第28話:ワイアーム殿下の秘密
「殿下、一体何が起こったのですか?どうして殿下は、何度も吐血しているのですか?」
血を吐くだなんて、相当症状が悪いのだろう。
「お医者様、殿下の容態はどうなのですか?殿下は一体何の病気にかかっているのですか?相当悪い様に見受けられます。すぐにお医者様を集めて、治療を行わないと!それなのに、どうしてみんな、呑気に構えているのですか?殿下は血を吐いているのですよ。万が一殿下の身に何かあったら…」
「セーラ様、落ち着いて下さい。殿下は病気も何でもないのです。ですから、医者にも治療する事が出来ないのです」
「それは一体どういう事ですか?私にわかる様に、説明してください!」
病気でないなら、どうしてあんなに何度も血を吐くの?もしかして、毒でも盛られたとか?
「セーラ、急に走り出して。その上、殿下のお部屋に勝手に入るだなんて。すぐに出ていくぞ」
お兄様が私の腕を掴み、部屋から出て行こうとしている。そんなお兄様を、振り払った。
「放してください。お兄様は、殿下を見ても何も思わないのですか?何度も血を吐いたのですよ。…もしかして、お兄様も知っていたのですか?一体何を隠しているのですか?どうしてみんな、私をのけ者にするのですか?」
きっとお兄様は、殿下の容態を知っていたのだ。それなのに…
気が付くと涙が溢れ出ていた。そんな私の姿を見た執事が、ハァっとため息をついたのだ。
「もうセーラ様に、隠し通すことは難しそうですね。分かりました、全てをお話ししましょう。殿下は龍の力を使いすぎたことで、今の症状が出ているのです。龍の力を酷使するという事は、命を削る行為。その結果、今殿下はかなり衰弱してしまっているのです」
「龍の力を酷使したですって。それはもしかして…」
「ええ、そうです。セーラ様を守るために、殿下は命を削り、クレイジー公爵とレイリス嬢を断罪したのです」
「そんな…でも、殿下はずっと、私を避けていたわ。だから私の事を、愛していないとばかり…」
「それは違います。龍の力を使うためには、怒りや悲しみ、苦しみといった負の感情を爆発させる必要があるのです。セーラ様は殿下にとって、生きる希望。セーラ様といると、殿下は幸せに満ち溢れるのです。その為、あえてセーラ様から距離を取り、負の感情を増大させ龍の力を使っていたのです。決してセーラ様を嫌いだったから、距離を置いていた訳ではありません」
「そんな…それじゃあ殿下は…」
「セーラ、黙っていてごめんね。殿下はずっと、セーラを守るために、たった1人で戦ってくれていたのだよ。クレイジー公爵は想像以上に手ごわかった様でね。結局殿下は、相当無理をなさった様なんだ。その結果、殿下は今、生きるか死ぬかの瀬戸際まで来ているのだよ。殿下はまさに命を懸けて、セーラを守ってくれた。それが真実だ」
「そんな…ワイアーム様、ごめんなさい。あなたがそこまで私の為に、尽くしてくれているとも知らず…私はなんて事を…」
私が苦しんでいた以上に、ワイアーム様は私の何倍、いいや、何十倍も苦しんでいたのね。
「どうして皆様、教えて下さらなかったのですか?知っていたら、私は…」
「ワイアーム殿下が、どうかセーラには黙っていてくれと言われたのだよ。ただでさえ悲しい思いをしたセーラを、これ以上苦しませたくない、そうおっしゃられて…殿下はどこまでも、セーラの事を思って下さっているのだよ」
「そんな…」
「それから、セーラはずっと家から婚約を申し込んだと思っていたけれど、実は殿下から申し込まれたのだよ。殿下は龍の血を色濃く受け継いでいてね。龍は基本的に何に関しても興味をしめなさい。ただ、一度執着すると、恐ろしいほどの執着心を露わにするらしい。セーラは殿下の、運命の相手だったのだよ」
「私が運命の相手?いいえ、そんな事はありませんわ。だって私、そんなにワイアーム様に執着された記憶がありませんわ」
「それはセーラ様に嫌われない様に、必死に理性で感情を抑えていたからです。殿下は龍の血を色濃く受け継いでおりますが、それ以前に人間ですから。ただ、感情を抑えるのは、相当大変だったでしょう。それでもセーラ様に嫌われたくない一心で、必死に紳士を演じていらしたのです。それほどまでに殿下にとってセーラ様は、大切な人なのですよ」
涙ながらに、ワイアーム様の執事が教えてくれた。
私はずっと、ワイアーム様に守られていた…そうとも知らず、私は…
そっとワイアーム様に近づいた。
「ワイアーム様、ごめんなさい。私のせいでこんな事になってしまって。せめて…せめて私にあなた様の看護をさせてくれませんか?そこのあなた、ワイアーム様のお口が血で汚れているわ。拭くからぬれタオルを持ってきて」
「はい、承知いたしました」
龍の力を使う行為が、どれほど辛いものか私は想像もできない。それでも私の為に、こんなにボロボロになるまで力を使って下さるだなんて…
「ワイアーム様、本当にごめんなさい。もう二度と、あなた様から離れたりしませんわ。これからは、ずっと一緒です」




