第17話:セーラは誰にも渡さない~ワイアーム視点~
「要するに、僕の可愛いセーラを奪おうとしている、不届き者がいるという事ですね?」
セーラは僕のものだ。海の神だろうが山の神だろうが、誰にも渡さない!僕のセーラを奪おうとするやつは、誰であろうと許さない!今まで感じた事のない怒りが、ふつふつと沸き上がる。
「ワイアーム、落ち着いてくれ。大変だ、ワイアームの瞳が赤色に変わっている。すぐに鎮静剤を」
鎮静剤だって?ここで気絶する訳にはいかない。ゆっくり深呼吸をして、自分を落ち着かせた。
「これが…伝説の龍の血を色濃く受けついだ殿下のお力…なんてパワーだ…」
目を見開き、固まっているマレディア侯爵。
「驚かせてしまってすまない、マレディア侯爵。ご覧の通り、ワイアームは興奮すると、龍の力が溢れ出すのだよ。銀色の毛は逆立ち、本来持っている龍の瞳の色でもある赤色に変化する。これでもまだ、本来の力の5%も出していないとの事だから、驚きだ…」
「そうなのですね…殿下のお力は、想像を絶する様ですね。とはいえ、相手は神です。16歳になると、嫌でもセーラは海の神の元に連れて行かれます。その事が分かっていながら、さすがに殿下の婚約者にする訳にはいかないのです」
「なるほど。マレディア侯爵、その海の神からセーラ嬢を守る術はないのかい?」
「ネリーヌの血を色濃く受け継いでいる娘は、16歳になると導かれるようにして、海に向かい歌を歌うそうです。何人もの護衛が止めようとしても、決して止める事が出来ないのだそうです。きっと海の神の力が働いているのでしょう。
ただ、先祖が残した手記によると、1度だけ、本当に愛するものを見つけた女性だけは、16歳になっても、地上で生活し続けたとの事です」
「なるほど。だが、ワイアームもこの世界をかつて支配していた最強の生物、龍の血を色濃く受け継いでいる。もしかしたらワイアームになら、海の神からセーラ嬢を守る事が出来るかもしれない」
「ですが陛下、万が一海の神の怒りにふれ、戦争などとなったら…」
「そうなったらそうなったまでだな。どのみちセーラ嬢とワイアームを婚約させなければ、怒り狂ったワイアームにこの国は滅ぼされてしまうだろう。ワイアームには、それだけの力がある。私は息子に、その様な愚かな事はさせたくはない。侯爵、どうかセーラ嬢とワイアームを婚約させてもらえないか?」
「マレディア侯爵、僕はセーラの為なら、この身を捧げても構いません。絶対に僕が、海の神からセーラを守ります!この命に代えても。ですからどうか、セーラと僕を婚約させてください。お願いします」
僕も必死に侯爵に頭を下げた。
すると…
「承知いたしました。陛下や王太子殿下に頭を下げられては、これ以上私が突っぱねる事は出来ません。セーラとの婚約、よろしくお願いします」
よかった、これでセーラは僕のものだ。
「ただ、1つお願いがあります。どうか今回の婚約の件、我が家からの強い要望と言う事にして下さいませんか?」
「それは一体、どういう事だい?」
「先ほどお話しさせていただいた通り、セーラが16歳までにワイアーム殿下を深く愛すれば、海の神は手出し出来ないはずです。我が家から申し込んだと言えば、少しはセーラも、ワイアーム殿に寄り添おうをするはずです。あの子はそういう子ですので」
「よくわからないが、侯爵がそう言うのなら、そうしよう」
確かによくわからないが、セーラと婚約が出来るなら、僕は何でもいいや。
「それじゃあ、早速婚約の話を進めよう」
「では私は、セーラをここに連れて参ります」
「お待ちください、僕達がセーラを迎えに行きます」
一刻も早く、セーラに会いたい。これ以上は待てない。そんな思いで席を立つと、足早に部屋から出た。セーラ…彼女はどの部屋にいるのだろう。
その時だった、あの歌が聞こえてきたのだ。セーラはこっちだ!
「殿下、お待ちください」
後ろで執事の声が聞こえるが、今はそれどころではない。早く会いたい!セーラに触れたい。この部屋だな。
高まる感情を必死に抑え、ノックをして部屋に入る。
僕が急に部屋に入って来たからか、美しい青い瞳を大きく見開き、こちらを見つめているセーラ。その姿を見た瞬間、体中から血が沸き上がる様な興奮を覚えた。
真っすぐ彼女に近づくと、スッと手を握った。本当は思いっきり抱きしめたい、でもそんな事をしたら、嫌われるかもしれない、そう思い、必死に耐えたのだ。
「初めまして、僕はこの国の王太子、ワイアーム・ディア・サレイズです。今日正式に僕の婚約者になる事が決まったから、よろしくね」
にっこり微笑み、セーラに話しかけた。すると…
「わざわざ私の元に来てくださり、ありがとうございます。セーラ・マレディアです。私が殿下と婚約をですか?あの、それは本当なのでしょうか?」
「ああ、本当だよ。君は今日から僕の婚約者だ」
「承知いたしました。あなた様にふさわしい令嬢になれる様に、頑張ります。どうかよろしくお願いします」
少し恥ずかしそうに僕にほほえんでくれたセーラの姿を見たら、感情が溢れ出す。
「セーラ、君は何も頑張らなくていいのだよ…僕の傍にいてくれたら、それだけでいい…」
ゆっくりとセーラを抱きしめた。柔らかくて温かい、それに物凄くいい匂いがする。何なんだ、この気持ちは。もう無理だ、セーラを離したくない。このまま僕の部屋に連れて行って…