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婚約破棄してください

作者: けにゃっぷ

「お願いがございます、テオドール王太子殿下」

「何だい、愛しい君の願いなら可能な限り叶えるよ、僕の可愛いマリーロッテ」

「私との婚約を破棄してください」

「それは出来ない相談だマイスイートハニー」

「願いを叶えてくれると仰ったのに。嘘つき」

「可能な限りとも言っただろう。妃教育がそんなに辛いのかな?」

「至って親切丁寧にご指導頂いております。進捗も何も問題ございません。婚約破棄してください」

「しません。解消を望まない側から破棄とか訳がわからないよ」



「僕はこんなにも君の事を愛しているのに何が気に入らないんだろうねえ。文武両道容姿端麗、君に相応しい、非の打ちどころのない男だと自認しているのだけれどね」

「殿下が眉目秀麗であられるのには異論を差し挟みは致しませんが、私の好ましく感じる容貌とは違います。私は、殿下のしれっと伸びたもや……もとい陶磁器のような白く繊細な体格よりも、もっとこう、いかつい巌のような逞しい筋肉と包容力溢れる大柄な体躯の方が好ましく感じられます」

「僕脱ぐと結構凄いんだよ。一度見てみない?」

「見ません。なんて破廉恥な」

「まったく僕の婚約者殿は正しい貞操観念をお持ちだ。ひん剥いて有無を言わさずブチ込んでたっぷり注いでやりゃあもはや黙るより他はないだろうなと分かっているのに決して実行しない僕の理性を誉めて欲しいものだよ」

「そういうところですよこの歩く猥褻物! 舌噛んで死んで欲しけりゃやってみろっつってるでしょうがァ!!」

「やだよぉ猿轡噛まして致しまくった後に監禁とか興奮が止まらない。政務に差し支える」

「ほんと死ね。可及的速やかに死んでください。心底から嫌い」

「つらい」



「……殿下」

「うん?」

「死ねは嘘です。死なないでください。殿下が亡くなったら国政に多大な影響が出ます」

「知ってる。なるべく死なないように頑張るよ」

「嫌いも嘘です。殿下の卑猥なご冗談にはほとほと辟易しておりその部分についてははっきりと嫌いですが、殿下の御人格については好悪の感情を持ち合わせていません」

「いやその評価シンプルに嫌いって言われるよりもめちゃくちゃ傷口に塩塗りこんで漬け込みにかかってるから」

「正直であることだけが唯一の取り柄なもので」

「ひぃん。泣きそう」

「……私、とてもではないですが国母に相応しい女ではないです」

「そんなことないよ。君は賢くて優しい立派な人だ」

「立派な人は殿下の冗談に激昂したからとてあんなに口汚く怒ったりはしません」

「えっ。マイマザー、割とすごい勢いでキレ散らかしてくるけど」

「えっ。王妃様が? ご冗談でしょう?」

「燭台とか引っ掴んで角で殴りかかってくるけど」

「あの王妃様をそこまで怒らせることができるとか殿下……もはや冗談の域でなく本気で怖い」

「まあそういうことだから安心して。僕の前で聖人でいられる人なんていやしないんだから」

「心の奥底から怖い」

「ひぃん」



「……君の初恋の相手であるレオナルド叔父上から婚約者の座を奪い取ってしまったこと、まだ君は恨んでいるんだね」

「……恨んでなどはいません」

「でもレオナルド叔父上は未婚主義者だし……君より三十歳も年上だよ。年上の息子を貰うお父上の気持ちも考えてあげよう?」

「…………私の成人を待っていてくださっているのかもしれないのに。物語でよくある展開じゃないですか」

「違います。それはあなたの願望です。うちの叔父上を三歳の子供を見初めて成人するまで待つようなド変態に仕立て上げないで」

「うううレオナルド様なら変態でも構わないのに」

「僕への愛との不均衡に本当に泣きそう。だがそれがいい」

「殿下は変態通り越して異常者なんです」

「うーん意味合いは同じようなものなのに言葉のナイフの鋭さが微妙に違う。だがそれがいい」

「そういうところなんですよって何百回言えば分かるんですかねこの腐れ王太子は」

「まあまあ。いずれ僕も必ず君のお眼鏡にかなうようなナイスミドルになるからさ。長い目で見守っていて欲しいな」

「……ハァ。本日のところは説得を諦めます」





「済まないが、君。お茶をもう一杯淹れてくれるかな。あまりにも早く執務に戻ったら、またマリーロッテを怒らせたのだろうと皆にお小言を言われてしまうからね。図星を突かれるのは耳が痛くて参るよ」

「かしこまりました。……殿下」

「なんだい」

「マリーロッテ様がレオナルド閣下に懸想されるきっかけとなったのは、十二年前の、園遊会への魔物の乱入事件でございましたね」

「そうだね。叔父上は幼いマリーロッテに覆い被さり身を挺して魔物の牙から彼女を守ったんだ。そりゃあ恩義を感じて憧れるのも当然だよねえ。美しい話だ」

「……しかしその時、賓客の方々の前に立って魔物と対峙し、背後のレオナルド閣下にさえ傷一つつけることなく魔物を討伐されたのは、」

「僕もまた、ほんの五歳の子供だったからね。あまりしっかりと当時の記憶を残していないんだ」

「…………」

「愛しいマリーロッテに振り向いてもらえるよう、僕ももっと頑張らないとね」

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