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奏くんと海へ行くために、あたしたちは私鉄の駅へ向かった。
海までは、電車に乗って一時間ほど。そんなに遠い距離ではないはずなのに、海へ行く機会なんてめったにない。
電車に乗る前、「ママに電話しておいたら?」 と奏くんに言われた。
また子ども扱いされてる? あたしもう中三なのに。
塾も休みだし、大丈夫だよって言ったけど、奏くんがしつこく言うから、あたしはママに電話をした。
「これから海に行ってくる」
「これから? 誰と? 大丈夫なの?」
「友達と一緒だから大丈夫」
嘘じゃないもん。奏くんは友達だもん。
電話を切って、奏くんに駆け寄る。それと同時に、ホームへ下り電車が滑り込んできた。
二人一緒に、海へ向かう電車に乗る。
夏休みの終わりの、よく晴れた月曜日の午後。車内には、なんとなくのんびりした空気が漂っていたけど、席はいっぱいで、ほどほどに混んでいた。
あたしは奏くんと並ぶようにして、ドアの前に立つ。
ビルの立ち並ぶ街を抜け、住宅街を通り、窓の外にはあたしの知らない景色が広がっていく。
そういえば今年の夏は、どこへも出かけなかったな。受験生だから、仕方ないか。
でもその前の夏休みも、さらにその前も、家族で出かけることはなかった。小さい頃はよく、家族四人でいろいろなところへ遊びに行ったのに。
最後に四人で出かけたのは――海水浴に行ったあの海だ。
「奏くん」
ずっと黙って、窓の外を眺めていた奏くんが、あたしに振り向く。
「なに? ゆずちゃん」
「あのね、行ってみたいところがあるの」
ぼんやりとだけど覚えてる。四人で行ったあの海岸。
パパもママもすずも、そしてあたしも笑ってたんだ。
終点の駅はちょっとした観光地で、わりと人が多かった。この駅からも海へは行けたけど、あたしたちは小さな電車に乗り換えて、もう少し遠くに進んだ。
空いていた席に座り、電車の揺れに身を任せる。時々隣にいる奏くんと、肩がちょっとぶつかって、あわてて体を離す。
奏くんはあんまりしゃべらなかった。あたしもその隣で黙っていた。だけどそれは悪くはない。奏くんといると、どうしてこんなに落ち着くんだろう。
狭い街の中を少し走ると、窓の外に海が開けた。
青く澄んだ空と、おんなじ色の青い海。今さらだけど、なんだか胸がドキドキしてきた。
あたし、本当に来ちゃったんだ。こんな所まで、奏くんと二人で。
「ゆずちゃん、ここ?」
奏くんの声にハッと気がつく。車内に流れるアナウンスは、聞き覚えのある駅名を告げていた。
「うん、きっとそう」
数年前に家族で来た場所の名前は、うろ覚えだったけど、この景色は確かに見覚えがある。
「じゃあ、降りよう」
奏くんの後について、小さなホームに降りる。数人の人に続いて改札を出たら、目の前を横切る国道の向こうに、海が広がっていた。




