part9――告白――
最終話です
午後五時半。
橘榛高校の正門前に俺は立っていた。
体育祭は一時間半ほど前に終わっている。
そろそろ片づけも終わり、帰ろうかという頃。
俺はある人物を待っていた。
そして、
「こんなところで何をしているの?」
目的の人物が来た。
星風七夏。
この学校のマドンナであり、会長の思い人、そして、俺の思い人。
「一緒に帰らないか? 少し話もあるし」
星風はうなずき、並んで歩き出した。
学校の前の坂道を並んで歩く。
恥ずかしさもあるが、なぜか柔らかい空気だった。
「今日はお疲れ様。最後のリレー、すごかったわ」
「ありがと。まさか勝てるとは俺も思わなかったよ」
そう、俺は会長に勝ったのだ。
ラスト約五メートル。
そこで並んだ時はダメだと思ったが、ぎりぎりで俺の方が先にゴールテープを切った。
俺自身、勝つ気でいたが、勝てる気はしなかったという。
おかしな話だ。
談笑しながら歩くこと五分。
坂道の途中にある公園に着いた。
「ちょっと寄って行こうか?」
「ええ。今日は疲れたから少し休憩しないと」
と、小さな笑顔を見せる。
その笑顔にドキッとしたのは秘密だ。
公園、と言ってもベンチがあるだけの休憩所みたいなものだ。
生徒がたまに、今みたいな感じで立ち話に利用する程度。
日も沈んできて、もうすぐ六時、といった時間。
俺は覚悟を決めて話し出す。
「星風、お前に話がある」
空気が変わった。
いや、俺が変えた、と言った方が正しい。
星風は恐る恐ると言った感じで首を縦に振る。
俺は一息つき、何度目になるかわからない、一世一代の覚悟を決めた。
そして、ずっと言えなかった言葉を口にする。
「星風、お前のことが好きだ!付き合ってください!」
言った。
俺は今、顔が真っ赤になっているだろう。
もちろん、夕日のせいではない。
恥ずかしいが、別に隠そうとは思わなかった。
星風は俺の言葉に驚いているようだったが、すぐに笑顔になった。
そして、俺と同じく顔を真っ赤にして、口を開く。
「……はい!」
……え?
今、『はい』って言った?
ってことは、両想い……なんだよな?
俺と星風が?
必死に状況を整理していると、星風が不安げにこちらを見ていることに気付いた。
馬鹿か俺は?
なんで自分から告白しときながら、星風を不安にさせてんだよ。
「星風。……ほんとに俺でいいの?」
気が付くと、思ってもいないことを口走っていた。
こんなことを言っては不安にさせるだけ。
そう、わかっているのに。
でも、
「……うん」
「でも……俺よりいい人なんていくらでも」
「……いないよ」
恥ずかしがりながらも、うなずいてくれた。
それだけじゃない。
弱気になっていた俺の気持ちを読み取ったのか、抱きついてきた。
「えっ? ちょっ、星風!?」
思ってもみなかった星風の行動に、戸惑いを隠せない俺。
星風は俺の言葉に少し顔をあげて反応する。
顔を真っ赤にして。
恥ずかしいのは俺だけじゃないんだ。
少し考えれば当たり前のことに、いちいち感動する。
俺は行き場の失っていた両腕を星風の背中に回して、抱きしめる。
驚いたのか、星風の体がビクッとなった。
だが、嫌がる様子もなく、そのまましばらくの間、俺は星風を抱きしめていた。
しばらくして、二人して我に返ると、今までの会話がウソのように距離を取る。
恥ずかしくなったのだろう。
……俺もだけど。
でも、今までに二人っきりになった時のような、何とも言えない重い空気にはならなかった。
これからは、ただ見つめるだけの生活じゃなくなる。
そう思うと、自然と笑顔がこぼれた。
星風も同じことを考えたのか、はたまた俺が急に笑ったためか、笑顔だった。
手を差し伸べ、星風の手を取る。
これからは、どんなに長い坂道だって、二人で歩いていける。
そう思いながら、俺たちは再び、目の前の長い、長い坂道を歩き始めた。
毎年、全くやる気のない体育祭を、ちょっとしたきっかけで全力でやることになった今年。
一生後悔するかもしれない賭けもやったりした。
でもそれらは、自分の気持ちを伝えることに繋がった。
そして今、俺は好きな人の隣に立っている。
これで終わりですが、一応続編を考えてます
いつになるかわかりませんが……
続編は現在執筆中です(2012/3/28)




