「車で待っています。貴方が来たら寝台車を掃除してから引き取ってください。」
「車で待っています。貴方が来たら寝台車を掃除してから引き取ってください。場所はいつものところで」
そう言うと、彼女は電話を切ってしまった。
あの人、人使いが荒すぎる。
今週で何件目だろうか。
いい加減、嫌気がさす。
彼女が仕事に熱心なのはよいことかもしれない、けれども僕の都合も考えてほしい。
この間なんて映画を見に行く予定を急遽潰して、休日返上で無理やり働かされた。
彼女の弁明は、この日は書き入れ時だから云々。
その先もこの仕事の重要性を説いていたが、さして重要ではないので記憶を消し飛ばした。
そもそも人の死に書き入れ時があるのだろうか。
すっぽかした所で後々に面倒になるのは目に見えている。
僕はやるせない気持ちになりながら、袋にクリーナーを入れて目的地へと向かう。
無機質な白色光が地下駐車場を灯している。
そこには喪服の色をした車が一台、ポツンと止まっていた。
僕は守衛さんに提示した証明書をしまって窓をたたく。
「着きました。手早くすましたいのでさっさとケリをつけて下さい」
彼女は窓を開け車内を見るように促す。
僕が見ていることを確認すると パン と乾いた音を響かせた。
嗅ぎなれた血の匂いが微かに漏れる。
「なにも僕の前で殺すことはないでしょうに。嫌がらせですか?」
「貴方は常日頃から命を軽視している。ちゃんと自分の目で見て命の尊さを…」
「はいはい。それはアンタもだ。ノールックで眉間に弾丸をぶち込むヤツが言う台詞じゃない。まぁいいや。さっさと死んだ医者を綺麗にして引き取るから金払え。」
そう言って死体袋からクリーナーを出す。
noteで「AI先生と小説練習」という記事を書いています。
これはその中から著者が気に入って世に出したいと思った作品です。
そちらもぜひよろしく。
https://note.com/ideal_pika7037/n/n49a11b868cc0