第12話:ワイアーム殿下の逆鱗に触れた様です
クレイジー公爵とレイリス様の極刑が決まった。でも…2人が裁かれても、お父様はもう二度と戻って来ない。そもそも私が、ワイアーム殿下の婚約者になんてならなければ、お父様は死ななくて済んだのに…
2人の処罰が決まっても、私の心が晴れる事はない。
「セーラ、大丈夫かい?君は事実を知らないまま、出廷したのだから、ショックも大きいだろう。それでも殿下のお陰で、父上の無念は晴れたのだから、殿下には感謝をしないといけないね」
お兄様の言う通り、ワイアーム殿下のお陰で、彼らの罪が明るみになった。私の名誉も回復したのだ。その件に関しては、殿下にお礼を言わないといけない。
でも今は…残酷な現実をまだ、受け入れられずにいる。
その時だった。
「裁判長、確かに私は罪を犯しました。兄夫婦だけでなく、マレディア侯爵にまで手をかけたのです。罪もない人間の命を奪ってしまった私は、極刑が妥当でしょう。ですが、娘は…レイリスは誰も殺していません。それなのに、極刑と言うのは、いささか罪が重すぎるのではありませんか?」
ここにきて、クレイジー公爵が、レイリス様の判決に不満を漏らしたのだ。確かにレイリス様は、誰も殺していない。
「お父様の言う通り、私は誰の命も奪っておりませんわ。確かにセーラ様に関するよくないお話しはしましたが…ですがその噂を広めたのは、あそこにいる令嬢たちですわ。私を罪に問うなら、あそこにいらっしゃる令嬢たちも、同罪ではございませんか?」
確かにあそこにいる令嬢たちも、私の悪口を言いふらしていた。
「確かに彼女たちも、セーラに関するよくない噂を積極的に流していたのは事実だ。その件に関しては、後日再び貴族裁判にかけるつもりでいるよ」
ワイアーム殿下が傍聴席にいた令嬢たちに向かって、にっこり微笑んでいる。でも、目は笑っていない。
「そんな…私はただ、レイリス様の為を思って…」
「そうですわ、レイリス様は公爵令嬢ですもの。私たちが、逆らえる訳がございませんわ」
「その割には、楽しそうにセーラの悪口を言いふらしていたね。君たちが事実無根の噂を流していた証拠は握っているから、覚悟しておいて欲しい。それから…」
ワイアーム殿下が、真っすぐレイリス様の方を向いた。
「君はさっきの証拠を見ていなかったのかい?君がクレイジー公爵に“マレディア侯爵さえいなくなれば、セーラ様はワイアーム様の婚約者から引きずりおろされるはずですわ。お父様、何とかしてください”そう訴えている音声を流しただろう?要するに君は、遠回しにマレディア侯爵を始末しろと、父親に指図した事になる。この国では、依頼した人も同じ殺人罪に問われるのだよ」
「デイズ殿下の言う通りです。あなたは父親に頼んで、マレディア侯爵を抹殺する様に依頼した。その結果、クレイジー公爵は、君のお願いを聞いた形で、マレディア侯爵を殺害したのだ。私達はこの行為を、殺人罪と判断したのだよ」
「そんな…どうしてですか?ワイアーム様、私たち、あんなに愛し合っていたではありませんか?セーラ様からあなた様を、解放してあげたかっただけなのに…」
ポロポロと涙を流すレイリス様。そんなレイリス様に、そっと近づくワイアーム殿下。
確かにレイリス様の言う通り、ワイアーム殿下はレイリス様を愛していた様に見えた。そもそも私たちの婚約は、お父様が熱望したことで決まったと聞いているし。
「僕と君が、いつ愛し合ったって?君に触れられるたびに、虫唾が走るほど嫌悪感を覚えていたのに…君に近づいたのも、全て君の悪事を暴くため…元々きな臭い噂があったクレイジー公爵家の娘の君が、セーラに何かしないかずっと監視していたのだよ。まさか父親を殺すだなんてね。僕は君が大嫌いだ。君のせいで、セーラはどれほど傷ついたか…そしてあろう事か、海に…あの男がいる海に…」
「殿下!いけません、落ち着いて下さい!」
ワイアーム殿下の銀色の美しい髪が逆立ち、エメラルドグリーンの瞳が赤色に変わっている。彼を取り囲むかのように、小さな竜巻が吹き荒れたのだ。
これが伝説の…
「イヤ…助けて…ぎゃぁぁぁぁ」
レイリス様が泡を吹いて気絶してしまったのだ。その瞬間、竜巻はおさまり、殿下の瞳もいつもと同じ、エメラルドグリーンに戻った。
「申し訳ございません。少し感情的になってしまいました」
正気に戻ったのか、ワイアーム殿下が皆に向かって頭を下げた。ただ、あまりの迫力に、傍聴席の貴族たちはもちろん、裁判長たちも口を開けて固まっている。
それでもすぐに我に返った裁判長が
「既に判決が出ました。速やかにクレイジー公爵とレイリス嬢を地下牢へ連れて行きなさい」
裁判長の指示で、クレイジー公爵と意識のないレイリス様が退場していく。レイリス様、大丈夫かしら?レイリス様は白目をむき、泡を吹いたまま担いでいかれたのだ。
レイリス様のあまりにも衝撃的な姿に、まだ皆が口を開けて固まっている。
「それではこれにて閉廷いたします。皆様、お疲れさまでした」
お疲れ様と言われても、あまりにも衝撃的な姿を目撃してしまった私たちは、その場を動く事が出来ない。
「マレディア侯爵様、セーラ様、本日はお疲れ様でございました。私どもも退場いたしましょう」
マーラに促され、一足先に法廷を後にしたのだった。
次回、ワイアーム視点です。
よろしくお願いします。