第40話:セーラのお陰で戻って来られた~ワイアーム視点~
「ワイアーム、起きなさい。ワイアーム!」
誰かが僕を揺すっている。セーラか?僕の愛するセーラが、僕を起こそうとしているのか?
「セーラ?」
ゆっくり瞼を上げると、そこには今にも泣きそうな顔の父上と、目を真っ赤にはらした母上の姿が。後ろには執事や護衛たちが、心配そうにこちらを見つめていた。
あれ?僕、どうしたのだったかな?確かセーラがあの男に連れ去られて、それであの男と戦っていたのだが…あの男にやられて、それで…
「よかった、目が覚めたのね。本当によかったわ」
ゆっくり体を起こすと、母上が抱き着いて来た。
「ここは?」
「ここは王都の海岸よ。あなたとセーラちゃんがここでいなくなったと聞いて、本当に心配したのよ」
僕とセーラが、ここでいなくなった?という事は…
「セーラ!セーラはどこにいるのだ?セーラ」
母上を押しのけ、セーラを必死に探す。すると…
「セーラ!」
同じくマレディア侯爵と元夫人、侯爵夫人が意識のないセーラに必死に呼びかけていた。
「セーラ、なんて事だ!確かあの時…」
確かの時、セーラは僕を抱きしめ、あの歌を歌っていた。きっとセーラが、僕たちを元の世界に戻してくれたのだ。
「セーラ、起きて。僕たち、地上に戻って来られたのだよ。君のお陰だ。ありがとう」
ギュッとセーラを抱きしめた。
「セーラ、目を覚ましてくれ。もうあの男はいないよ。これからはあの男に怯えることなく、ずっと一緒にいられるよ。可哀そうに、砂だらけじゃないか。すぐに王宮に連れて行って、体を綺麗にしてあげないと」
セーラを抱きかかえ、そのまま馬車へと乗り込んだ。まさかセーラに助けられるだなんて。
とにかく、このまま海岸にいるのは良くない。もしかしてまた、あの男がやってくるかもしれない。そんな思いで、急いで王宮に戻った。
「殿下、あなた様も随分と龍の力を使ったのですよね。すぐに治療を…」
「僕の事はいいよ。それよりセーラだ」
「セーラ様は使用人たちが今、対応しております。とにかく治療を。随分と吐血したようですね。服が血だらけですよ」
ふと服を見ると、確かに血が付いていた。あの時僕は、瀕死だったはずだ。でも、今は…
「僕は何ともないよ。きっとセーラが、僕を助けてくれたのだろう。セーラはネリーヌの血を、色濃く受け継いでいるのだろう?きっと治癒の力で、僕を治療してくれたんだ。そのせいで、セーラは…」
意識を失ってしまっている。でもきっと、大丈夫だ。セーラは海から帰って来ると、必ず意識を失う。長いと1ヶ月近く失っていた時もあると聞く。だからきっと、今回も大丈夫だ。
ただ…なぜだろう。この胸騒ぎは…
「確かに殿下の体は異常がないようですね…というよりも、完全に回復しておられます」
いつの間にか治療にあたっていた医者が、驚いている。それほどセーラの力は、絶大だったのだろう。セーラのあの美しい歌声、温かく柔らかな光。まるで女神の様に美しかった。
とにかく、早くセーラの元に向かわないと。
僕も急いで湯あみを済ませ、セーラの元へと向かう。
「セーラ、お待たせ」
そう声をかけたが、やはり意識はない様だ。それでも規則正しい寝息を立てるセーラを見ていると、愛おしくてたまらない。
そっと彼女が眠るベッドに入り込んだ。
「セーラ、僕を助けてくれてありがとう。君のお陰で、地上に戻ってくることが出来たよ。きっと力を使って、疲れてしまったのだね。どうかしばらくは、ゆっくり休んで欲しい。僕はずっと、君の傍にいるからね」
セーラを抱きしめ、おでこに口づけをした。そしてギュッと抱きしめる。温かくて柔らかい。
セーラの温もりを感じているだけで、僕の心は満たされる。セーラの温もりは、僕に安らぎと癒しを与えてくれる。
「セーラ、君に触れていたら、なんだか眠くなってきたよ。今日はあの男のせいで、夜中にたたき起こされたからね。僕も少し休むよ」
セーラの温もりが妙に気持ちよかったのと、あの男との戦いで疲れ切っていた僕は、そのまま眠りについたのだった。




