第21話:もう悠長な事は言っていられない~ワイアーム視点~
それからと言うもの、僕は極力レイリスと過ごすことにした。あの女のもつ、何とも言えないオーラが嫌でたまらない。それでもあの女の尻尾を掴むために、必死であの女の傍にいた。
嫌いな女と過ごさなければいけないうえ、愛するセーラに触れられない苦しみは、予想以上だった。ただ皮肉な事に、僕の苦しみが増せば増すほど、龍の力が湧いてくるのだ。
だがあの女は、相当用心深い様で、いつも心を無にしているのだ。たまに心が読めたとしても、どうでもいい情報ばかり。クソ、早く決着をつけたいのに。
僕の焦りとは裏腹に、全く進展がないのに、なぜかセーラの評判が下がっていく。どうしてだ?あの女は常に僕といるのに、どうやってセーラの評判を下げているのだ?
どこまでずる賢い女なんだ。このままではいけない。他に手を打たないと。
僕に焦りが見え始めた時だった。なんとセーラの父、マレディア侯爵が事故に遭い、命を落としたのだ。さらにマレディア侯爵の事故のショックで、夫人まで倒れてしまった。
父親を亡くし、母親まで正気を失ったセーラの悲しみはかなり大きかった。本来なら、僕が傍にいてセーラを支えたい。でも…きっとクレイジー公爵がマレディア侯爵を事故に見せかけて、殺したに決まっている。
セーラの為にも、必ず敵を討たないと!
もう悠長な事は言っていられない。僕は禁断の龍の力を使う事にしたのだ。そう、相手の過去を見る力だ。その力を使えば、クレイジー公爵がどうやってマレディア侯爵を死に追いやったのかもわかる。重要な機密資料もありかも、雇った人間たちも全て分かるのだ。
ただ、過去を見る能力は、かなり体への負担がかかるため、少しずつしか出来ないのだ。早速クレイジー公爵やレイリスの過去を、龍の力を使って暴く事にした。
だが想像以上に体への負担が大きく、少し力を使っただけで、物凄い疲労感が出るのだ。
「殿下、いくらセーラ様のためとはいえ、殿下へのお体の負担が大きすぎます。どうかご自分のお体を、大切にしてください」
執事にそう訴えられたのだ。
でも僕は…
「セーラの父親が殺されたのだ。今度は直接セーラに毒牙が及ぶかもしれない。それに自分の体の事は、僕が一番分かっているよ。無理をしない程度に、使うから」
確かに疲労感は半端ないが、1日休めば、どうってことはない。1日何回も力を使わなければ、問題ないのだ。
だが、少しずつ力を使い、証拠を集め出した時、再び悲劇が起きた。
「殿下、セーラ様が海に向かったもようです」
「何だって?セーラが海に?」
セーラが海に向かうだなんて…どうしよう、セーラが心配だ。でも、今セーラに会いに行ったら、僕が今まで貯め込んでいた負の感情が吹き飛んでしまうが…なんだか嫌な予感がする。
その時、海の神が言っていた言葉を思い出す。
“君にセーラを守れるかどうか、お手並み拝見といこう。まあ、せいぜい頑張りなさい”
「セーラ…まずい!」
僕は馬にまたがり、海を目指す。まずい、セーラ…行くな!あの男の元になんて、行かないでくれ。
なぜだか分からないが、セーラがあの男の元に行こうとしている様な気がしたのだ。祈る様な気持ちで海へと向かう。
海に着くと、いた!セーラだ。崖の上にいるセーラを見つけた。よかった、まだ無事の様だ。
急いで崖へと向かう。崖に着いた。やっとセーラに触れられる…半年近くセーラに触れていなかった僕は、一気に感情が溢れ出すのを感じた。
でも、セーラは僕の目の前で、海に身を投げてしまったのだ。
「セーラ、行くな!」
必死に叫び、手を伸ばしたが、あと一歩のところで、セーラを掴むことが出来なかった。僕もセーラの後を追い、海に飛び込んだ。頼む、間に合ってくれ。
そんな思いで必死に手を伸ばすが…
セーラに届く寸前のところで、光に包まれたセーラは僕の目の前で消えたのだ。
そう、あの男にセーラを連れさられてしまったのだ…
何てことだ…僕がクレイジー公爵とレイリスにてこずっている間に、セーラは絶望し、身を投げたのだ。
僕は一体、何をやっていたのだろう。一番守りたいセーラを、目の前で失うだなんて…
悔しくて悲しくて、陸に上がると同時に、声を上げて泣いた。僕の感情が爆発したことで、みるみる分厚い雲が広がり、激しい雷が鳴り響く。あちこちで竜巻が巻き上がり、民家を襲い始めたのだ。
「殿下、落ち着いて下さい。とにかく鎮静剤を」
執事に鎮静剤を打たれた僕は、悲しみと絶望からか、深い眠りについた。