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全てを捨てて消え去ろうとしたのですが…なぜか殿下に執着されています  作者: Karamimi


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第33話:お兄様から聞いた私の秘密

「セーラ、きみの16歳のお誕生日まで、後1ヶ月を切ったね。マレディア侯爵家の令嬢にとって、16歳の誕生日は非常に重要な意味を持つ事は、君も知っているよね」


「ええ、知っておりますわ。16歳になると、ネリーヌの血を受け継いでいる令嬢たちは、何らかの力が開花する事があるのですよね」


「ああ、そうだよ。ちなみにアナ叔母上は、ほんの少しだけ血が濃かった様だよ。その為、特定の魚とお話しが出来るらしい」


「まあ、アナ叔母様がですか?すごいですわ。お魚とお話しが出来るだなんて。素敵ですわね」


 お魚とお話しが出来るだなんて、考えただけで楽しそうだわ。


「とはいえ、叔母上はそこまで力が強くないそうだから、せいぜい小魚程度としか話が出来ないらしい。それに海の神の1人、キースにも執着される事はなかったそうだ」


「キース?どこかで聞いたことがある様な…」


 “セーラ、私の可愛い子…16歳になったら、迎えに行くからね”


 私の脳内に、一気に流れ込んでくる記憶。


「私、キース様を知っておりますわ。初めてお会いしたのは、確か4歳の時。あの後、何度かお会いして。そしてあの日、私が身投げをしたときも、キース様が助けて下さって…それで…」


「思い出したのだね…そうだよ、君はネリーヌの血を、異常なほど色濃く受け継いでいるのだよ。キースはネリーヌの事を愛していた。でも、ネリーヌは地上で僕たちの先祖、当時のマレディア侯爵と結婚してしまったのだ。地上に出たことで、人間と同じ寿命になってしまったネリーヌは、人間として人生の幕を閉じた。ただ…彼女の血は子孫へと色濃く受け継いでいたのだよ」


 はぁっとため息をつく。


「通常は叔母上の様に、ネリーヌの血を少しだけ受け継いだ娘が生まれるのだが、稀にネリーヌの血を色濃く受け継いだものが生まれる事がある。ネリーヌの血を色濃く受け継いだ娘は、16歳になるとキースに導かれ、海に帰るのだよ。そこでキースと暮らすらしい。ただ、寿命はなぜか海に帰っても人間と同じくらいしかないらしく、次のネリーヌの血を色濃く受け継ぐ娘を、ずっとキースは求め続けているそうだ」


「キース様が?でも、どうして私がネリーヌの血を色濃く受け継ぐ娘という事が分かるのですか?私はまだ、16歳になっておりませんわ」


 そうよ、16歳になっていないし、まだ力が開花していない私が、どうしてネリーヌの血を色濃く受け継いでいるとわかるのかしら?



「それはね、君が16歳になる前から、何度もキースに会っているからだよ。本来ネリーヌの血を少しだけ受け継いでいる者は、16歳の誕生日の日に、キースと話をしてお終いだそうだ。叔母上もそう言っていたから、間違いない。でもセーラは、幼い時から何度もキースに会っているだろう?それが証拠さ」


「そんな…それでは私は、16歳になったら、海に行かないといけないのですか?それでは、ワイアーム様は?ワイアーム様が悲しみますわ。もしも私が海になんて行ったら…」


「きっとワイアーム殿下は、セーラと連れ戻すため、海に向かうだろう。ワイアーム殿下は龍の血を色濃く受け継いでいるとはいえ、海の中では生きられない。それに今、ワイアーム殿下の体は、万全ではない。たとえセーラの元にたどり着けたとしても、海の神の1人でもあるキースに勝てるとは思えない。最悪の場合…」


「ワイアーム様のお命が危ないという事ですね。そんな…お兄様、私、今からキース様に会いに行って参りますわ。そしてキース様に、お願いして参ります。どうか私を、地上で生活させてくださいと。私はワイアーム様のお傍にいたいと!」


 きっとお優しいキース様なら、分かってくれるはずだ。


「セーラ、落ち着け。どうやらセーラが心からワイアーム殿下を愛していれば、キースも手出しできない様だ。だからわざわざ、キースに会いに行く必要はない。それにたとえキースを説得するのが目的だったとしても、あの殿下が海に行く事を許可する訳がないよ」


 お兄様の言う通り、ワイアーム様に海に行きたいだなんて言ったら、また感情が暴走してしまうかもしれない。それにワイアーム様には、キース様の件は黙っておきたい。ただでさえ今、ワイアーム様の心は不安定なのだ。私のせいで、これ以上ワイアーム様の負担になる事だけは避けたい。


「セーラ、そんな顔をしないで。きっと今のあなた達なら大丈夫よ」


 心配そうな私の手を握ってくれるのは、お母様だ。


「ええ…私もそう信じておりますわ。お兄様、今回の件、どうかワイアーム様には黙っていてくださいますか?これ以上ワイアーム様に、いらぬ心配をかけたくはないのです」


 真っすぐお兄様を見つめ、そう伝えたのだが…なぜか苦笑いをしているお兄様。一体どうしたのかしら?

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