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春宴の夜

玄暁王朝の春は、目に眩しいほど美しいが、その光がすべてを平等に照らすわけではない。


花街の路地は昼であってもどこか翳りを帯び、色とりどりの帳が風に揺れるたび、甘い香が濃く漂って、そこに生きる者たちの運命までも包み隠してしまう。


その楼閣の奥で、白い舞衣をまとった清蘭は、鏡の前に立ちながらも、そこに映る自分をまっすぐ見つめることができずにいた。


今宵は宮中の春宴。

皇帝と皇后が臨席し、第一皇子と第二皇子が並び立つ大宴であると女将は言った。


「今宵は宮中の春宴。粗相は許されないよ」


女将の声は厳しいが、どこか誇らしい。


「わかっています」


清蘭は頷いた。


粗相は許されない、これは名誉であり、同時に値踏みの場でもある。

その声音には誇りと緊張が同時に滲んでおり、清蘭は静かに頷きながら、自らの指先がわずかに冷えていることに気づいた。


花街に来て十年、下働きから始まり、琴を覚え、詩を覚え、舞を磨き、

客前で身体を売ることなく“芸”のみで立つ存在として育てられた。

それがこの楼での彼女の価値であり、また彼女自身の矜持でもあった。


清蘭には十歳以前の記憶はなく、過去は空白のままだが、不思議と焦りはなかった。


ただ一つ、胸の奥でときおり澄んだ鈴の音が鳴り、小さな手の温もりがよみがえる瞬間を除いてはーー。

それがいつの記憶なのか、一体誰の手なのかは分からない。

けれど、それだけは忘れたことはない。


***


宮中の春宴は、灯籠の光が連なり、絹の衣が波のように揺れ、まばゆいほどの華やぎに満ちていた。


上座には皇帝と皇后が並び、その右に第一皇子・黎炎、左に第二皇子・景月が座している。

太陽と月が同じ夜に並ぶ、その象徴的な光景の下で、芸妓たちが順に芸を披露していく。


清蘭の番になり、彼女は深く一礼し、静かに中央へと進み出た。

琴の音が流れ始め、彼女が袖を翻した瞬間、場の空気がわずかに変わったのを感じた。


舞は柔らかく、しかし芯を持ち、春の水のように滑らかに広がっていく。

その動きは決して派手ではないが、視線を逸らすことを許さない静かな強さを孕んでいた。


ふと背筋に熱を感じ、上座へと視線を向けると、燃えるような赤を纏った第一皇子・黎炎が身を乗り出すようにしてこちらを見つめているのが分かった。

その瞳は笑っておらず、何かを確かめるかのように鋭く、そしてどこか焦がれるような色を帯びていた。


舞が終わると、しばしの静寂の後に拍手が広がったが、黎炎の視線だけは変わらなかった。

やがて彼はゆっくりと立ち上がり、皇帝と皇后の視線を背に受けながら階を下り、清蘭の前まで歩み寄る。


清蘭が跪くと、黎炎は少し躊躇ってから、真剣な表情で重い口を開いた。


「……そなた、名はなんと言う?」


「清蘭と申します」


答えた瞬間、黎炎の瞳にほんのわずかな落胆が見えた。

それは彼が探していた名ではなかった、という無意識の反応にも見えたが、

次の瞬間には太陽のような微笑みを見せる。


「清蘭。お前、俺のところへ来い」


「……え?」

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