第14話:運命の出会い~ワイアーム視点~
「殿下、今日の視察は海に行きましょう」
ある日執事に連れられ、海に行く事になった。特に問題がある訳ではないが、色々と見て回る事は大切な事らしい。正直僕は、山も海も興味がない。
とはいえ、行けと言われれば行くしかない。そんな思いで、馬車に乗り込んだ。ちなみに僕の婚約者選びも、順調に進んでいるらしい。僕はきっと、婚約者を愛する事など出来ないだろう。だからせめて、選ばれた婚約者には好きにさせてあげようと思っている。
「殿下、見て下さい。海が見えてきましたよ。太陽の光に照らされて、本当に綺麗ですね」
執事が指さす先には、海が広がっていた。何が奇麗なのか、僕にはさっぱりわからない。青い水が広がっているだけだろう。
「殿下、到着しましたよ。さあ、参りましょう」
執事に促され、馬車から降りた時だった。
この世のものとは思えないような、美しい歌声が聞こえてきたのだ。なん何だこの歌声は…今まで感じた事のない、体中から湧き上がる興奮を覚える。どこから聞こえてくるのだ?この歌声の正体が知りたい!そんな思いで走り出したのだ。
「殿下、どこに行かれるのですか?」
どこだ?どこから聞こえてくるのだ?聞けば聞くほど、美しい音色だ。
きっとあの奥からだ!
声のする方に向かって必死に走る。するとそこにいたのは…
僕と同じくらいの少女が、海に向かって歌っていたのだ。太陽の光のせいで、髪色などは分からないが、彼女の姿を見た瞬間、今までに感じた事のない感情が溢れ出す。
「なんて美しい女性なんだ…欲しい…あの子が欲しい!」
「殿下!落ち着いて下さい」
「欲しい…あの子が…」
「殿下!!」
一気に感情が爆発したことから、僕はそのまま意識を飛ばしてしまったのだった。
次に気が付いたのは、ベッドの上だった。
「殿下、気が付かれたのですね。すぐに陛下と王妃殿下をお呼びしろ。殿下が目覚められたと」
目に涙を浮かべた執事が、使用人に叫んでいる。僕は一体、どうしたのだろう…
そうだ!あの女の子!
「ねえ、あの子は?僕は今すぐあの女の子の元に行きたい!あの子は僕のものだ!あの子は誰にも渡さない。僕だけの」
あの女の子の事を思い出すと、一気に感情が溢れ出す。あの子が欲しい、あの子は僕のものだ!
「ワイアーム、目が覚めたのだな。よかった…て、どうしたのだい?落ち着きなさい」
「ワイアーム、瞳が赤くなっているわ。あなた、一体どうなっているの?」
父上と母上が、僕の元にやって来たのだ。でも、今はそんな事、どうでもいい。早くあの子に会いたいのだ!
「陛下、王妃殿下。どうやらワイアーム殿下は、運命の女性を見つけられた様です。今まで封印されていた感情が一気に爆発したことで、感情をコントロールできずに、気絶してしまった模様です」
「何だと?相手は一体誰なのだい?」
「それが、逆光になっていて、私には誰だったのか…あのような海にいらっしゃる方でしたので、近くに住む平民の可能性もあります」
「平民ですって?さすがに平民は無理よ。貴族たちが認めないわ」
「貴族たちに認めてもらえなくてもいい…あの子がいい、あの子でないと僕は…」
会いたい!会いたくてたまらない。体中から湧き上がる感情が溢れだす。
「まずい、ワイアームの中で今まで眠っていた龍の力が、一気にあふれ出そうとしている。すぐに鎮静剤を打ってくれ!」
「かしこまりました。殿下、失礼いたします」
近くに控えてきた医者に注射を打たれると、一気に眠くなり、そのまま眠ってしまった。
ただ、今回はすぐに目を覚ました。僕が目覚めたと同時に、父上と母上、さらに家臣たちもやって来た。
「ワイアーム、目が覚めたのだな。お前は運命の相手を見つけてしまった様だ。運命の相手を見つけてしまった今、たとえその相手が平民であろうと、お前の感情は決して止められない。もし私たちが止めようとすれば、きっとワイアームは私達を殺してでも、その相手と一緒になろうとするだろう。龍とはそう言うものだ…」
はぁっとため息をつきながら話す父上。
さらに
「それでね、あなたが見たという女性を捜索する事にしたの。ただ、情報が少なすぎて…とにかく、その女性を見つけるのが専決でしょう?」
「もし平民だったら、その時は彼女をどこかの貴族の養子にして、ワイアームと結婚させる事にしようと考えている。ただ、その養子先が見つかるかどうか…」
「あなた、今はそんな事を考えている場合ではないでしょう?とにかく、ワイアームの運命の相手を見つけ出さないと」
「そうだな、ワイアーム、お前は今まで抑えていた感情が今、爆発したところだ。感情を抑える訓練をしていないお前には、一刻も早く相手の女性を見つけ出す必要がある。ただ、お前は人間だ。いくら龍の血を色濃く受け継いだとしても、人間としての理性も持っている。いいか?今はまだ目覚めたばかりだから仕方がないが、今後は自分の感情を抑える訓練も行っていく必要がある。運命の相手とずっと一緒にいたいのなら、これだけは約束して欲しい」
父上が僕の目を真っすぐ見ながら、そう呟いたのだ。
「僕はあの子と一緒にいられるなら、何でもする。だから早く、あの子に会わせてほしい」
会いたい、会いたくてたまらない。触れたい、あの子と話したい。ダメだ、あの子の事を考えるだけで、胸が張り裂けそうになる。
あの子は今、どこにいるのだろう…