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第19話:お前がセーラを…~ワイアーム視点~

「セーラは海が好きなのかい?」


 いつも以上に嬉しそうにしているセーラに、声をかけた。正直僕としては、面白くはない。


「ええ、大好きですわ。真っ青な海の色は、私の色ですから」


 そう言ってほほ笑むセーラ。


「セーラの色?」


「そうですわ。私は髪も瞳も青いでしょう?だから海は、私と同じ色なのです。お父様も、私と同じ色の海が、大好きだとおっしゃってくれていますし。ですが、なぜかお父様は私が海に行く事を、あまり良く思っていないのです。それでもなんとかお願いして、月に1回だけ海に行く事を許可してもらったのです」


 なるほど、それで海に毎日の様に足を運んでいたのに、中々セーラに会えなかったのだな。


「確かに海はセーラの色だね。でも、セーラは人間だ。だからこの地で、生活をしないといけないのだよ」


 君がどんなに海が好きでも、君は海では暮らせない。そんな思いでセーラに伝えた。


「まあ、ワイアーム様ったら。海で生活できない事くらい、私も知っておりますわ。人間は海の中では生きられませんから」


 そう言って声を上げて笑ったのだ。その顔がまた可愛くて、感情が抑えきれずにサーラを抱きしめた。


「ごめんね、セーラがあまりにも可愛くて。セーラ、どうかずっと僕の傍にいて欲しい。僕は君がいれば…いいや、何でもないよ」


 本当は君がいれば何もいらない、そうセーラに伝えたい。でも、そんな重い言葉を伝えたら、セーラが引いてしまうかもしれない。とにかく僕は、セーラに嫌われたくはないのだ。


「もちろん、私はずっとワイアーム様の傍にいますわ。さあ、海に着きましたよ。行きましょう」


 セーラ自ら僕の手を握り、馬車から降りた。セーラから手を握ってくれるだなんて、こんなに幸せな事はない。セーラがいてくれるだけで僕は、人間らしい感情を持つことが出来るのだ。セーラは僕の全てなのだ。


 セーラと一緒に、海の近くまでやって来た。この海に、セーラを狙う海の神がいるのか。そう思うと、急に海が憎らしくなってきた。


 その時だった。セーラがあの歌を歌い出したのだ。透き通った美しい歌声…この歌声を聞くと、心が穏やかになる。ただ…


 何だ?この嫌な感じは…来る、何か大きなものが、こっちに!


「セーラ、危ない」


 一気にセーラ向って、何かが襲い掛かって来たのだ。そのまま海の中へと攫われていくセーラ。そうか、海の神がセーラを連れに来たのだな。定期的にセーラを連れて行くと、侯爵が行っていた。


 セーラを連れて行かれてたまるか!ギュッとセーラを抱きしめる。ただ…息が続かない。このままでは、僕も…


 いいや、セーラを連れ去られるくらいなら、このまま海の底に沈んだ方がいい。そう思った時だった。一気に体ごと光に包まれた。そして僕は、セーラを抱きしめたまま意識を失ったのだった。


「う…ん、ここは?そうだ、セーラ。セーラは…」


 セーラは僕の腕の中で、スヤスヤと眠っていた。よかった、セーラも無事だった様だ。ただ、ここは海の中か?どうして息が出来るのだろう…


 セーラを抱きしめながら、辺りを見渡すと


 “もう目覚めたのか。さすが龍の子だな。まさかここまで一緒についてくるだなんて”


 目の前に現れたのは、金色の髪を腰まで伸ばした男だ。


「お前がセーラに好意を抱いている海の神か?セーラは渡さない、セーラは僕のものだ」


 ギュッとセーラを抱きしめた。海の神だろうが誰だろうが、セーラを渡してたまるか!一気に怒りがこみ上げてきた。


 “落ち着け、こんなところで、龍の力を爆発されてはたまらない。それから、誤解している様だから教えてやろう。セーラは、いいや…ネリーヌは元々海の子だ。その子孫も、海の子たちなのだ。だから海で生活する事が、彼らの幸せでもある。ただ、人間の血が入ってしまったため、ネリーヌの血を色濃く受け継いだ娘しか、海に帰る事が出来ない。セーラは、ネリーヌの血を色濃く受け継いでいる。それでも16歳になるまでは、海に帰る事が出来ないがな”


「セーラは人間だ。海神ネプチューンの娘の血を受け継いでいるからと言って、海での生活を望んでいる訳ではない。セーラはずっと、僕と一緒にいるのだよ!お前なんかに、渡さないから!」


 “はぁ…セーラは龍の子の運命の相手だったか…龍の子は執着した相手を、決して離さないと聞く。ただ…私もセーラを愛している。セーラは私の愛した、ネリーヌに瓜二つ。セーラはネリーヌの生まれ変わりなのだよ。たとえ龍の子が相手でも、私は譲るつもりはない”


 何がネリーヌの生まれ変わりよ。結局この男は、ネプチューンの娘を愛しているだけじゃないか。こんな男に、絶対にセーラを渡さない。


「あなたが海の神か何か知らないが、絶対にセーラは渡さない。セーラを奪われたら僕は…」


 “君が地上で大暴れしようが、私の知った事ではない。ただ、この子は海の子だ。セーラは時期がこれば、海で生活するしか選択肢がなくなる。それがネリーヌの血を色濃く受け継ぐ娘の定めなのだよ。まあ、それまでは君にセーラを貸してあげよう”


「うるさい!何がセーラは海の子だ!何がセーラを貸してあげよう!だ。セーラは人間だと言っているだろう。絶対に貴様には渡さないからな。セーラを幸せにするのは僕だ。僕が命に代えても、セーラを幸せにして見せる!」


 “ほう、それは見ものだな…君にセーラを守れるかどうか、お手並み拝見といこう。まあ、せいぜい頑張りなさい。とはいえ、セーラは必ず私の元にやって来る運命。今回は君と話が出来てよかった。もうそろそろ時間だ。セーラ、今度はゆっくりと話をしよう。それじゃあ”


 男が手を振った瞬間、再び光に包まれたのだった。

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