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第一部 第一話死

放課後の夕陽は、どこか寂しげで、それでも暖かかった。

 仲本光は校門を出て、肩から提げたカバンを軽く揺らしながら、住宅街へと続く坂道を下っていた。制服の第二ボタンが少し緩み、シャツの襟元から微かに春の風が忍び込む。


 「今日も、平和だったな……」


 そう呟いて、光はほんの少しだけ笑った。



 高校二年の春。部活にも入らず、目立つこともない日々。それでも彼にとっては、それが何よりも大切だった。母親が一人で家計を支えてくれている。だからこそ、せめて光自身は、無事で、静かに、日々を過ごしたかった。


 そのときだった。

 「コロコロ……」

 乾いた音を立てて、白と黒のサッカーボールが光のすぐ前を横切った。誰かの手を離れたのか、それは歩道から飛び出して、そのまま車道へと転がっていく。


 「……ん?」


 反射的にそちらを目で追ったその瞬間――


 「ボールぅっ!」


 甲高い声とともに、小さな男の子が光のすぐ後ろから駆けてきた。

 光の脇をすり抜けるようにして、子供は車道へ飛び出す。あまりに突然すぎて、光は一瞬、反応が遅れた。

 だが、次の瞬間――本能が、危機を告げた。

 左手から響く重低音。エンジンの唸り。近づいてくるトラックの影。


 「――っ、待て!」


 叫ぶよりも先に、体が動いた。

 光は全力で駆け出し、子供の背中に飛びつくようにして、その小さな体を抱えた。そして、間一髪で歩道側へと押し出す。


 「ぐあっ……!」


 続けざまに、背中へ衝撃が叩きつけられた。

 世界が大きく傾く。音が、遠ざかる。骨が砕ける音が自分の中で鳴り、意識がぐらりと揺れる。

 背中から熱い感触が広がり、シャツが濡れる。指先は震え、呼吸が乱れる。頭が痛い。視界がぐにゃりと歪む。

 血が流れているのがわかる。足が変な方向を向いている。だけど――


 「……間に、合ったよな……?」


 男の子の姿が、歩道の向こうに見えた。泣きながら、誰かに抱きしめられている。

 助かった。それだけで、よかった。

 視界が白く染まり、遠くに誰かの悲鳴が聞こえる中――

 仲本光は、静かに、意識を手放した

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