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 お昼はだいぶ過ぎていたのに、土曜日のファーストフード店は混んでいた。

 あたしと奏くんは、やっと空いた窓際の席に、向かい合って座った。

「給料日あとだったら、もっと豪華なもの、おごってあげられたんだけど」

 あたしの前でポテトをつまみながら、奏くんが言う。

「ううん、あたしが誘ったんだもん。あたしがおごるつもりで来たんだよ?」

「えー?」

 奏くんは驚いたようにそう言ってから、あたしに笑いかけた。

「まさか中学生のお小遣いで、おごってもらうわけにはいかないでしょ」

 また、あたしのこと、子ども扱いしてる。

 あたしはジュースを手に取って、ストローで吸ってから、ちょっと嫌味まじりに言う。


「奏くん、カノジョいないの?」

「え?」

「だってこんなところで中学生なんかと会ってたら、彼女に怒られるでしょ?」

「大丈夫。彼女なんていないから」

 そう言ってまた笑う奏くんの顔をちらりと見る。

「彼女いなくても、モテるでしょ?」

「今日はやけに絡むなぁ」

「だってカッコいいし、歌上手いし、それにすごく優しいし」

 ふっと息を吐いてほんの少し笑ってから、奏くんはテーブルに頬杖をつくようにしてあたしを見た。

「モテないよ。ぼくは」

 奏くんの真っ直ぐな視線があたしに届く。あたしはジュースを手に持ったまま、そっとその視線から逃げる。


「ゆずちゃん、ひとつ教えてあげる」

 騒がしい店の中、窓の外を見ているふりをしながら、あたしの耳は奏くんの声に集中していた。

「男ってのはね、優しいだけじゃダメなんだよ。ぼくは怖がりだし、心が弱いから、たったひとりの女の子さえも守ってあげられない」

 どこかのテーブルから笑い声が響いた。あたしはゆっくりと顔を動かして、目の前に座っている奏くんを見る。

 頬杖をついたまま、奏くんはあたしのことをじっと見ていた。ううん、違う。あたしの向こう側の、もっとどこか遠くを見ていた。

「奏くん」

「ん?」

 奏くんの視線があたしに戻って、いつもみたいに穏やかに口元をゆるませる。

「あたし奏くんの歌、また聴きたい。いつになったら歌ってくれるの?」

 あたしの言葉に奏くんが笑う。

「そのうち。気が向いたら」

 あたしは……奏くんの優しい歌が好きだよ? 優しい声も、優しい手も、優しい言葉も、優しい笑顔も――全部あたしに「大丈夫だよ」って、言ってくれてるみたいに思えるから。


「だいすき」

 奏くんがあたしを見る。

「なの。このお店のハンバーガー」

 そう言って笑って、両手で持ったハンバーガーにかぶりつく。

「よかった。だったらまた来よう」

 あたしの前で奏くんも笑う。

 その笑顔が嬉しいのに、ハンバーガーも美味しいのに……なんだか少し涙が出そうだった。

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