第16話:セーラの秘密~ワイアーム視点~
翌日、朝早く起きた僕は、じっとしていられず、朝から汗を流した。体を動かしていると、少しだけ心が落ち着くのだ。
今日は夢にまで見たセーラに会える日。セーラは何が好きなのだろう?よくわからないが、セーラの為に沢山のお菓子を準備させた。使用人や母上が奇麗だという花も準備した。セーラ、喜んでくれるかな?
早く来ないかな?
その時だった。
「殿下、マレディア侯爵とセーラ様がお見えになられました」
「分かった、すぐに行くよ」
やっとセーラに会える!早く会いたい一心で、急いでセーラたちが待つ部屋へと急いだのだが、待っていたのは侯爵だけだった。
「マレディア侯爵殿、セーラ…嬢は一緒ではないのですか?」
溢れそうになる感情を必死に抑え、侯爵に語り掛ける。
「ワイアーム殿下、お久しぶりでございます。セーラは王宮には一緒に来ているのですが、今は別室で待機しております」
「どうしてセーラは、一緒ではないのですか?僕はセーラに会いたいのに…」
そう、僕はセーラに会うのを楽しみにしていたのだ。正直侯爵になんて、用はない。
「侯爵にはセーラ嬢にはどうしても知られたくない話がある様で、それで急遽、セーラ嬢には別室で待機してもらう事にしたのだよ。それでは、まずはワイアームの運命の相手が、本当にセーラ嬢なのか確認をさせてもらう事にしよう」
父上の言葉で、使用人がモニターを持ってきたのだ。そして映像が映し出される。そこには、イスにちょこんと座っているセーラの姿が。
「ワイアーム、彼女がセーラ嬢…」
「セーラ…なんて可愛いのだ。僕のセーラ…会いたい!父上、セーラはどこの部屋にいるのですか?可哀そうに、一人ぼっちで寂しそうだ。すぐに僕が行ってあげないと!」
セーラの可愛い顔を見たら、居てもたってもいられなくなってしまったのだ。
「ワイアーム、落ち着きなさい。とにかくまずは、ワイアームとセーラ嬢の婚約の話をお願いしないといけないだろう?マレディア侯爵、見ての通り、どうやらセーラ嬢は、ワイアームの運命の相手だった様だ。ワイアームは龍の血を色濃く受け継いでいる為、一度相手に執着すると、何が何でも手に入れ手放さない習性があるのだよ…君も侯爵なら、分かってくれるだろう?」
「王家の方たちが龍の末裔だという事も、ワイアーム殿下が龍の血を色濃く受け継いでいらっしゃる事も存じ上げております。ただ、まさかセーラがワイアーム殿下の運命の相手だったとは…」
「父上からも話があったように、僕はもう、セーラなしでは生きていけない。セーラの為なら、この命をなげうっても構いません。どうか僕とセーラを婚約させてください」
そして一刻も早く、セーラに会わせてください!そんな思いで、マレディア侯爵に訴えた。
「マレディア侯爵、どうか王家を助けると思って、セーラ嬢とワイアームを婚約させてはくれないだろうか?もちろん、君の家の事情も承知の上だ。でも、このままではワイアームは、何をしでかすか分からないのだよ」
父上が必死にマレディア侯爵に訴えている。侯爵はというと、困った顔で考え込んでいる。
「マレディア侯爵、僕からもお願いします。僕はセーラがいないと、生きていけないのです。もし受け入れていただけない様でしたら…」
「落ち着いて下さい、殿下。私どもも、殿下の気持ちを汲みたいと思っております。ですが、そうもいかない事情がありまして…」
「事情とは?」
「我が家は、海神ポセイドンの末裔と言う事は、陛下も殿下もご存じですよね。もう少し詳しくお話をしますと、その昔、我がご先祖が、海神ポセイドンの娘、ネリーヌを助けたことがあったのです。ネリーヌは当時のマレディア侯爵に恋をし、どうしてもマレディア侯爵の元に嫁ぎたいと、父のポセイドンに話しをしたのです。
もしマレディア侯爵と結婚できないのなら、この命を絶つとまで言ったネリーヌに折れたポセイドンは、地上に上がり結婚する事を認めたのです。ただ…」
「ただ…どうしたのだ?」
「はい、実はネリーヌには幼馴染がおりました。それが海の守り神の1人、キースと言う男です。キースはネリーヌを深く愛していた様で、彼女を取り戻そうと地上までやってきた程…そんなキースをなだめるために、ネリーヌは
“私によく似た子孫をあなたに差し上げるから、どうか怒りをおさめてください”
そうキースと約束したのです。その結果、数百年に1度、ポセイドンの娘の血を色濃く受け継ぐ娘が生まれる様になりました。
ポセイドンの娘の血を色濃く受け継ぐ子は、幼い頃にネリーヌが歌っていた歌を口ずさむのです。その歌に釣られ、キースが娘を迎えに来る。何度もキースと交流を深めていき、そして16歳の誕生日を迎えると、キースの元に嫁ぎ、海の中で彼と共に生涯を終えるのです。
もちろん、先祖たちも大切な娘を海の神に取られてなるものかと、必死に阻止しようとするのですが、海の神の力は絶大で…
前置きが長くなりましたが、セーラはどうやら、ネリーヌの血を色濃く受け継いでいる様で、既に今まで、3度ほど海の神、キースに連れ去られました。ただ、まだ幼いセーラは、海に適応できるだけの力はないため、大体1週間~10日程度で返してもらえるのです。
そして戻ってきたセーラは、なぜかその時の記憶が残っていない。セーラを守るために、キースの事をセーラに話そうとするのですが、なぜか話すことが出来ないのです。
ご先祖様の残した手記には、16歳になる1ヶ月前に初めて真実を話すことが出来たと記載されておりましたので、きっとセーラに真実を話せるのも、16歳になる1ヶ月前しか無理なのでしょう。
正直私は、娘をキースに取られたくはありません。あの子は人間として、この世に生を受けたのです。普通の令嬢と同じように、この地上で生涯を送って欲しいのです」
涙ながらに訴えるマレディア侯爵。まさかセーラに、そんな秘密が隠されていただなんて。
それよりも…