第24話:やっとケリがついたけれど…~ワイアーム視点~
マレディア侯爵と話をした後、自室に戻ってきた。
「殿下、本当にセーラ様は領地にいらっしゃるのでしょうか?正直私には信じられなくて…それでもマレディア侯爵殿の口ぶりから、セーラ様は生きていらっしゃることは間違いないでしょう。という事は、領地の海で解放されたという事なのでしょうか?話には聞いておりましたが、遠く離れた領地の海で発見されるだなんて、やはり私には理解しがたいです」
渋い顔をしている執事。話には聞いていたとしても、どうしても理解しきれていない様だ。確かにあまりにも非現実的すぎる話だから、執事の頭が付いていかないのだろう。
「とにかく、セーラ様は生きれおられて、王都に戻っていらっしゃるのです。どうかこの1週間は、ゆっくり過ごしてください。医者から体を回復させる薬も出ております。いくら龍の血が強く、回復力も桁外れといっても、さすがにあれほどの力を使ったのです。すぐは回復する事は難しいですからね」
「ああ、分かっているよ。裁判の日までは、ゆっくりしているつもりだから。少し寝るよ」
「そうして頂けると助かります。それでは私はこれで失礼いたします」
執事が部屋から出ていくのを見送ると、僕もベッドに入り、目を閉じた。
その時だった。
“それでセーラを守ったつもりかい?あの子は私がもらうよ”
この声は…間違いない、海の神の声だ。もしかして、セーラを奪いに行くつもりなのか?でも、セーラが16歳になるまで、手を出せないはず。
とはいえ、セーラ自ら海に身を投げたのだ。もしそのはずみで、海の神が既に手出しできるようになっていたとしたら…
「セーラ…」
いてもたってもいられなくなり、僕は馬車に乗り込み、セーラの領地を目指した。執事にも内緒で出てきたため、後で怒られるかもしれない。でも…もしセーラが海の神に連れて行かれたら…
そう考えると、いてもたってもいられなかったのだ。本来なら早馬で飛ばしたいところだが、生憎僕の体はボロボロで、馬車でないと動けない程弱っていた。
それでも3日かけ、セーラの領地に着いた。そして久しぶりにセーラに再会したのだ。相変わらず海にいたが、それでも元気そうなセーラの顔を見た時、涙が溢れそうになるほど嬉しかった。
それにまだ、セーラは海の神に連れ去られてはいない様だった。本来なら一緒に連れて帰りたい気持ちをぐっと堪え、1人で王都に戻る事にした。ただ、やはり執事には怒られたうえ、長旅で再び体調が悪くなってしまったが、それは仕方がない事だ。
そして迎えた裁判の日当日。
「殿下、顔色が悪いです。薬をお飲みください。本当に殿下は!あれほどゆっくり過ごしてくださいと申し上げたのに、まさかセーラ様に会いに行くだなんて。それにしても、本当にセーラ様が領地にいらっしゃるだなんて、びっくりです。元気そうで何よりでした」
嬉しそうに執事が呟いた。執事の言う通り、セーラが元気そうでよかった。セーラを守るためにも、今日の裁判を成功させないと…
そんな思いで、裁判所に向かった。既にたくさんの貴族が、傍聴席に座っていた。そう、今回の被告は、この国でもかなりの権力者、クレイジー公爵とその娘なのだ。クレイジー公爵が逮捕された時、貴族社会では激震が走り、かなり混乱した。
さらに侯爵以上の貴族には彼らの罪は伝えられているが、それ以外の貴族にはなぜクレイジー公爵が逮捕されたのか知らない。その為、既にあちこちで色々な噂が出回っているのだ。
その真意を確かめるべく、今日は多くの貴族が集まっている。
しばらくすると、セーラがマレディア侯爵と一緒に入って来た。セーラを見た傍聴席は、一斉にどよめきが沸き上がる。セーラは2ヶ月前、海に身を投げたのだ。既にセーラはもう生きていないと言われていた事もあり、かなり皆驚いている様だ。
ただ、当のセーラは皆が驚いている事に気が付いていない様だ。というよりも、初めて見る裁判所の風景に、戸惑っているように見える。
そしていよいよ、裁判スタートだ。僕は今まで集めてきた証拠の数々を提示し、丁寧に説明した。あまり長時間話をすると、吐血してしまう恐れがある。一応薬は飲んでいるが、それでも気を使いながら説明を続けた。
僕の調べ上げた証拠の数々と、クレイジー公爵が行って来たあまりにも非道な行いは、傍聴席の貴族たちをも震撼させた。完全に貴族たちを味方に付ける事に成功した結果、2人の極刑が決まった。
ただ、判決に不服を述べたのは、クレイジー公爵とレイリスだ。あろう事か、僕とレイリスは愛し合っていたという、ふざけたことを抜かすものだから、つい怒りが爆発してしまうというトラブルがあったが、それでもなんとか裁判は終わったのだった。
裁判終了後。
「ワイアーム、よくあそこまで調べ上げたな。ただ、そのせいでお前の体がボロボロだ。しばらくは治療に専念しなさい。それから、セーラ嬢との再度婚約を結び直す件も進めないとな」
「ワイアーム、この8ヶ月、本当に辛く苦しい時間をよく耐えたわね。あなたは私の自慢の息子よ。きっとワイアームの努力と苦しみを、セーラちゃんも分かってくれると思うわ。だってあなたは、セーラちゃんの為に命をも削って、クレイジー公爵とレイリス嬢の悪事を暴いたのですもの」
涙を流しながら僕を抱きしめる母上。両親にも、今回の件では随分と協力してもらった。僕のする事に反対する事もなく、好きな様にさせてくれた両親には、感謝しかない。
そして翌日、クレイジー公爵とレイリス嬢の刑は執行された。
「殿下、クレイジー公爵とレイリス嬢もいなくなった事ですし、もうセーラ様を脅かすものはいなくなりましたね」
セーラを脅かすものはいなくなった…確かにそうなのだが…でも、セーラを狙う最強の敵がまだ残っている。
そう、海の神だ。セーラの16歳の誕生日まで、あと4ヶ月。それまでに、何とかしないと。
※長くなりましたが、次回からセーラ視点に戻ります。
よろしくお願いします。




