第46話:ワイアーム様に執着されていますが私は幸せです
「セーラ、そろそろ帰ろうか。マレディア侯爵、元夫人、侯爵夫人、それにキレイズ侯爵夫人。今日は色々とお世話になりました」
「えっ、もう帰るのですか?」
「そうだよ、もう夜も遅いし、何よりやっとセーラが目覚めたのだ。早く帰って休まないとね」
「分かりましたわ。お母様、お兄様、お義姉様、色々とご心配をおかけしました。アナ叔母様、私の為にわざわざ来てくださり、ありがとうございます」
まさかアナ叔母様までいらっしゃっていただなんてね。
「それじゃあ行こうか」
私を抱きかかえ、歩き出したワイアーム様。本当なら自分で歩かなければいかないのだろうが、ワイアーム様の温もりが心地よくて、自分で歩く気がしない。それにまだ、体にうまく力が入らないのだ。そっとワイアーム様に寄り添った。
皆に見送られながら、馬車に乗り込む。
「セーラ、本当に目覚めてくれてありがとう」
改めてワイアーム様に抱きしめられた。
「私の方こそ、呼び戻してくださりありがとうございました。ワイアーム様でなければ、きっと私の魂を呼び戻すことはできなかったと思いますわ」
龍の血を色濃く受け継ぐワイアーム様だからこそ、きっと私の魂を呼び戻すことが出来たのだろう。
「そう言ってもらえると嬉しいよ。さあ、セーラ。王宮に着いたよ」
ワイアーム様に抱きかかえられながら、馬車を降りていく。すると…
「セーラ嬢、本当に目覚めてくれたのだね」
「本当によかったわ。セーラちゃん、海の神に連れて行かれたとき、命を懸けてワイアームを守ってくれたそうね。本当にありがとう」
「陛下、王妃殿下。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。王妃殿下、助けていただいたのは私の方ですわ。ワイアーム様のお陰で、私は今こうしていられるのです」
「セーラちゃんは謙虚なのね。ついさっき目覚めたばかりと聞いているわ。ごめんなさい、あなたの体の負担を考えたら、王宮に寝かせておくのがベストなのだけど。ワイアームが離さなくてね。さあ、ゆっくり休んで頂戴」
「ワイアーム、お前の格好は何だい?埃まみれじゃないか。とにかく一度、体を綺麗にしないと。セーラ嬢に埃が付いてしまっている」
「父上も母上も、ご心配をおかけしましたが、この通りセーラは目を覚ましましたので。もう夜も遅いですし、僕たちは休みます。おやすみなさい」
そう言うと、ワイアーム様が足早に去っていく。
「ワイアーム様、陛下も王妃殿下も私の事を心配してくださっていたのですよ。あのような態度は…」
「いいのだよ。あの人たちは一度騒ぎ出すとうるさいからね。ただ、僕の埃のせいで、君まで汚れてしまったね。部屋に戻ったら、すぐに湯あみをしよう」
確かに私の体にも、埃が付いている。
部屋に戻ると、すぐにメイドたちが湯あみをしてくれた。そして、再びベッドに寝かされる。まだ体が本調子ではない様で、体が思う様に動かないのだ。
「セーラ、お待たせ。今日は目覚めたばかりで疲れただろう。ゆっくり休もう」
そう言うと、ワイアーム様がギュッと抱きしめてくれた。
「ワイアーム様、私、やっぱりワイアーム様の温もりが一番落ち着きますわ。この温もりがないと、私はどうやら生きていけない様です」
「僕も、セーラの温もりがないと、生きていけないよ。実はね、今日マレディア侯爵家で、唯一地上に戻ってきた女性の夫の手記を見つけたんだ。そこには、一生彼女は目覚める事はなかったと記載されていてね。その手記を読んで、僕は絶望したよ。セーラは二度と、目覚める事はないのだと…」
「ワイアーム様…」
「僕に愛されたばかりに、セーラは地上に戻るため、無理をした。そう思ったら、僕は龍の血が憎くてね。龍の血を色濃く受け継ぎさえしなければ、セーラに執着しなかったかもしれない。そうしたらセーラは、自分の持つ力を使う事もなかったかもしれない。僕のせいで、セーラは…そう考えたら、無性に悲して。セーラの元に向かいたくて、感情を爆発させてしまった」
「そうだったのですね。でも、龍の血のお陰で、私は帰ってこられたのですわ。龍の力は、非常に強く国を滅ぼしてしまうほどだと伺っております。ですが私にとっては、ワイアーム様を感じる事が出来る、温かくて落ち着く力なのです。ワイアーム様、どうかこれらは、この国をよくするために力をお使いください。もちろん、私も傍にいて支えますわ」
「この国をよくするために使うか…正直僕は、セーラがいてくれたらこの国なんてどうでもいいのだが、セーラがそう言うのなら、そうするよ。セーラ、これからも僕の傍に、いてくれるかい?」
「ええ、もちろんですわ」
~1年後~
「セーラ、また勝手に部屋から出て。ダメだろう」
「あら、今日はワイアーム様の公務に付き添う日でしたので、ワイアーム様をお迎えに上がろうと思っただけですわ」
「迎えに上がらなくてもいい!さあ、行こうか。今日は王都の街の視察だ。もちろん、海には近づかないから、安心してくれ」
「もう、ワイアーム様ったら。私はもう、何の力もありませんよ。それにあの歌も、歌えなくなってしまいましたし」
私の意識が戻ってから、早1年。すっかり元気になった。相変わらず私にベッタリのワイアーム様は、どんな時でも私を傍に置いている。もちろん、視察も一緒だ。
ちなみにあの日以降、私はあの歌を歌えなくなってしまったのだ。というよりも、どんな歌だかったのか、全く思い出せない。きっと私の持っていた力は、完全に消滅してしまったのだろう。
でも、それならその方がいい。もしあの歌を歌って、万が一キース様を呼び出してしまったら大変だものね。それでも心配性のワイアーム様は、絶対に私を海には近づかせない。
それどころか、部屋から1人で出る事を禁止しているくらいだ。結局私は、未だに侯爵家に帰れずにいる。そして半年後には、正式にワイアーム様と結婚する事も決まっている。
「たとえ歌えなくても、海は危険だからね。それから、街も危険だ。万が一悪い奴に襲われたら大変だから、僕が抱っこしていくよ」
「さすがに抱っこは良くないですわ。ワイアーム様の傍にずっとおりますので」
そう伝え、そっと彼に寄り添った。温かくて大きな胸板。この温もりが落ち着く。きっとこのまま私は、ワイアーム様の厳しい監視の中、一生暮らすのだろう。中には私の事を、自由のない可哀そうな方と思う人もいるだろう。でも私は、執着心の強いワイアーム様もひっくるめて、大好きなのだ。
もしかしたら愛に生きたネリーヌの血を、色濃く受け継いでいるせいかもしれない。そう思っている。
これからもずっと、ワイアーム様に囚われながら生きていきたい。永遠に…
おしまい
これにて完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




