第39話:開花した力
ワイアーム様が、その場に倒れ込んで動かない。
「ワイアーム様、なんて事を!」
必死にワイアーム様の元に向かおうとするが、壁の様な物が邪魔をして、やはりワイアーム様の元に向かう事が出来ないのだ。
“セーラ、もうあの男はいないよ。さあ、私の元に…”
「触らないで下さい。私はあなたを絶対に許さない!」
キース様を泣きながら睨みつけた。
“セーラ、そんな顔をしないでくれ。あぁ…君はやっぱり、ネリーヌの血を色濃く受け継ぎすぎているのだね…あの子もそうだった。とにかくあの男は、今すぐ地上に返そう”
キース様が何やらワイアーム様に向けて、光を放とうとしている。
「お止めください。もうこれ以上、ワイアーム様を傷つけさせませんわ。ワイアーム様、今あなた様の元に向かいます」
こんな壁に、邪魔されてたまるものですか!
なぜだろう、体中から力がみなぎる。もしかしてこの力が、私の持つ力なのかしら。この力を使えば、壁を壊せそうな気がする。
一気に力をこめ、目いっぱい壁を押した。すると…
パリンと何かが割れる音が聞こえたと思うと、壁が無くなったのだ。
「ワイアーム様、ごめんなさい。私のせいで!」
急いでワイアーム様の元に駆け寄り、彼の頭を自分の膝に乗せた。口からはかなりの血を流している。それでもワイアーム様は、温かい。
すると
「セ…ラ」
赤い瞳と目が合ったのだ。
「ワイアーム様、よかった。生きていらしたのですね。一緒に地上に戻りましょう」
ギュッとワイアーム様を抱きしめた。
“まだ生きていたのか!どれほどしぶとい男なんだ。今度こそ息の根を止めてやる!セーラは私のものだ!”
そうはさせないわ。でも、一体どうすればいいのかしら?このままでは本当にワイアーム様が死んでしまう!
その時だった。
“ネリーヌは治癒力に優れた力を持っていたのだよ”
“セーラ様の歌には、治癒の力がおありなのでしょうか?セーラ様がお歌いになったら、殿下の容態が劇的によくなりました”
お兄様と執事の言葉が、脳裏に浮かんだ。
もしかして…
ワイアーム様をギュッと抱きしめ、そして歌を歌った。
“止めなさい、セーラ。そんな男の為に、君の大切な力を使ってはダメだ。それにそんな事をしても無駄だよ。たとえ地上に戻れても、君はもう、幸せにはなれない!”
キース様が必死に叫んでいる。やはり私は歌を歌う事で、力を発揮するのね。正直私の力がどんな物なのか分からない。でも…
お願い、私の中に眠る力よ。どうかワイアーム様を助けて。そして、私たちを地上に戻して。
“セーラ、止めるんだ。セーラ!”
止めろと言われて止める訳がない。ただ、なぜだろう。歌を歌うと体から生気を吸い取られる様な感覚が…体から力が抜ける。そうか、私はもう…
それでも私は、ワイアーム様を助けたい。彼は何度も私を命がけで守ろうとしてくれた。だから今度は、私の番。
さらに大きな声で歌を歌い続ける。
その時だった。私の体を大きな光が包み込み、そのまま意識を飛ばしたのだった。
※次回、ワイアーム視点です。
よろしくお願いします。




