日曜日 2
午後六時半をちょい過ぎた夕暮れ。私の制裁がなかなかにきいたのかどうかわからないんだけど、それから雄二は「なんか……色々とごめん……」って言いながら、家の玄関で帰る途中、私に振り返った。
「ちょっとさ。諸々の事情でメグが心配になったんだ」
「なにさそれ。どういうこと?」
「諸々は諸々だっての」
「だからその諸々を教えなさいっての」
私がこう言うと、雄二は「うーむ……」って頭を掻きながら言葉を濁した。なんじゃこりゃ。どういうことなんだろ。雄二が――『躊躇出来ない間違い』を持ってる筈の雄二が――こんなに私になにかを言うのに躊躇うなんて。
「昔は私が「家にエロ本何冊ある?」って聞いても答えてくれた雄二が何で……」
「……って何でいきなりそんな過去の話持ち出しちゃってんの!」
「確か二十五冊だっけ。すごいですねー田中さーんすごい変態ー」
「それは俺が凄いのか俺が凄い変態なのかどっちを指し示してんだよ! というよりも確かお前、その後俺の部屋に勝手に入りこんで二十五冊のエロ本全部持ってったよな! メグの方が変態じゃねーか!」
「失敬な! 私のことは女の子の体を研究する偉大な研究者と呼びなさい!」
「うるせーよ偉大な変態!」
雄二はそう言いながら「あーもう! なんでこんな話にいつの間にかなってんだよ!」って悪態をついていた。うーん、確か雄二のエロ本の中に私の好みの女の子はいなかったんだよなー。全部が全部巨乳で背の高い女の子ばっかりで。私が好きなのは可愛くて身長が小さい……なんかこう、全てを投げ出してでも身を捧げたくなる女の子なんだよ。あ、全てを投げ出すってのはあれね。お金とか、私の体とか。ていうか体については私から奪うから。奪った上で「……もう引き返せないよ」って耳元で呟いてあげるのがこの私! そこで赤く頬を染める女の子をそっと抱きしめてあげるのがこの私! その私を見ながら無言で抱きしめ返す女の子……キャーー! 単なるヒモで満足出来る程私は軽くないんだよ! 真のヒモってのはお金もお体も提供し提供される関係のことなのさ! 真理だね、ある意味!
「ああああ、ヒモサイコー! ヒモになれるなら私全てを投げ出すから今すぐ私をキャッチアンドリリースして世界中の女の子ー!」
「何いきなり危ない発言してんだよお前! 今六時半過ぎっていう微妙な時間帯ってのわかってんのか!」
「微妙な時間帯? いやいやー、凄い人達は朝の六時半過ぎでも絡み合うからさ、午後六時半を微妙な時間帯っていうのは決め付けだと思うよ」
「何の話!」
「え、言わなきゃダメなの! な……雄二、あんた幼なじみにそんなことをわざわざ言わせたいなんてどれだけ変態なのよ! この狼! 最低!」
「理不尽もここまでくると泣けてくるっての!」
なんなんだよこれなんなんだよ! とにもかくにも何故に俺がここまでせめられなきゃならねーんだよ! って喚きたてる雄二。
……はぁ?
いやいやあんた、何言ってんの?
「まず初めの原因はあんたが私の……ぱ、パジャマ姿見たからじゃん!」
「おうよ! 良かったぜ、あれは!」
「包み隠さず開き直るなこの変態!」
言うと私は雄二の右頬にビンタをくらわした。何でよ……何であんなあわれな姿を雄二なんかに見られなきゃいけないのよ! 夢の中でのあの快感……あの甘い吐息……その後の開放感が全部台なしじゃないの! なんなのさ、もう! 有り得ない有り得ない有り得ないっ!
「部屋に忍び込んだのがクミクミとか真姫ちゃんとかだったらそのままベッドの中に持ち込んで有無を言わさないまま一夜を過ごすのに! それがなんでよりにもよって雄二なのよ!」
「良かった……本当に忍び込んだのが俺で良かった……!」
「何が良かったのよ! 私と雄二の絡み合う姿? はん、返吐どころかヘドロが出るわ! 誰得? 需要何パー? 誰がそんな展開望んでんの?」
「少なくとも、メグの目の前にいる男はその展開を望んでるぜ」
「え? 私の目の前には誰もいないんだけど」
「存在が消されちゃったよ俺!」
そう言って焦りながらも、「と、とにかく!」って言って仕切り直した雄二は、私に向けて最後にこう言ってきた。
「今日の夜、絶対に外をうろつくなよ」
「え? 何で?」
「危ないからだって。特に今日は……諸々の事情で危な過ぎる。頼むから――何があっても夜……ましてや深夜なんかには絶対に外に出るな。わかったな?」
「……もし外に出たら、どうなるの?」
雄二がさっきまでの雰囲気とうってかわって真剣な表情になったから戸惑う私。え、こいつが今までこんなに必死になって外に出るななんて言ったことあったっけ? しかも何だか目がマジなんだけど。どうしたんだろ……。
私が暗い顔で俯きながら言ったのを見て忠告がきいてることを悟った雄二は、私の両肩に手を置くと、こんなことを言い始めた。
「何でとかそんなの関係ないんだが……あえて言わせてもらうぞ、メグ。お前がいくら変態でヤバイ奴でも、外見は立派な女子高生なんだ。というかメグは可愛い女子高生なんだ。いや、それだけじゃ足りないな……メグは日本一……違う、これでもまだまだ足りない。メグ。お前は世界一可愛い女子高生なんだよ。そんな奴が深夜に外ほっつき歩いてたら周りの奴らが放っとく筈ないだろ? 誰かに狙われるかもしれない。誰かに襲われるかもしれない。だけど、もし――そんな危険なことがメグの身に降り懸かったら……俺がメグを助け」
「え、襲われるって女の子にかな! キャッホーやったー! これからの私の趣味は深夜徘徊に決定だね!」
「俺の台詞全部パーじゃねこれ!」
うわあああ、恥っず! 何これ……何これ! 恥ずかし過ぎるだろ俺! って悶える雄二。その姿を見た私が「悶えるとかやめてよ雄二。見苦しい」っていう素直で率直な感想を言ってあげたら。「……マジかよ」って呟きを残して泣き始めた。
……マジかよ。まさかこんな綺麗な夕暮れを背景に本気で泣き出す高校生男子がいるなんて。
「泣かないでよ、雄二。ほら……なんか……そんな姿見てるとさ……」
「メグ……まさかお前、母性本能がくすぐら」
「気持ち悪いからさ」
「……ハハハ」
私がこう言うと、雄二は後ろを振り向いて、私の視線の先にある夕暮れを見始めた。ハハハ……ハハハ……という憂い声を醸しだしながら。
いやーいけないいけない。ちょっと言い過ぎちゃったかもしれないね、これ。私の裸を見たとはいえどうであれ、雄二は私を心配して家に居てくれたんだもんね。恥ずかしかったのは私の方だけどなんて言葉をいいたい気持ちはやまやまなんだけど……なんかしゃくに触るから言うのはやめておこう。うん。
――その代わりに、この一言を雄二に。
「ありがとね。雄二の言う通り、今日はおとなしくじっとしとくよ」
私がそう言うと、多分悲しい表情を輝かせながら私に振り返る雄二。「そこらへん頼むぞ、メグ!」とその場を去ろうとする。
「ちょ、ちょっと待って雄二!」
「何だ?」
「結局あんた、こんな時間に何しに行くのよ! 誰か女の子をナンパしに行くって言うなら是非とも私も一緒に連れて行って欲しいんだけど!」
「んな訳あるかよ! 俺がメグ以外の女子をナンパするなんて絶対にないからな! 違う違う、俺はこれから……ちょっと撃退してくるだけだ」
「撃退って……何を? もしかして、魔物とか?」
「こんな時間帯に外出たら撃退出来るのかよ魔物! ……いや、ある意味……魔物かもしれねぇな、今から俺が撃退するのは」
「え、それってどういう……」
「……何でもない。忘れてくれ」
言うと雄二は私に「じゃあな」と右手を振って玄関から去っていった。私は手を振らずに、胸元で両手をにぎりしめ、離れていく雄二をずっと眺めていた。
魔物を撃退って一体全体何なんだろう……というかそういう世界観もありなんだっけこの街。よくわかんないね、ホント。雄二の言い分も――雄二の行動も――雄二も。
ってあれ?
なんか雄二ばっかだな今の私。
うん、キモい。やめよう、雄二のこと考えるの。
「さーて、出会い系サイトでも見ようかなー」
そんなことを思い付いた私は雄二の背中が暗くなりはじめた夕暮れの中に消えるのを見届けると、家に入って靴を脱ぐ。玄関の直ぐ側にある階段をあがって部屋に入る私。思うんだけどさ、階段でよくある見えそうで見えなさそうなあのスカートパンチラは最強だと思うのよ、私。だってあれ無茶苦茶興奮しないかな? なんか見えなさそうなんだけど、じっと見てると見えそうじゃないあれ? 凄まじいよ。たまにバッグとかで隠す女の子いるけどさ。何考えてんだろねあれ。だってじゃあ貴女はなんでそんな短いスカートをわざわざはいてるの? 見て欲しくないならそんなの着なきゃいいのに……ってもしかしてこれ自虐プレイかな! 楽しんでんのかな! その見られそうで見られないその状態を楽しんでんのかな! うおおおお、ヤバイね、そんなこと考えだすとさ! しかもね、一番凄いのはバッグで隠さないまま結局パンツを見せちゃう子だよ! なんなの? 見せてるの? 『ほら、見せてあげるから私の下着みて興奮してなさいよ』って心の中で思ってるのかな! 見てる方も興奮して見せる方も興奮して、一石二鳥じゃん! 誰しもが得をして誰しもが損をしない仕組みが出来上がっちゃってるじゃん! 素晴らしいね、駅の階段! エレベーター使う奴はダメな奴だよ、うん!
そんなようなことを考えて階段をあがりきった私。この間一分もかかってないね。やっぱり物思いにふけってると、人間ってのはゆっくりになっちゃうんだよ。それが今の一分の私の妄想で証明できたってのはなにげにに良いことなんじゃないかな。だから私はこの妄想という想像という思想をやめないよ! 誰が何を言ったところで、やめるものかっ!
「グフ、グフフ……あ、よだれが床に……危ない危な……このよだれを残しておいたら家に来る女の子が誰かなめてくかも……拭くのやめよーっと」
こんな独り言を言いながら部屋に入ると、狙ったかのようにママとパパが「ただいま」って言いながら家に帰ってきた。おお、危ないところだったね。もしさっきの独り言が聞こえてたらママの機嫌を損ねることになってたよ。やっぱたまってるなー、私。最近出会い系サイトで女の子の写真眺めてないし、沢山の女の子に会える学校に行けるのにもまだ時間あるし……アダルトなサイト覗こうかな……でもそこまでしたら流石の私も罪悪感が……いやいやでもでもああいうサイトって雇われて喘いでる所謂『女優』の方々なんだよね? じゃあいいじゃん! てかなんで男が見ていいのに女が見たら微妙な感じになるのよ! 男女平等! 差別はダメだよ差別は!
私が拳をにぎりしめて一大決心をしようとしていると、「なにしてんの。早く降りて来なさい。夕飯はキャベツよ」というママの声が聞こえてきちゃった。何よ、もう。あと少し時間があったらイヤホン両耳にかけてビバエンジョイタイムに入ってたのにー。てかキャベツが夕飯って。差別もダメだけどキャベツだけの夕飯もダメだよ。
だからさ。男も女も平等なら、エロい店に私が入っても嫌な目で私を見ないでよそこの殿方。私も貴方達と同じ……興奮を持て余して弄びたい仲間なんだからさ……。仲間とかいて友達と読もう。初めて会った時の第一声は「どの子を一日中言葉攻めしたいですか?」に決定だね。この言葉に「何言ってんの。決められないよ。僕(もしくは俺。私とかウチとかいう女の子の場合は第一声が変更になってこの注意書きの意味自体なくなっちゃうから気をつけてね)は……全員の女の子を言葉攻めしたい」って返事をしてきた紳士の方とは親友になれそうな気がするなー、私。握手して二十分くらいカフェでしゃべりあった後、実際にナンパしにいくんだー。男だけなら警戒されるけど女の子が傍らにいたら警戒心が薄れるらしいよ。どこかのテレビでそんなこと言ってた気がする。これぞホントのゴキブリホイホイだね! あ、ゴキブリっていうのは私に興奮という名前の叩いても叩いても消えない黒い感情をうめつける存在を指し示してるだけだから。うーん、でも流石にゴキブリはマズイなー。……じゃあ痴女ホイホイでいこうか! おっと、別にナンパしてホイホイついてくる女の子が全員痴女って言ってる訳じゃないんですよそこのいけしゃあしゃあなお子ちゃま達。ただね、単純に私が純心可憐な女の子を痴女にかえるだけだから。これが俗に言う等価交換だよ。赤色の服着た国家錬金術師も真っ青だねこりゃ。
なんて魂胆を心の中で秘めながら、私は夕飯を食べ、テレビをみて笑い、風呂に入り隣に女の子が居座ってる状況を妄想しつつ興奮しつつ、風呂からパジャマを着て出て、部屋に入り、数学を一時間勉強し、保険体育を二時間勉強し、保険体育の勉強中パソコンに映されてる勉強道具に舐めたくなるのを必死で堪えて……ていうか勉強道具ってヤバ過ぎな表現だね……グフ、グフフ……。
という訳でありまして。
現在時刻は午後十一時。流石に寒かったから窮屈な白玉模様のパジャマの前をしっかりと閉めて、すっかり暗くなった空を眺めながらぼうっと先刻の勉強道具について考えていると、下の階から「メグちゃん。お友達から電話」っていうママの声が聞こえてきた。こんな時間に誰からだろ。男からだったら受話器を置くつもりだけど、もし雄二なら今何してるのか聞けるなー。うんうん、女の子なら最良なのは間違いないよ。でもまあ、別に雄二でもいいや――って思いながら階段を降りて、ママから「ありがとー」って言って受話器を受け取ると、にわかには信じられない声が聞こえてきたんですねこれが。
「もしもし。こんばんわ、メグ。今時間大丈夫かしら?」
「ま……ままままま真姫ちゃん! な、何で真姫ちゃんがこんな時間に私の家に電話してくるの!」
「あら。嫌だったのなら今すぐ電話を切らせて貰うけど」
「い、いやいやいや! 待って待って! 今真姫ちゃんの全裸姿想像するから!」
「……何でそんなものを待たなければならないのですか」
ハァ、とため息をつきながら電話の先の私に「こんな時間なのですけど、電話いいですか? ちょっと話したいことがあるのですが」って言ってくる真姫ちゃん。すかさず私が「何かな! 告白なら二十四時間フルタイムで受信準備完了中だよ!」って言ってあげると、「私は貴女の告白をしない準備なら四六時中出来上がってますからそのつもりでね、メグ」と返す真姫ちゃん。
「というよりも……貴女が私に告白したのは、昔の話でしょう?」
すると真姫ちゃんは平坦な口調でこんなことを口にしてきた。うぅ、流石クールビューティー代表の真姫ちゃんだよー。
――そう、昔の話。
私が『覚えたことを全て間違えて覚える』先輩の卒業した姿を見たのが去年の三月の後半。そこで価値観がかわった私が一直線に向かったのが、下校途中の真姫ちゃんだったんですよ。「どうしたのですか、メグ。そんなに慌てて」って笑顔で対応してくる真姫ちゃんを見て決心した私は、遠い空の下で笑ってる先輩の姿を想像しながら、河沿い堤防の橋の上――「私、アラちゃんのことが好き」って真姫ちゃんに向けて叫んだの。
周りに誰もいなかったのが幸いだったよ。
長い黒髪をなびかせながら私を見る真姫ちゃんの表情は全くかわらなかったんだけど、心中は激変してるだろうなって簡単に想像できた。だってさっきのさっきまで普通に会話してた普通の女の子がいきなり女の自分に告白してくるんだもん。そんな状況想像したら私は興奮するけど、普通の――男の子を好きになる――女の子はビックリするに決まってるよ。
その証拠に、真姫ちゃんの口から漏れた言葉は「な……本気なのですか、メグ。だって貴女……え、えぇ?」ってな感じでうろたえてたもんね。そんでもってそのいつもは見れない真姫ちゃんの姿を見て、可愛いなーやっぱり真姫ちゃんはーと再確認して再確信した私は、もう一度――今度は真姫ちゃんの近くに歩み寄って、真剣な表情で言ったんだー。「うん。私、女だけど女の子が好きなの。ていうかアラちゃんが好きなの」って。
でも真姫ちゃんは――笑顔のままだった。
さっきまで普通だと思ってた女の子友達が――普通じゃない女の子だと知ったのに。
だって真姫ちゃんは――『笑顔しか出来ない間違い』を持っていたから。
そのままメグちゃんは深呼吸をして、私の顔を笑顔のままみると、こう言ってくれた。
「ごめんなさいね、メグ。私……今好きな人がいるの。だから貴女とは付き合えないわ」
「……ううん。ありがとう、アラちゃん」
返事を聞いた瞬間、私の目からは自然と涙が流れてた。これでもかってくらいの――大粒の涙を。
――だから。
だから、私は真姫ちゃんを最初に告白したい相手に選んだんだよ。
真姫ちゃんは私をひかずに……正当な理由で断ってくれる。「好きな子がいるから」って言ってくれる。「好きな男の子がいるから」とは言わずに。
実をいうとね皆さん。クラスの女の子はたまに、真姫ちゃんのことを『いつも笑顔で怖い』って言ってるんだよ。
いつも笑顔で何考えてるかわからない――しかも同級生にも丁寧口調でそれがまた怖いって。
でも、そんな真姫ちゃんに告白する男の子は数知れないんだ。だって可愛いんだもん。「女の子の一番の化粧は笑顔なねよ、メグ」って言葉をママから聞いたことがあるんだけど、本当にその通りだと思う。
いつもいつも。朝も昼も夜も笑ってる真姫ちゃんは、無茶苦茶可愛いんだよ。
「そうして涙ながらに真姫ちゃんと別れて家に帰った私は、真姫ちゃんの恥ずかしい姿を想像しながら、枕とシーツを濡らしましたとさ」
「……いきなり何ですか」
「あ、ゴメンなんでもないよ。ちょっとばかし思い出してた過去編が少し声に出ちゃった」
「そんな過去編が貴女にはあったのですね。正直私、ドン引きです」
「またまたー。そんなこと言いながら……私にこうして電話をかけてくれるのは真姫ちゃんだけだよ。ありがとう、真姫ちゃん。告白した後も、友達でいてくれて」
「……っ。何言ってるんですか。私は貴女の弱みを握ってるから友達でいてあげるだけです。教科書を忘れた時とか都合がいいですし」
「私と友達ってところは否定しないんだね、真姫ちゃん。というか私が「お願い教科書貸してアラちゃん!」って頼んだ時、「はいはいメグ。仕方ないですね」って言いながら貸してくれたじゃん」
「……と、とにかく。今話しをしても大丈夫なのですね。じゃあ話します」
私が指摘すると、直ぐさま取り繕うかのように真姫ちゃんは話しを切り出してきた。うわー、やっぱり可愛いなー真姫ちゃん。今頃電話の先では額に汗を流しながら――それでも笑顔の状態なんだろうなー。
……いや、ちょっと待って。
本当に今の真姫ちゃんってそんな姿なの?
「それはそうと真姫ちゃん」
「まだ一秒も私のしたい話しをしていないのですが……何ですか、メグ」
「今全裸? そうじゃなかったら、今履いてるパンツ何色?」
「……ここまで堂々とした変質者は初めてです、私」
「え、そう? じゃあもっと堂々とするね。えっと、鈴木とは何回ネッチャリした交流をしたの? もし一回以上してたら今すぐ鈴木を殺すからさ」
「琢磨君を殺すって貴女……。いえ、ちょうどいいですね」
「ちょうどいい? あ、もしかしてあまりにも鈴木がつれない態度とるから私相手がちょうどいいって意味かな! じゃあ今すぐ深夜のベッドタイムをし」
「ちょうどいい話の切り出すタイミングという意味ですよ、メグ。というよりか、少し黙ってなさい。今からその噂の琢磨君の話しをしますから」
「……へーい」
私が残念そうな声を出すと、真姫ちゃんはもう一度ため息をついて、こう言ってきた。
「私、琢磨君の浮気らしきものを知ってしまったんです」
「え? 鈴木が浮気? 真姫ちゃんを? よし、今すぐ鈴木を全身オレンジ色の刑に……」
「だから少し黙ってなさい、メグ。ていうか貴女、全身オレンジ色って一体何をする気なんですか」
「しゃ、喋ってもいいのかな、これ。サンタを信じる子供が聞いたら十秒で大人になれる話なんだけど」
「……やっぱり少し黙ってなさい」
さっきから話しがそれすぎですね、ちゃんと喋りましょうかって静かに言う真姫ちゃんに対して私が了解すると、真姫ちゃんは話しをし始めた。
「今朝のことです。私が、コンビニのアルバイトに行く琢磨君に向けて「いってらっしゃい」と言って見送ったのですけど、その後いつもなら私の両頬にいってきますのキスをしてくれる筈が……今日だけ片方の頬にしかしてくれなかったんです」
「……うん? あれ、ちょっと待って……それ想像したら真姫ちゃんと鈴木が一緒に住んでるラブラブカップルにしかならないんだけど」
「ええそうですよ。悪いですか?」
「…………ううん。悪くなんかないよ真姫ちゃん」
そんな話しはどうでもいいんですよメグって語りかける真姫ちゃんだけど、今の私には絶望とひしめく闇と、崩れていく私の心の地盤のことしか頭になかった。へ、へー……二人で住んでるんだー。しかもキャッキャウフフなの? キャッキャウフフな生活してるの? 真姫ちゃんが鈴木に向かって「ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……待ちくたびれて熟し切った私にしますか?」って誘うの? 誘いまくってネトネトしあうの? ネトネトしたあとお互いの顔見ながら感想言い合うの? で、明日もやろうねとか言い合うの?
「アハハ……ハハハ……」
「ちょっとメグ。何ですいきなり笑い出して」
「いやいやー……何でもありませんよ真姫ちゃん……」
私が依然笑う声を聞きながらも「……まあいいです。話しを戻しましょう」と聞き流すことにしたらしい真姫ちゃん。ハハハ、私なんて所詮その程度の存在なのさって天井を見上げながらうちひしがれていたら、いきなり突然突如、こんな言葉が聞こえてきたんです。
「それで、おかしいと思った私なのですけど、先刻琢磨君が家を飛び出していったのですよ。こんな時間にです。ますますおかしいと思ったので、今現在尾行してるのですが……一回立ち止まったと思ったらそこから一向に動かないのです。何がなんだかわかりませんし、一人じゃ心細いので……メグも手伝ってくれませんか?」
「……はへ?」
うん?
てことはこれあれかな……要約すると、「一緒にストーキングしてくれないですか?」ってことかな?
深夜に。
可愛い女の子と。
……ストーキングにトーキングーっ!
「行く行く、行くよ! 場所教えて! 今すぐ行く!」
その後真姫ちゃんに「ありがとうね、メグ」って言われながら場所を教えてもらうと、今までの私の話しを立ち聞きしてたらしいママの制止を無理矢理振り切り、「ゴメンママ! 後で説明する!」って言って着替えて家から出た私が次に目に浮かんだのは、雄二の姿だった。
「……深夜に外出ちゃ駄目って言ってたね、そういえば」
必死に真面目に冷静に、雄二にしては真剣に――私に忠告してた。
でも……ゴメンね、雄二。
「女の子の頼みを断る訳にはいけないんだよ、私は」
それに真姫ちゃん……最後、電話先で泣いてたし。
かすれた声で、「ありがとう」って言ってたし。
そんな頼みを断ったら……あんたに申し訳がたたないでしょ。
「ごめん、雄二」
私は電灯の光りが照らす道路を走りながら、雄二に向かって謝った。