第2話再生者(リ・ビルド)
――死んだ、はずだった。
轢音と共に視界が真っ赤に染まったその瞬間、佐伯真はすべてを諦めていた。
高校帰りの交差点。鳴り響くクラクション。無意識に飛び出して庇ったのは、小さな背中だった。
「――っ!」
記憶は、そこで途切れている。
***
(……あれから、どれだけ経った?)
深い闇の中で、意識だけが浮かんでいるようだった。感覚は希薄で、時間の流れもわからない。
(あれは夢だったのか? それとも、これが……)
死後の世界。そんな言葉がふと浮かぶ。しかし、それにしては“熱”がある。
「……おぎゃあ……」
誰かの――いや、自分の泣き声。
その瞬間、記憶の彼方から雪崩のように情報が流れ込んできた。
王国。魔法。貴族。――リュカ=オルディアス。
自分は、異世界に転生していた。
***
リュカ=オルディアスは、名門貴族の家に生まれた。
だが、生来の魔力は薄く、「不適合者」として幼少期から冷遇されていた。
父フェリオは公務に忙殺され、母カリーナは表面上こそ優しかったが、内心では常にどこか他人行儀だった。
(けれど……俺は“中身”が違う)
心の中でそう呟いた。
この身体には、現代日本の知識と記憶、そして“死”の実感が宿っている。
(あのとき守った子は、無事だったのか? それはもう、確認する術もない)
だが、あの選択に悔いはなかった。
むしろ、だからこそ――今度は、自分の人生を「選び取る」と決めたのだ。
「リュカ様、次の薬草調合の授業が始まりますよ」
声をかけたのは、執事のヘルマン。
この世界において、彼は数少ない“信用できる大人”だった。
「ありがとう、すぐ行く」
リュカはゆっくりと椅子から立ち上がった。
魔力が弱い? 貴族社会で不利? そんなことはどうでもいい。
(俺には“生き直す”チャンスがある)
“前世の死”によって与えられた、もう一つの人生。
今度こそ、意味のあるものにする。誰かのためでなく、自分の意思で。
その決意が、確かに彼の中に根を下ろし始めていた。




