↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/26

18

 奏くんと海へ行くために、あたしたちは私鉄の駅へ向かった。

 海までは、電車に乗って一時間ほど。そんなに遠い距離ではないはずなのに、海へ行く機会なんてめったにない。

 電車に乗る前、「ママに電話しておいたら?」 と奏くんに言われた。

 また子ども扱いされてる? あたしもう中三なのに。

 塾も休みだし、大丈夫だよって言ったけど、奏くんがしつこく言うから、あたしはママに電話をした。

「これから海に行ってくる」

「これから? 誰と? 大丈夫なの?」

「友達と一緒だから大丈夫」

 嘘じゃないもん。奏くんは友達だもん。

 電話を切って、奏くんに駆け寄る。それと同時に、ホームへ下り電車が滑り込んできた。


 二人一緒に、海へ向かう電車に乗る。

 夏休みの終わりの、よく晴れた月曜日の午後。車内には、なんとなくのんびりした空気が漂っていたけど、席はいっぱいで、ほどほどに混んでいた。

 あたしは奏くんと並ぶようにして、ドアの前に立つ。

 ビルの立ち並ぶ街を抜け、住宅街を通り、窓の外にはあたしの知らない景色が広がっていく。

 そういえば今年の夏は、どこへも出かけなかったな。受験生だから、仕方ないか。

 でもその前の夏休みも、さらにその前も、家族で出かけることはなかった。小さい頃はよく、家族四人でいろいろなところへ遊びに行ったのに。

 最後に四人で出かけたのは――海水浴に行ったあの海だ。

「奏くん」

 ずっと黙って、窓の外を眺めていた奏くんが、あたしに振り向く。

「なに? ゆずちゃん」

「あのね、行ってみたいところがあるの」

 ぼんやりとだけど覚えてる。四人で行ったあの海岸。

 パパもママもすずも、そしてあたしも笑ってたんだ。


 終点の駅はちょっとした観光地で、わりと人が多かった。この駅からも海へは行けたけど、あたしたちは小さな電車に乗り換えて、もう少し遠くに進んだ。

 空いていた席に座り、電車の揺れに身を任せる。時々隣にいる奏くんと、肩がちょっとぶつかって、あわてて体を離す。

 奏くんはあんまりしゃべらなかった。あたしもその隣で黙っていた。だけどそれは悪くはない。奏くんといると、どうしてこんなに落ち着くんだろう。


 狭い街の中を少し走ると、窓の外に海が開けた。

 青く澄んだ空と、おんなじ色の青い海。今さらだけど、なんだか胸がドキドキしてきた。

 あたし、本当に来ちゃったんだ。こんな所まで、奏くんと二人で。

「ゆずちゃん、ここ?」

 奏くんの声にハッと気がつく。車内に流れるアナウンスは、聞き覚えのある駅名を告げていた。

「うん、きっとそう」

 数年前に家族で来た場所の名前は、うろ覚えだったけど、この景色は確かに見覚えがある。

「じゃあ、降りよう」

 奏くんの後について、小さなホームに降りる。数人の人に続いて改札を出たら、目の前を横切る国道の向こうに、海が広がっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。