第26話:王宮に向かいます
クレイジー公爵とレイリス様の裁判から、早1週間。裁判の翌日、早々に刑が執行された2人。クレイジー元公爵夫人は夫と娘を失ったショックから、実家に帰ってしまったそうだ。
レイリス様の取り巻きで、私の悪い噂を流していた貴族令嬢たちも、その後裁判にかけられた。その結果、彼女たちは修道院に送られる事になったのだ。少し気の毒な様な気もするが、レイリス様に取り入るため、かなり私の評判を落とすような事を積極的に話していたらしい。
またクレイジー公爵家を始め、私の悪口を言いふらしていた家からは、多額の慰謝料が支払われた。お兄様は私に渡された慰謝料だから、私が好きに使っていいとおっしゃってくれた。
でも私は、お父様を急に亡くし、若くして侯爵家を継いでくれたお兄様の為に使いたい、そう思い、お兄様に全額お金を渡すことにしたのだ。このお金を元手に、もっとマレディア侯爵家をよくしてほしいと思っている。
「お嬢様、そろそろ王宮に行く時間でございます。既に旦那様がお待ちです」
「ええ、そうだったわね。それにしても、どうしてエメラルドグリーンのドレスなの?今日は、青いドレスを着たかったのに」
私は今日、王宮に呼ばれているのだ。どうやら私とワイアーム殿下の婚約を、再度結び直そうという動きが出ているらしい。その話し合いが行われる事から、王宮に呼ばれているのだ。
ワイアーム殿下…
我が家の為に、あれほどまでの証拠を集め、クレイジー公爵とレイリス様を断罪した殿下。お父様の無念を晴らしてくださった殿下には、感謝している。でも私は、いくらレイリス様の悪事を暴くためだからといっても、ずっと放置されてきたのだ。
正直殿下に愛されている気がしない。
殿下はきっと、自分の婚約者になったせいで、色々と辛い思いをした私に、罪悪感を感じているのだろう。罪滅ぼしをするために、きっとまた私と婚約を結び直そうとしているに違いない。そう私は考えている。
でも私は、同情や罪滅ぼしの為に、殿下と婚約を結び直したくはない。確かに殿下の事は、ずっと好きだった。でも…
“セーラ、僕が必ず守るから。ずっと一緒だよ”
そう言ってほほ笑む殿下の顔が、脳裏に浮かんだ。その瞬間、胸がチクリと痛む。
殿下と婚約を結び、レイリス様が現れるまでは、確かに幸せだった。でも、もうあの頃には戻れない。
とにかく殿下には、私に気を使ってもらわなくてもいいという話をしよう。そう思っている。
そんな思いで部屋を出る。そしてお兄様の待つ玄関へと向かった。
「セーラ、やっと来たね。もう時間がない、早く行こう」
「セーラ、気を付けて行ってくるのよ。殿下にくれぐれもよろしくね」
「セーラちゃん、そのドレス、とても似合っているわ。殿下の色ね。とても素敵よ」
「お母様、お義姉様、行って参ります。それから私は…いいえ、何でもありませんわ」
殿下とは再度婚約を結ぶつもりはない、そう言おうと思ったのだが、やめておいた。なぜかお母様もお義姉様も、私と殿下が再度婚約を結び直すことを望んでいる様なのだ。確かに殿下のお陰で、お父様の無念は晴れた。私の悪い噂も消えた。
でも…
「さあ、セーラ、行こう」
お兄様に促され、馬車に乗り込み王宮を目指す。
「ねえお兄様、お母様とお義姉様は、私と殿下が再度婚約を結び直すことを望んでいる様ですわ。お兄様はどう思っていらっしゃっているのですか?」
ポツリとお兄様に向かって問いかけた。
「そうだね、僕も2人と同じ気持ちだよ。殿下ならセーラを幸せにしてくれる、そう思っているのだよ。それにセーラには、地上でずっと暮らしていて欲しいしね」
「地上でずっと暮らすとは、一体どういう意味ですか?」
「いや、何でもないよ。王宮に着いたみたいだ。行こうか」
またお兄様が、話をそらした。なんだかずっと、何か大切な事を隠されている様な気がする。一体皆、何を隠しているのだろう。
不満を抱きつつ馬車から降りると、穏やかな表情を浮かべた殿下が立っていた。
「セーラ、よく来てくれたね。セーラにはずっと辛い思いをさえてしまって、すまなかった。どうかこれからは…すまない…」
「えっ?殿下?」
何を思ったのか、急に凄いスピードで殿下が走り出したのだ。その姿が、何だか気になる。
急いで殿下を追うが、見失ってしまった。
一体どうしたのだろう…




