通過する電車の中に
「彼」は一体、何者なのでしょうか?
薄暗い駅のホーム、私はベンチに腰を下ろした。
私以外誰もいないのに、
私は中途半端なベンチの真ん中に座って、
行き先も知らない電車体を眺めている。
ゆっくり走り出す電車、
一人の男がいるようだった。
その男は私の前を通って隣の車両へと入っていった。
特に意味もないため息をついてからまた正面を見ると
彼、その男がまだいた。
また、私の前を通って隣の車両に入る。
それを数回繰り返すとついに彼はどこかへ行ってしまった。
彼は何なんだろう。
ネタバレ
数度目の映り込みで、男の困惑した表情をとらえた瞬間、ようやく気づく。
暗い車内のガラスに映っていたのは、他でもない、自分自身の姿だったのだ。
ホームの明るさと車内の暗闇が生み出す、静かな鏡像のトリック。
現実か幻かを見極める間もなく、電車は走り去り、
再びホームに残るのは、ひとり、私だけだった。