最終話 やっぱり、大好きだ
小説が好きだ。物語が好きだ。
今はまだ上手く書けなくても。まだずっとあの批判の声が、耳に響くとしても。
やっぱり、大好きだ。
もう、あの物語は動かないけど。
私の大好きなキャラクターたちは、ずっと私の隣にいる。
彼女たちの〝声〟がなかったことにならないために、書き直すことも、しないって決めた。
だからもう、大丈夫。
もう、次の物語に歩き出せる。
ぴこん、とスマホの通知が届く。あれから、連絡先を交換した、高柳さんからのメッセージだった。
まず、変な絵柄のスタンプで『よう』なんて言ってきて。
次に、短い文章があった。
〈どう? 次の新作、書けそ?〉
クスッと笑う。高柳さんもこういうの使うんだ、意外だな、と思いながら、返信を返した。
〈はい、おかげさまで〉
送った後、私はいつものアプリを開いていた。
スマホのメモアプリ。アイデアをいっぱい書き留めた、私の大切な記録。
実はまだ、何も書いていない。
次はどんなお話を書こうか。
……そうだ。
恋愛もの。一度書いてみたかったんだ。
構想だけはあったんだけど。ずっと、恋する気持ちってよくわからなくて。
ふわふわして暖かいの? それともモヤモヤして痛いの?
そんなふうに、どうやって書けば伝わるのか見えてこなかった。
でも、今なら。なんとなく書ける気がする。
ふと、高柳さんに手を引かれたことを思い返して──。
そして、最初の一行を書き出した。
「心彩ー、そろそろご飯出来るわよー降りて来なさーい」
お母さんに呼ばれた。「はーい」と元気よく返事をして、私はスマホを閉じる。
階段を下りていく間、私は物語の始まりを思い返しながら、誰にも見せない笑みを浮かべるのだった。
唇が緩む。今度こそきっと、伝えられる気がした。
その物語は、こんなふうに始まる。
『だ、大好きですっ!』
夕暮れの屋上。まるで告白イベントみたいなその場所で、私は、震える声でその言葉を言った。
──たまには、こんなのも悪くない。
完成したら、真っ先に高柳さんに読んでもらいたい。
小説の中でなら、私はこんなに自由なんだって、早く誰かに届けたい。
どんな顔するかな、高柳さん。ドキドキしてくれるかな。
そう考えていたら。
『──行ってらっしゃい、心彩』
『また仲間が出来たら、呼んでくれよなー!』
なんて言う、二人の声に見送られた気がした。
……あぁ、早く。
続きが書きたいなぁ。