土曜日 4
むかーしむかし、田中雄二という私の幼なじみがおりました。雄二は『躊躇が出来ない』っていう間違いを持っており、公園で昔つまり私達二人が小さい頃遊んでいたその時その時間ではなんの障害もなかったのだけれど、次第にその『間違い』の頭角が現れてきました。
一番初めが私と雄二が四歳だった時。私がほほえましい顔でスコップを右手に砂場でザクザクザクザク無意味に掘っていた時、いきなり現れた雄二が「めぐちゃん、そのスコップ僕にかちて」って言ってきたのでございます。「かちて」だって。今のあの中途半端なイケメンからは聞けないお言葉を使って当時の雄二は言ってきた訳です。
当然スコップを渡したくない私は「イーヤ」って軽く雄二に返してそのまま掘るのを続行していた訳なのですけれども、ここで雄二がクソ真面目な顔で「めぐちゃん。貸せ」って言ってきたんですね。その声がまた低いこと低いこと。本当にあんた四歳児? みたいな冷徹な表情と声のトーンで私に言ってきたもんだから、流石の私も雄二のみたこともないその姿に違和感を覚えたという訳なんです。でも私はスコップを渡さなかった。何故なのかって? そりゃあ簡単な話。だって雄二なんかにスコップ貸すのはなんかしゃくだったし。それに貸すの嫌っていうのはつまり雄二にもう一つスコップを持って来て欲しかったって意味なのに。そうしたら二人で……。
ま、まあそんなこんなで結局最終的にスコップを渡さなかったんだけど、そしたら雄二はいきなり「貸せよ!」って大声を出してか弱いか弱い私にボディーブローを繰り出してきたんですねこれが。くらった瞬間『マジかこいつ!』と思った私なんだけど、これが結構キツイボディーブローだったんで言葉どころか息さえはくのが難しい状態に一瞬陥っちゃったんですよ。腹を抱えて疼くまる私なんかどうでもいいかのように私の右手からスコップを取った雄二は、そのまま何くわぬ顔で砂場にウンコ座り(ウンコ座りなんて私みたいな美少女が言っちゃダメじゃんみたいな指摘は私のウインクで感謝と共に返します)して無表情で砂を堀り始めたの。その姿が信じられなかったね、私は。それまでいつもめぐちゃんめぐちゃん言って近付いてきた雄二がいきなり私にボディーブローだもの。本当に驚いた訳なんです。
で、数秒経った後、ハッと雄二が目を見開いたかと思えば、立ち上がって私の方に心配そうな顔をして近付いて来るんですよ。「ごめんね、めぐちゃん。ごめんね」とか言いながら。
これ見て私は思ったね。
「おんどれらこら雄二の分際で何さらしてくれるんじゃ!」
「うぎゃあああ! ごめんめぐちゃーーーん!」
……ってな訳で意味不明さと怒りで狂いに狂いまくった私は雄二にボディーブローを三倍返しでしまくったところを私と雄二のママに止められたという次第です。
その後雄二は病院に行って、『躊躇が出来ない間違い』と――『拳銃が上手く扱える』っていう訳わかんない間違いをお医者さんに見抜かれたんですよ。『間違いを見抜く間違い』を持つのがこの街のお医者さんな訳なんだけど、いかんせんそのお医者さんも一つの『間違い』の片鱗くらいわからないと見抜きようがないんだって。だから私と雄二を含めたこの街の人達は、自意識を持ち始めて『間違い』の片鱗を見せるようになってくる――子供の頃にお医者さんに診てもらうという訳なのでございます。
私の場合は『好きになる相手の性別』を間違えるっていう間違い一つだったからその後母さんが色々話し聞くだけでそんなに大事にはならなかったんだけど……雄二の場合、『間違い』が二つあったんですねこれが。
何かを必ず間違える人。
その何かが――複数ある場合。
そういう時、その人はお医者さんにこう言われるんです。「君はこの複数の間違いの内――どの『間違い』を残したい?」って。
この街の歴史が何年かはわからないけれど、それでもある程度の期間の長さはあるであろうこの街の過去からいって、どうやら『間違い』は一人につき一つしか存在しないらしいのよ。
でも、中には二個も三個も……下手したら四個の必ず間違える『間違い』を宿す人が出て来る。
そういう人達は、四十歳までには間違いが一つに絞られるらしいのね。
まず二つ間違いをもつ人がいたとするよね。でもその人は、小学生の頃は確かにバンバン間違いをするけれど、高校生とか大学生の時に入り始めてから徐々にどれか一つが残るように他の『間違い』が全て薄れてなくなっていくらしいのさ。
でもって、その複数の内――どれを残すかは決められるらしいの。
何故なら必ず間違える『間違い』なんて――結局は自分の意識下で行う行動に過ぎないから。だから意識してどれか一つを残すように毎日毎日生活していれば、いつかはその一つの『間違い』が残る仕組みに――この街に住む人全員の体はなっているようなのです。
まあそうはいっても高校生くらいからその生活を始めなきゃいけないみたいだから(私は一つしか間違いがないから詳しくはわかんないんだけど)、中学に入る頃には当人にちゃんとどんな『間違い』を持っているか言うみたい。「君にはこれこれこういう間違いとこれこれこういう間違いがあるんだよ」的な、ね。
雄二もその例に漏れずに聞いた訳なんだけど、雄二の場合はちょっと事情が違ったのさ。
雄二は――小学二年生の時にその間違いの話を聞いたんだって。
理由は簡単ただ一つ。
雄二のパパが――無茶苦茶堅物な人だったから。
警察のドンって呼ばれてる雄二のパパ。濃い顔にはナイフで切り付けられたような傷が満面に広がっていて、体は屈強。端から見たらあれは熊だね、熊。グリズリーをも越す力を持ってるよ、雄二のパパは。
それで雄二のパパは、「男なら大事なことは早めに済ましておくべきだ」なんてことを雄二に教える為に、あえて早く聞かせたみたい。その時の雄二のパパの口調がどれくらい有無をいわさなかったかはこの話を聞かせてくれた時の雄二の奮え具合で悟ったよ。ホントに怖いんだろね、雄二のパパ。
そんで、お医者さんから「君は『躊躇が出来ない間違い』と『拳銃が上手く扱える間違い』を持ってるんだ。じゃあ雄二君。君はこの二つの間違いの内、どちらを残したい?」って雄二は面と向かって言わされた。
一瞬ポカンとしたらしい雄二だったんだけど、パパママお医者さん看護師さんが見守る中、雄二が降した決断は――「銃をまず使ってみたい」ってものだったの。
……ま、まあさ、考えてみてよ皆さん。この時雄二小学二年生だよ? テレビのヒーローに憧れる時期よ? しかも雄二の場合、ヒーローがパパだったから、警察しか使えない拳銃を使いたい気持ちは昔っからあったと思うんだよね。
しかも、運が悪いことに雄二には『躊躇が出来ない間違い』っていうのもあった。
何言ってるんだとかそんなこと考えるのはやめなさいとかいうパパママを目にした雄二は、『躊躇が出来ない』で小学二年生の肉体の限界をぶっちぎって、ドンであるパパの体を突き飛ばし、「銃使いたい銃使いたい銃使いたい!」って叫びながら病院の中を走り廻ってありとあらゆる機材を壊しに壊しまくったの。まーあれだよ。端から見たら暴走する小さな子供だよ。しかもその暴走具合が異常に異常だから誰も止められずに雄二は病院の機材を破壊しまくったんだってさ。
止めようにも止められない雄二の暴走を見てどうしようもないって悟った雄二のパパは、階段で下の階に移動する途中の雄二を踊り場で待ち構えて、見上げながらこう言ったんだって。
「わかった。お前がそういうなら使わせてやろう。ただし、人を喜ばせることだけに使うんだ。人を喜ばせることだけに――躊躇をせずに拳銃を使え。それが守れなかった時には、私もお前と同じように躊躇をせずに、お前を犯罪者と断定して全身全霊で捕まえてやる」
その言葉に、機材を壊す時についた切り傷から出た血を両手の至る所から流しながら、雄二はこう返したらしいの。「父さんだって、ヒーローだって拳銃を人に向けて使うよね。だったら僕も、拳銃を人に向けて使っていいんだよね。だってそれが駄目なら、父さんは人に喜ばれることをしていないって意味になるじゃないか」って。ガキが何全てわかったつもりでなまいってんだって話になるんだけど、雄二のパパはそれでも自分の息子の目を見ながらこう言ったんだって。
「雄二……お前は人に向けて銃を撃ちたいのか? 確かに私は人に向けて銃を構えたことはある。だが撃ったことはない。警察にいても、銃を撃って人を殺すなんてことは稀なんだ。撃つにしても、ヒーローもドラマの主人公も、誰も彼も彼女らも――皆が皆、他の人のことを考えて拳銃を構えて撃っている。それに比べてお前が今さっきまでこの病院でやったことはなんだ。他の人のことを考えてやったことなのか。違うだろ。そうじゃない。お前はお前で、お前のわがままだけで暴走したんだ。それは間違いなんだよ……雄二。今のお前には人に向けて撃つ為に拳銃を渡すことは出来ない。だが、お前が人の為になる拳銃の扱い方を何か思いついたら……『上』の方に無理を言って使わせてやる」
そうやって雄二のパパにまくし立てられた雄二は、雄二のママと一緒に病院の中全部を一周して看護師さん――お医者さん――患者さん全員に謝罪して、家に帰って一晩考えたんだってさ。自分が持つ『間違い』で出来ることはないのか――拳銃を上手く扱えて躊躇が出来ない自分にも何かやれることはないのか――そう思いながら何気なく部屋の中をうろついていたら、机の引き出しの奥深くに見つけたんだよ。
――昔、家族三人で行った、サーカスのチケットの切れ端を。
あの中でお客さんから笑いをとっていた赤鼻のピエロは、凄いパフォーマンスをしながらも……たまに間違いをしていた。
しかもあのピエロは確か……向けられたエアガンの弾を避ける演技も軽くしていたような気がする。
それを思い出した雄二は、テレビの前で『実録! 現代の警察官!』っていう自分が取材された番組をしたり顔で見ながらソファーに横になってる雄二のパパに向けて、大声でこう言ったみたいなの。
「父さん! 僕は銃を使ってパフォーマンスをしてみたい! サーカスみたいに派手なのじゃなくていい! ただ、誰かに僕の『間違い』を見て……楽しんで貰いたい!」
そうして、雄二は警察のドンである雄二のパパに無理をいって、拳銃と銃弾を一式受け取ったんだよ。そんでもって、雄二のママに助けを借りて、携帯サイト『刀はないけど銃はある一人サーカス団!』ってのを設立したんだってさ。
雄二のパパが何も言わずに作ってくれた射撃場(射撃音耐性で近所迷惑にもならないっていう優れ場所! 流石雄二のパパだよ太っ腹!)で毎日毎日練習して、ついに携帯サイトに実演の二文字が刻まれることになったのよ。
最初は公園。
次は広場。
とにかく広い場所で行って、一人サーカスを開演したのよ、雄二の奴。
当然苦情は来たらしいよ。そりゃ当たり前だよね。近所でパンパン銃弾が何かに着弾する音が連続して起こってたら嫌な気分ななもなるさ。うんうん。
けど、雄二の気持ちをわかってくれる人もいた。まあこれも、当たり前じゃんね。だってこの街の人達みーんな、嫌な『間違い』を持ってるんだから。この状況で理解者が出来ないなんて有り得ないんですよ。
嫌な結論なんだけどね。
間違いを持つ人しか間違いを享受出来ない世界――なんてのは。
でもここは間違いを持つ人しか居ない街。だからなんとか雄二もやっていけた。
携帯サイトも最初はさっぱりだったんだけど、パフォーマンスをやる度に口コミが広がってアクセス数もうなぎ登り! 『一人サーカス団の射撃少年!』なんてテレビや雑誌で持ち上げられたりもしたんだけど、雄二のパパの助言でパフォーマンスをする時は夏祭りで買ったヒーローの仮面を付けて正体を隠すことにしたの。銃を扱ってるなんておおっぴらにばらすもんでもないしね。ここらへんは流石雄二のパパだってことになるんだと思う。
そんなこんなやらで……雄二は私と同じ高校二年生。
私の知る――『間違い』を上手く克服した偉大な人物の内――尊敬する先輩の他の――ただ一人の人物な訳なのです。
「なんつーか……凄い奴なんだな、雄二君って」
「そうでしょう! そうなんですよクミクミ! 雄二は凄い奴なんです! 本当に……凄いんだよなー雄二の奴は……」
「…………」
「あれ? どうしたんですかクミクミ?」
「めぐちゃんってよぉ……雄二君のことをどう思ってんだ……?」
「え? 凄い奴ですけど」
「いや、そういう意味じゃ……ま、まあいいか」
雄二の昔の話しをした後煮え切らない会話した私とクミクミだったけど、そんなことには目もくれずに雄二はパフォーマンスの準備をせっせとしていた。
噴水公園にもう一度戻った私達。カフェで騒ぎを起こしちゃったせいもあって今、噴水公園の噴水前には沢山の人だかりが出来ている。うわー、さっきまでは全然いなかったのにいつの間にやらこんなにいっぱいの人がいるよー。あ、小さい子供の後ろで携帯をいじってる女の子カワイイ。しかも制服じゃん。だ、駄目だって肩かけバッグを胸の間を通してかけちゃ! ただでさえデカイだろうに……そんなことしたら更にピックアップされちゃうよ! あの制服のリボンが取れて制服の前はだけないかなー。そしたら真っ先に飛んで行って「大丈夫?」とかいいながらあらわになったブラジャーを脱がしてあげるのに……。
「……ってめぐちゃんオイ! 目が光ってんぞ!」
「ご、ゴメンナサイ。つい女の子のおっぱい睨んじゃった」
「それは『つい』で済む問題なのかよ!」
「じゃあ『つい』で済まない問題の例を出しますね。まず私の視線の先にいるあの制服の巨乳女子高生の服を問答無用に切り裂きます。その後馬乗りになった私が沢山のギャラリーがいる前で「大丈夫?」「大丈夫じゃないですぅ……ひゃ、ひゃん! な、ど、どこ触ってるんですかぁ!」「どこって貴女の胸よ。このままじゃ見えちゃうでしょ」「だからって揉まなくてもぉ……あ、アン! や、やめ……て」っていう掛け合いを」
「スマン余りにもな発言だったんで止めるのが遅れた! 何言っちゃってんのお前!」
「またまたクミクミったらー。私のこの妄想が聞きたかったんでしょ? ていうか聞いた上でしたかったのかなー? じゃあ今からしよっか!」
「ちょ、や、やめ……服を脱がそうとするな服を!」
「あ、じゃあブラから? もう! この淫乱娘っ!」
「お前にだけは言われたくない一言だよ! ほ、ホント止めろよ……頼むから……いやマジもう……お願いします!」
「…………」
クミクミが涙目になりながら私の動きを止めようとしてたから私はとりあえずクミクミの服を脱がそうとするのを止めた。てかクミクミそれ逆効果だって。疲れたのはわかるけどハァハァ言いながら涙目で私を見ないでよ。何だかツンデレ効果で私からのセクハラを求めてるみたいでもう……あああああ……ま、まあね、流石に私も自重しよう自重。雄二が久しぶりにあれやってくれるんだから、ちゃんと見届けないと。
すると、噴水が立ち上がる音と共に、赤いヒーローの仮面を被った雄二が拳銃を服の内から取り出す後ろ姿が見えた。私達は今、雄二のパフォーマンスの舞台裏的な位置にいるんだけど、ここでもひとだかりが出来始めて、さっきまで数人しか居なかったこの場所にも人いっぱい集まりだした。こりゃいけないな、って思った私は後ろに居る好青年らしき背の高い帽子を被った人に「すいません」って話しかけてみた。
「ここらへんは流れ弾がくるかもしれないから危ないって聞いたんですけど」
「え? なんだい君、もしかして初心者? 彼はね、いつも上空に向けて撃つから後ろにいても全く問題はないんだよ。知らないのかい?」
「知ってますけど……」
勿論私はそのことを知っていた。てか知らない訳ないじゃん。あんたこそ何さって感じなんだけども。私はあんたが彼って称した奴の幼なじみなんだけども! あいつのことを知った風に言わないでよこのおっさん! あんたが女の子だったら「うんうんわかるよ。でもねー危ないからねー、ちょっとあっちのベンチに座ってピロートークの前のやつやろっかー」って誘うのに!
なにはともあれ流石に私のこのどす黒いならぬどす白い感情を表に出すのは避けたかったから、素直に「いやいや……さっき、あの変なダッサイ仮面被った人が「俺の後ろに立つな」なんてことを言ってましたよ」って朗らかな女子高生を気取って忠告したら「どこぞのゴルゴ?」とか首を傾げながら周りの人と共に好青年らしき人は大人しく前方の人だかりに混じっていった。
「……そんなこと言ってたか?」
そしたらクミクミが私に向かってボソリとこんなことを小言で言ってきた。
「確かに流れ弾はヤベーけど雄二君が噂の奴なら大丈夫なんじゃねーの? テレビでも全部斜め上に撃って安全性を保証してたしよ」
「言う訳ないじゃないですか」
そう。雄二がそんなこと、言う訳ない。雄二なら、例え少しの妨げになろうとも、来てくれる人見てくれる人全員に満足していって貰いたいと思うだろうから。
でも、そんなの駄目。
「ここは私の特等席なんです。雄二の姿が一番近く見えますし。誰にも……誰にも譲りはしませんよ」
「……そうかい。ワリィな、特等席に僕なんかが居座っちまって」
「イイエ。特等席に座るのは私の恋人って決めてたんでクミクミは全然オッケーです」
「普通だったら雄二君の恋人が特等席に座るんじゃねーの!」
「え、じゃあクミクミは雄二君の恋人になりたいんですか! だ、駄目ですよ! 絶対駄目!」
「いや、僕はもう少し背の高い方が……って、へ? ……なんで僕が雄二君の恋人になりたいって思っちゃ駄目なんだ? ん? ほら、言ってみろよ、ほら」
「勿論、雄二と付き合いなんかしたらクミクミが駄目になるからです!」
「……はぁ?」
口を開けて驚くクミクミ。こいつ何言っちゃってんの雄二君が何で僕と付き合ったら僕が駄目になるんだよ訳わかんねーよっていう言葉がクミクミの表情の中には隠れていた。わかりますよええわかります。確かに今までの話ししか聞いてないクミクミだったらその反応もわかりますよ。
でもね……雄二の『躊躇が出来ない』って間違いはあの程度の過去じゃおさまらないんですよ!
「小学生の高学年の時、私は雄二に「スカートの中にあるパンツが何色か知りたくなった」とか真剣な顔で言われてスカートめくりをされたことがあるんです!」
「な、お前、マジでか!」
「マジもマジ、大マジですよ! しかも中学生になってからはもっと酷かったんですよ! 「メグの使ってるシャンプーを知りたくなった」とか言って私が真っ裸で居るのに平気で風呂場に入ってきたり、「メグの胸って今何カップ?」って話しの脈絡関係なしの体育の時間で言ってきたりするし! コンプレックスなんだよある意味胸が大きいの! バスケのドリブルした後にそれを聞くなよ!」
「メグそのことなら謝っただろ頼むからそれ以上は言わないでください本当にすいませんでした!」
私が雄二の性欲の暴走を有りのまま話していたら、仮面のせいでくぐもった雄二の声が聞こえてきた。
「あれー? これは私の幼なじみの雄二って奴の話しなんですけどー。『刀はないけど銃はある』とかなんちゃらかんちゃらのサーカス団員さんは関係ないんじゃないですかこの変態叫ばないで気持ち悪いだから狼なんだよ男は」
「く……な、何でもない。もうすぐ始まるから、ファンでも少し黙っていてくれ」
「知ってますかー? 不安ってカタカナで書いたらファンって読めないこともないんですよー」
「つまり俺のファンであることを不安だと!」
そんなようなことをグダグダ叫んでいた雄二だったけど、やがて叫び声を抑えて真剣な空気が張り詰められる。
パシャンっていう噴水が立ち上がる音が聞こえると同時に、仮面を被った雄二が拳銃を上に向けて一発引き金を抜いた。パァン、と乾いた音が人だかりと噴水の前の空間に広がる。
上を向いていた私達の視線が、雄二の降ろす拳銃と共に下におり、雄二の姿とぶつかった。
「刀はないけど銃ならある一人サーカス団……一ヶ月ぶりに開演です!」
雄二が叫ぶと、私を含めた公園に居る全ての老若男女が拍手喝采を巻き起こした。
刀はないけど銃ならある一人サーカス団。
本日も、これにて開演だそうです。