全に保護者ですね。親バカになりそうです。
誤字・脱字などがありましたら、適当にご指摘ください。
また、感想がありましたらお書きいただければ幸いです。今後の参考にしたいと思います。