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ある電話の会話にて 二

「ごめんねあーちゃん今日カラオケ行けなくて!」

「……何があったのよ」

「いやね、あのね、行こうとは思ったんだけどね、噴水公園の前に人だかりが出来てたからさ、なんなんだろと近寄ってみたらあら不思議! まさかの噂のサーカスやってたんだよー!」

「噂のサーカスって何?」

「え? まさかあーちゃん知らないの? うっわ時代遅れー」

「…………怒りの導火線がやけきれたわ。じゃあね。もう一度会う時には……覚えてなさいよ」

「ご、ごめんあーちゃん時代遅れなんて言って! あ、あーちゃんは時代遅れなんかじゃないよっ! 時代を先読みし過ぎて今の時代に興味が向いてないだけだもんね! 私が勘違いしてた! ごめん!」

「……あんたそれ謝り切れてないわよ」

「え! 『あーちゃんは未来に生きてる』っていう所謂未来人っぽさを褒めてみたんだけど! お気に召さなかったかな!」

「お気に召す云々の話しじゃなくて……ああ、もういいわよ。あんたとそういう話ししてたら日が暮れちゃう」

「思わず時間を忘れちゃうくらいの面白さってことだね、私と喋るの! わーい、あーちゃんが褒めてくれたー!」

「……なんか目に汗がたまり始めたかも」

「ヤバイよそれあーちゃん! 今すぐ耳鼻科行こ!」

「耳鼻科は文字通り耳と鼻の病院であって……ってあんた、目の病院も眼科じゃないの! そのまんまの病院の名前を何で間違えるの!」

「え? うー、多分あれだよ。私が病院行ったことないってのが原因かなっ」

「……一度も? 有り得ないでしょそんなの」

「一度も行ってないよっ。何度も行ってないよっ。何度も……何度でもー何度でもー立ち上がりー呼ぶよー君のー名前ー声がー涸れるまでー! あーちゃーーーん!」

「音痴だわ煩いわ意味不明だわ五月蝿いわホントあんた……今夜中だってわかってんの? てかあんた本当に一度も病院行ったことないの? 正気?」

「うん! 私、馬鹿だからさ! 馬鹿は風邪ひかないってよく言うじゃん!」

「自分からそれ言う奴初めてだわ。……そうか、成る程。わかった。そういうことならあんたが一度も病院行ったことないっていうのも納得だわ」

「うわーん! 改めて言われると泣きたくなるよー!」

「ヤバイわね。耳鼻科行ってきたら?」

「何言ってんのあーちゃん。目の病院は眼科だよ。うわーあーちゃん時代遅れー」

「……さよなら。今までの人生で一番楽しかったのはマインスイーパーだったわ」

「あ、あーちゃん駄目! 死なないで! そんな悲しい遺言聞いたの生まれて初めてだよ!」

「だって実際そうだし……あ、あとウチが好きなのはピンボールかな。あのピロリロリンっていう始まりの機動音が病み付きになるのよねー」

「どうしよう……あーちゃんが今までの会話史上一番楽しそうな声してるよー。……あれ? あーちゃん、逃走中は?」

「ん? 逃走中?」

「うん。昨日そんなこと言ってたじゃん」

「逃走中は……三番目かな」

「あーちゃんにとって逃走中ってパソコンの中に入ってる付属品に負けるくらいの価値だったんだ……」

「まあ逃走中も面白いけどね。マインスイーパーに負けてるくらいじゃウチの生への欲求には程遠いわ。ったく、おとといきやがれ逃走中!」

「逃走中に関する関係者並びに各団体の方々この電話の会話は全てフィクションです実際の人物団体とは一切関係ないのでご了承お願いします因みに作者は逃走中大好きですだよもー」

「……いきなり何言ってんのあんた」

「なんかこれ言えっていう電波信号が突然頭の中を駆け巡ったの」

「そんなの受信したのあんた! 危ないから無視しときなさいよそんな怖い電波!」

「なんか逆らったら殺すぞ的な電波も含まれてたみたい。いやー、久しぶりにぃ、ながぁくしゃべったかんらぁ、舌がぁ、もつれてしょうがねぇんだぁ」

「誰よあんた」

「んだんだぁ」

「気に入ってんじゃないわよ。可愛くないし」

「そうなんだぁ……そうなの! 方言って可愛くないの!」

「うおっ、ビックリした。いきなりテンション上昇させないでよ。えーと、うん。好きな人は好きかもしれないけど、ウチは嫌い。てか大嫌い。田舎くさいったらありゃしないわ」

「…………」

「ん? どうした?」

「……自分のことを『ウチ』って指し示すのって方言じゃない?」

「…………え?」

「だってさ。女の子で言ってる子結構いるけど、ドラマとかじゃそんなに見ないよね。どうなんだろ……わかんないや」

「……わ、私ね、みたらし団子の上にね、あんこ乗っけて食べたら『みたらし団子あんこ』っていう新賞品が開発出来ると、思うのよ、私」

「そ、そんなに無理して話題つくってまで私って言わなくても……。だ、大丈夫だよ! ウチっていうのは方言じゃないと思うよ! ウチって言ってるあーちゃんカワイイし!」

「……そ、そう?」

「うん! あ、因みに私が前読んだなんちゃらテストって小説に出て来るウチっ娘ちゃんは貧乳でした!」

「…………何でそれをわざわざウチに教えたの?」

「似てるなーって」

「は?」

「ひぃ! ひ、一文字の疑問形程怖いものはないんだよあーちゃん! ……に、似てるなーって」

「ど、こ、が?」

「三文字の疑問形をわざわざ一文字に区切ってまで怒りを表すなんて……あ、あのー…………バストが」

「さよなら。今までの人生全く楽しくなかったわ」

「前よりも悲観した遺言になっちゃった! ゴメンねあーちゃん許して!」

「……ふぅ。もういいわよ」

「え! いいってそのままのペッタンコでいいってこと? えー、もし私があーちゃんみたいなペッタンコだったら嫌だけどあーちゃんがいいならいいんじゃないかな! 個人の自由バンザイだよ!」

「……どーにかして電話先の相手の胸と自分の胸を取り替えることって出来ないかしらね」

「棚から牡丹餅だね!」

「降って湧いたような幸運って意味? あんた本気で明日覚えてなさいよ。……てかあんた、今日なんでカラオケ来なかったのよ!」

「い、今さらその話題に戻るの! 無理なんだいだよそれは!」

「無理して小難しい言葉を使おうとしない! それにあんた絶対それ後半平仮名にして言ってるでしょ! 漢字にして言ってみなさいよ漢字にして!」

「無理なんだい!」

「無理なんかい! いや……もういい……私が無理矢理話しを戻せばいいんだ……」

「無理なんだい!」

「うるさいわ! えーと、なんだっけーそのー、サーカスがどうしたの?」

「結局戻すんだねーうんうんいいよあーちゃんどんとこいだよー。えっとね……そう、今巷で噂の『刀はないけど銃はある一人サーカス団!』がやっててね。それ見てたらいつの間にか集合時間過ぎてたの」

「何その中二病くさいネーミングセンス。痛々し過ぎるわねそれ。どーせ略称は『刀銃』とかじゃないの? 全く、痛々しいったらありゃし」

「略称は普通に『サーカス団』だけど」

「……で、それが原因で今日はカラオケ出来なかったって訳ね」

「ここでまさかのスルースキル発動なのあーちゃん! それは逃げだよ! エスケープスキルだよあーちゃんそれは!」

「うるさい。黙って私との会話に興じなさい」

「興じなさいってどういう意味?」

「え……え? それは……その……楽しむって意味なんじゃないの。知らないわよそんなの」

「意味がよくわかんないのに使ってたの? あーちゃん……それは駄目だよ……だから最近の若者は無理なんだいって言われるんだよ……」

「言われてないしあんたそれ後半を漢字に直しても訳わかんないし! あー、もういいわよ! とにかくカラオケ行けなかったのはそのなんとかサーカス団のせいなのね!」

「うん! でねでね、あーちゃん。今日電話したのはカラオケドタキャンしてごめんなさいっていうのと……もう一つ言いたいことがあって電話したんだー」

「うん? 何々、気になるじゃないのそんな言い方されたら。面白いことだったらカラオケドタキャンを許してやってもいいわよ」

「ホント? じゃあ言うね」

「うんうん」

「えっと……ゴホン。病院の病室に入る時って……エタノールで手の消毒するくらいで本当に大丈夫なのかな……?」

「……それがいいたいこと?」

「うん」

「エタノールを全身にかけた後燃やされなさいよあんた」

「今までの会話で初めての死刑宣言があーちゃんから発せられちゃった! う、嘘だよ! 冗談!」

「本当に冗談?」

「うん! 本当に本当に冗談!」

「マイケル冗談とかくだらないこと言わないわよね」

「言わないよっ! そんなつまらないこと!」

「……あんたのすごいところって謝りながら人をけなせるところだと思うわ。うん。で? 本題を言ってみなさいな」

「う、うん! えっとね……私、好きな人が出来ました!」

「……マジで! え、誰よその相手は!」

「フッフッフ……驚くことなかれあーちゃん……私が好きになったのは……今日見た『サーカス団』の団長さんでもあり、私やあーちゃんの同級生でもある田中雄二君なのです!」

「…………」

「キャハッ、言っちゃった! 告白の前の告白しちゃった! うわー照れるー! ……あーちゃん? あーちゃーん。おーいもしもしー」

「……ご、ごめんあまりのことに気が動転しちゃって」

「まあそうだよねー。私がこんなこと言うなんて久しぶりだしー。雄二君かー……競争率高いだろなー……。ねえあーちゃん。雄二君に彼女いるとかそういう関連の話聞いたことない?」

「あるわよ」

「……え? そ、それってどういう」

「雄二君……彼女居るわよ」

「…………だ、誰?」

「ウチ」

「へ?」

「ウチ。ウチが、雄二君の彼女」

「……え?」

「そういうことだから。諦めて。悪いけど」

「……そ、それって本当なの?」

「ええ。本当よ本当。だから悪いんだけど雄二君は諦」

「そっかぁ……そっか! わかった、じゃあ諦めるね雄二君のこと!」

「へ?」

「そっかー……なんだ、前言ってたあーちゃんの彼氏って雄二君のことだったんだー。じゃあしょうがない。うん。友達の彼氏奪うなんてしたくないし。しょうがない」

「……いいの?」

「うん! 全然いいよっ! うん……全然、いいよっ!」

「……ありがと」

「うん! んじゃね、あーちゃん! 今日カラオケ行けなくてゴメンね! また来週!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

「はへ? なーにー?」

「明日、オープンし始めのケーキバイキング行かない? ウチの奢りで!」

「え? いいの! うわー、私あそこのケーキバイキング行きたかったんだー!」

「そうなの? じゃ、じゃあ明日、一緒に行こ!」

「うん! わかった!じゃあまた明日……いつもの場所で!」

「午前十時集合ね!」

「うん! じゃ、また明日! おやすみあーちゃん!」

「おやすみ!」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

「……ふぅ。ゴメンね。雄二君はウチのものなの。例え誰であろうと渡しはしないわ。どうせあんた、明日も約束に来ないんでしょ? てか来たことないじゃないのよ。ま、来たらその時点でアウトなんだけど。……さーて。メグの奴もメグの奴だけど……あの不良も不良よ。折角お父様からもらったお小遣をやるって言ったのに拒否しやがって……ったく、これだからバカは困るわ。あーあ、明日は何してメグを困らせてやろうかなー。いじめ、いじめ、メグを、いじめ、いじめはする方じゃなくてされる方が『間違い』なのよオッホッホー。……何馬鹿言ってんのよウチは……だから雄二君も振り向いてくれないんじゃないの一年くらい雄二君を愛してるのに雄二君は振り向いてもくれないし雄二君が嫉妬するかなって思ってわざわざつくって別れた彼氏も今じゃ欝陶しいし……「荻原のことが好きだ荻原のことが好きだから話しをさせてくれ」とか電話先でウザイのよ欝陶しいのよ……だったら私と電話なんかじゃなくて本人に直接会って話せばいいじゃないのよ……ああああ、もう! 雄二君? なんで私に振り向いてくれないの? 早く私と付き合わないと……メグがどうなってもしらないよ? フフフ……アハハハハハハハハ! ゴホ、ゴホ、声涸れた」

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