不快なあったかさ
五百文字制限企画参加作品です。お題は「列車の警笛、走行音」です。
雪が舞う闇を一両の列車が走っている。廃線が決定している山間部の線路。
カタタン……カタタン……
客はいない。
車内にはベテラン運転士の濱崎のみ。
車内には一定リズムで繰り返す音のみ。
ファン!
突然警笛が鳴り、照明が一瞬全て消えた。当然濱崎はそんな操作をしていない。
しかし、その驚きなど照明が再点灯したときの驚きと比べれば些末なものだった。
フロントガラスにそれが映り込んだ。
半袖のセーラー服を着た少女が濱崎の真後ろに立っている。
――この世の存在ではない。
濱崎は凍りついた。
少女が口を開く。口の端から血が垂れる。
「高島霊園まで……」
余りにも現実離れした状況に少し落ち着けた濱崎は応える。
「あの……、そういうのはタクシーでやってもらえませんか?」
「……えっ!?」
「それって『タクシーの怪談』なんですよ。最寄り駅から歩くつもりですか?」
少女のうろたえる様がガラスに映る。
「なっ、なんか恥ずっ……」
少女は頭を下げた。
「ごめんなさい。消えます」
「……そこに水たまりとか残していかないでね? それも『タクシー』だから」
「はい。ごめんなさい」
少女は消えた。
濱崎はため息を吐く。
濱崎が座る運転席には温かい水たまりが広がっている。
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