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2.春野ヒナ
私――春野ヒナは、地味で目立たない女の子だ。鏡に映る自分の姿が、私はあまり好きではない。
肩にかかる淡い茶色の髪は地味で、肌も透明感があるとよく言われるけれど、褒め言葉とは思えなかった。目は少し大きめで、まぶたの奥に気弱な感情がすぐににじむ。
静かすぎて、存在が薄い。
だから、誰かの目に“ちゃんと”映るなんて、考えたこともなかった。
誰かの視線に気づいても、まともに見返せない。
そんな性格のせいで、「図書室の子」とだけ言われるようになった。
今日も窓際の席で、分厚い文庫本を開く。
窓の外には、風に揺れる木々。
教室より数度低い空気。
ゆっくりと、心が静まっていく。
そんな私の静けさが破られたのは、そのほんの数分後だった。