ご都合主義
お気に入り登録数・評価点・アクセス数が私の執筆エネルギー。
=アーネリク・フランジュベル=
「貴様ら、その手を離せ――ッ!」
ヒナタが驚くほど大きな声で一喝した。
その声はビリビリと周囲を振るわせる。
「民を守るべき兵隊が、酔った勢いでか弱き女性に迫る。なんと下衆な行いか! 反吐が出る。視界に入るも不愉快だ。即刻この場から立ち去れい!」
芝居がかった口調。しかし、その威圧感には目を見張るものがある。
店内は水を打ったように静まり返っていた。
先の戦争で勝利を収めた兵隊たちはある種の英雄だ。目の前にいるこの酔っ払いも例外ではない。
しかし、戦争が終わり彼らを待っていたのは称賛の言葉と、軍縮による大量解雇だった。
戦争が終わってしまえば兵隊など無用な存在。国は優秀な者だけを手元に残し、末端の兵たちは無残に捨てられたのだ。
解雇された兵士で腕の立つ者は傭兵としてその日暮らしで生きる。それすらできない者は盗賊などに身を落とす。
目の前にいる兵士たちが傭兵と盗賊かわからないが、どちらにしろ下手に手を出せばひどい目に合うのは目に見えている。
英雄から野良へと貶められた、その境遇から生まれるゆがんだプライド。まともなモラルは期待できない
酔っているならなおさらだ。
だからこそ人々は見て見ぬふりをしていたのだが、ヒナタが紛れもなく啖呵を切ってしまった。
「面倒なことを……!」
アーネは小さく毒づいた。
ここでヒナタが私刑を受けて死んでしまえば、一攫千金のチャンスを失ってしまう。
まだ、さほどヒナタに金銭をつぎ込んではいないが、ヒナタには多少のリスクを冒す価値がある。
威嚇され怯えている兵士たちが逆上し暴力に訴えた場合即座に動けるよう、アーネは懐のナイフを握った。
「な、なんだと! お前、こ、ここ、この俺に楯突く気か! いいか、俺はなあ、先の大戦で“白い悪魔”と戦い退けたことがあるんだ! この意味わかるよなあ!」
怯えていた兵士が口角泡をまき散らしながら剣を抜いた。
案の定、つまらないプライドが振るってしまったらしい。
予定通り兵士の隙を突こうとアーネが動こうとした瞬間、再び空気が震えた。
ヒナタだ。
「知ったことか! 悪あれば裁く、たとえそれが難敵を退けた英雄であろうとも!」
言葉とともにヒナタは鞄の中から一振りの剣を抜き取った。流れるように黒塗りの鞘から刃を解き放つ。
細身で弧を描いた白銀の剣。片刃のそれは儚くとも背筋に悪寒を走らせる怪しい輝きを持っていた。
「野越え谷越え山越えて、巡り巡って三千里。幾多の戦場を経て未だ不敗。我が太刀に切れぬ物はなし。さあ、恐れぬならばかかってこい! 我が名は最上日向、邪を断つ者なり!」
堂々と誇り高く。
それは歴戦の勇者が従える強者特有の空気。
「こ、このーっ!」
圧倒的な実力差を感じ取った兵士は半ば自棄になり、そのままヒナタに襲いかかった。
ヒナタは静かに半歩下がった。
ヒナタに臆した兵士は腰が完全に引けており、そのため振り下ろされた剣はヒナタから大きく外れる。
ヒナタは兵士が剣を振り切ったその隙に、白銀の刃を兵士の首筋にあてた。
「失せろ」
ヒナタはドスの利いた声でそういうと、ゆっくりと刃を離した。
すっかり青ざめた兵士たちは恐怖で声ひとつ出せずにいたが、必死に首を縦に振り、逃げるように去って行った。
「…………」
ヒナタはそれを無言で見送ると、刃を一振りし流れるような動作で鞘に納めた。
その瞬間、店内に歓声が沸き起こった。
いつの間にか付近の住民も見ものに来ていたらしい、大して広くない店内が人で埋め尽くされていた。
「……ヒナタ、あなたは何者ですか?」
アーネの問いは誰に届くこともなく歓声に飲まれて消えた。
サブタイトルは適当。
ストーリーも適当。
まじめに書けよと自分にツッコム。